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星色Tickets(ACT2)_SCENE18

※共通(シナリオ分岐あり)

//背景:喜多川書店_夕方

志那「最近元気ありませんね」
恭司「……」
志那「今日は恋愛もののライトノベルですか。昨日読んでいた阿刀田高はもう読み終えてしまったんですか?」
恭司「……」
志那「もしもーし先輩」
志那「……むぅ。無視ですかそうですか」

視界が真っ暗になり俺は我に返った。

志那「だ~れだ?」
恭司「喜多川書店店長代理の可愛い後輩」
志那「……先輩って、ラノベ主人公みたいな臭い台詞を平然と言いますよね」

はぁと背後で漏れ出たため息が耳をくすぐり視界が開ける。

志那「演劇の本はもう読まなくていいんですか?」

かくして俺の目に映るのは、見慣れた書店の風景と、見慣れたポニーテールの可愛い後輩。

時刻は十九時ちょっと手前。今日も今日とて喜多川書店は閑散としていた。

恭司「うん。もう必要ないから」

演劇サークルが瓦解してから三日が過ぎた。

隣に住んでるすももはともかく、藤沢や雛鳥とは顔を合わせていない。

たった三日会っていないだけでこうも不安が込み上げるのは、ふたりと過ごす放課後があたりまえになっていたからだろう。

藤沢は、俺につけられた心の傷を癒して立ち直っているだろうか。

雛鳥は、おどおどせずに胸を張って過ごせているだろうか。

……なんて、どれだけふたりに固執してるんだ俺は。

志那「ふぅん。夏の夜の夢から覚めてしまったってわけですか」
恭司「夏の夜の夢か。……まさしくその通りだな」

一夜の夢物語のように輝かしい時間だった。

恭司「みんなと演劇したかったなぁ……」

最強の陣営だった。

藤沢の脚本、雛鳥の演劇。それだけでも充分なのに、すももが素人とは思えないほど技術を磨いてくれて、先輩のバックアップがあって、音響はネットでも知名度のある門田と編集の才に恵まれた久松が担当してくれて、衣装も家庭部が手を貸してくれて……

こうやって振り返ってみると、なにもないゼロの状態からよく頑張ったよな俺。

毎日毎日、バイトしてさ。

人脈を広げるために、先輩後輩問わず声を掛けまくってさ。

志那「先輩……」

頑張ったんだけどなぁ。

本気だったんだけどなぁ……

志那「……先輩、明日駅前のスイーツ店に行きませんか?」
恭司「ん、明日ってこの店定休日だっけ?」
志那「どうせ誰も来ないので、いつ定休日にしても問題ないです。それに今の店長は私なので」
恭司「はは、店長権限ですか。そんなに駅前のスイーツ店行きたかったの?」
志那「はい。ずっと先輩と行きたいと思っていました」

//分岐:志那ルート時のみ再生

志那「……私じゃだめ、ですか?」

志那ちゃんがここまで気持ちに素直になるなんて珍しいこともあるもんだ。

恭司「うん、いいよ」
志那「やったっ」
恭司「けどいいの? あの店カップル限定だから、そういう関係だって思われるよ?」
志那「それがなにか問題でも?」

志那ちゃんといい、先輩といい、可愛い子ほど恋愛を意識しないこの法則はいったいなんなんだ?

//共通

志那「約束ですよ先輩? 破ったら解雇処分ですから」
恭司「うわぁ~パワハラだぁ~」

//分岐:志那ルート時のみ再生

志那「……やっぱり私じゃだめなんですか?」
恭司「あ、ごめん。冗談だよ冗談。そんな泣きそうな顔しないで?」

ふるふる手を振りながら弁明すると、志那ちゃんはむっと頬を膨らませた。

//共通

志那「本棚掃除してきてください。三分以内に終わらなかったら先輩はクビです」
恭司「それは正真正銘パワハラなんじゃないかな?」

などと不満を垂れつつも、志那ちゃんの目が本気なので、ぽんぽんと三脚を持って奥の棚に移動する。……このぽんぽん、正式名称なんて言うんだろ?

恭司「……演劇したかったなぁ」

本棚掃除をしていると、無意識にそんな言葉が零れ出た。

どうやら俺は、自分が思っている以上に未練を感じているらしい。

けど、いつか先輩が言ったように情熱だけでは夢が叶わないのが現実。

だから、これは当然の末路だ。これまでの日々は、きっとパックに見せられた幻なんだ。

恭司「……あれ?」

不意に視界が上下に揺れ動いてることに気づいた。
 
地震か?

けど、三脚は安定しているし、本棚から本が落ちてもいない。

恭司「……んだよ、これ……」

がしゃんと大きな音が店内に響き渡る。少し遅れて全身がずきずきと痛む。

三脚から落ちたのか俺?

志那「すごい音がしましたけどだいじょ――先輩!? 先輩しっかりしてください!」

遠くから志那ちゃんの声がするが、景色が霞んでいてなにも見えない。

志那「先輩っ! 先輩っ!」

//分岐:志那ルート時のみ再生

志那「や、やだよぉ、先輩がいなくなったら私ひとりぼっちに……」

//共通

恭司「……あぁ、満点の星だ」

目の前に広がる星々は、俺の無意識が創造した幻だろう。
 
手を伸ばせば届く距離にある数えきれない星々。
 
けれども、その星色の海は、俺の手では触れることも、掬いあげることもできなくて。

志那「……ふぅ。落ちついて落ちついて。大丈夫、救急車を呼べば先輩は助かる。番号は――」

それでも何度も何度も諦めずに星に触れようとして……

恭司「ちくしょう……」

ついに星に触れられないまま、俺はまどろみの中に落ちていった。

………。

……。


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