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「悪役令嬢バトルロワイヤル」_第1話

〇モモプリアの自宅前

中世ヨーロッパ風の街並み。

モモプリアの手を取り、片膝を地面につけるルードヴィヒ。後ろには白馬。

ルードヴィヒ「僕と結婚してくれませんか?」
モモピリア(M)「いつか白馬の王子様が迎えにやってくる。そんな夢を幼い頃に抱いていた」

モモプリア「貴方の周りには無数の宝石があるはずです。なのに道端に転がる石ころを選ぶのですか」
ルードヴィヒ「仮に世界がそう定義しようとも、僕から見れば世界で一番美しい宝石だ。その宝石があまりに眩しいものだから、他の宝石は目に入らない」

ぼっと赤面するモモプリア。
モモプリア(M)「だけど成長して理解した。平民である私の元に白馬の王子様がやってくることはないって」

きゅっと服を掴むモモプリア。ルードヴィヒの着る煌びやかなものとは異なり、素朴な服である。

ルードヴィヒ「僕では役者不足かな?」

小さく口を開けるモモプリア。

きゅっと唇を引き締め、

モモプリア(M)「そんな常識に言ってやりたい」
モモプリア「(涙を堪えながら満面の笑みで)いいえ、私でよろしければ」
モモプリア(M)「そんな奇跡も、人生では起こりえるのだと」

〇モモプリアの家

モモプリアの母「(泣きながら)まさかうちの娘が公爵様に嫁ぐことになるなんて……」
ルードヴィヒ「私ではご不満でございますか?」
モモプリアの母「そんなまさか! 娘をよろしくお願いします!」

ふたりのやり取りを微笑ましく見守るモモプリア。
モモプリア(M)「きっかけは半年前――」

モモプリアの暮らす街には貴族と平民が8対2の割合で暮らしている。そのため物価が高く、平民の多くは自給自足の生活を送っている。足りない分は月に一度の配給で補っている。

配給食に集る民衆。

お隣の悪役令嬢「公爵様、今夜私とディナーでもいかがですこと?」
ルードヴィヒ「申し訳ないけど今夜は既に先約があって…」

配給食に集る民衆に目を配るルードヴィヒ。
お隣の悪役令嬢「そこをなんとか。…ひとり招待したい客人がいるのですが」
ルードヴィヒ(M)「この街も供給不足か。皇帝に進言しておかなければ」

ふと目をやるルードヴィヒ。

遠目に民衆を眺めるモモプリアがいる。

ルードヴィヒ「失礼」
お隣の悪役令嬢「あっ、待ってくださいまし!」

お隣の悪役令嬢を退け、モモプリアの元へ。

ルードヴィヒ「食糧が欲しくて来たのではないのか」

配給の馬車を見つめたままのモモプリア。
モモプリア「はい。けど、今はまだその時ではないので」

目をやり、ハッとするモモプリア。

深々と頭を下げて、
モモプリア「こ、公爵様! 申し訳ございません! 挨拶もなしに!」
ルードヴィヒ「気にするな。それでその時ではないとはどういうことだ」

モモプリア「…えっと」
馬車の下を指差すモモプリア。

モモプリア「あの馬車の下。じゃがいもが転がっているのが見えますか。あれは最後まで誰にも獲られないんです」

民衆が去る。

民衆が去った後にじゃがいもを回収するモモプリア。おまけでにんじんも回収できてほくほく顔。

モモプリア「こうすれば穏便に回収できるんです」

ドキッとするルードヴィヒ。
ルードヴィヒ(M)「なんだこの感情は…」

収穫のない子どもを目にするモモプリア。手に入れたばかりのじゃがいもとにんじんを渡す。

ルードヴィヒ「いいのか?」
モモプリア「よくないです」
まったく困ったなぁという顔。

ふっと笑んで、
モモプリア「けど、私が我慢すればあの子たちに幸せを届けられますので」

ぽかんと口を開けるルードヴィヒ。

ルードヴィヒ「…名前は」
モモプリア「え?」
ルードヴィヒ「名前はなんと仰るのですか」
モモプリア「な、何故敬語なんですか?」

モモプリア(M)「それがルードヴィヒとの出逢いだった」

モモプリア(M)「それから何度か落ち合って…」

オシャレなカフェでガチガチのモモプリア。
ルードヴィヒは普段通り。

湖でボートを漕ぐモモプリアとルードヴィヒ。
不意に顔が近づき、驚いたモモプリアが落ちそうになる。

モモプリア(M)「気がつけば私は恋に落ちていて…」
抱き寄せるルードヴィヒ。恋する乙女の顔をするモモプリア。

モモプリア(M)「それは相手も同じようで…」
ルードヴィヒ「僕と結婚してくれませんか?」
冒頭の場面。

モモプリア(M)「私は公爵様に嫁ぐことになった」

〇街

買いもの帰りのモモプリア。鼻歌を歌っている。ルードヴィヒから金銭をもらっているため生活金が潤っている。
モモプリア「あと三日かぁ~」

ルードヴィヒ「盛大に結婚式を執り行いたい。三日ほど待ってくれないか」

モモプリア「公爵王妃…えへへ~、急に出生だなぁ」
??「いいご身分ですわねぇ~」

背後を振り返るモモプリア。
嫉妬と寂しさの入り混じった微妙な表情をするお隣の悪役令嬢がいる。

モモプリア「ご無沙汰しております。令嬢様」
お隣の悪役令嬢「ごきげんよう」

お隣の悪役令嬢「ルードヴィヒ公爵との婚約を三日後に控えた今のご心境はいかが?」
モモプリア「…天にも昇る心地でございます」

モモプリア(M)「同じ日に同じ地域で生まれた彼女」
モモプリア(M)「しかし私と彼女が歩んできた人生はまるで違う」

お隣の悪役令嬢「(無感情のまま)そう」
モモプリア(M)「けど、劣等感に苛まれる日々とももうおさらばだ」

顔を上げるモモプリア。

悪い笑みを浮かべる。
モモプリア(M)「だって私は、直に公爵の王妃になるのだから」

モモプリア「令嬢様こそ、ただの平民である私にアプローチをかけていた男性を奪われるのはどんな気分ですか?」
お隣の悪役令嬢「っ……!」
動揺するお隣の悪役令嬢に顔を近づけるモモプリア。

モモプリア「ねぇ教えてくださいませ。財力、容姿、共に劣る私に敗北を喫した令嬢様の今のお気持ちを私は知りたいんですの」
お隣の悪役令嬢「わ、わかりましたから、少し離れて…」
ますます顔を近づけるモモプリア。
お隣の悪役令嬢の顔が火照っていく。

モモプリア「公爵王妃になる私の意見が聞き入れられないと言いますの?」
お隣の悪役令嬢「…ち、近いよぉ…」
顔を紅潮させてそっぽを向くお隣の悪役令嬢。
モモプリアは一矢報いることができたことに笑む。

その笑顔に耐えきれず(恋愛衝動的な意味合いで)、お隣の悪役令嬢は魔法を行使する。

地面に魔方陣が浮かび上がる。

辺りが光に包み込まれる。

モモプリア「くっ…」

閉じた瞳を開くモモプリア。

??「いいご身分ですわねぇ~」

そこには悪役令嬢がいる。
ざっと見積もって二十人ほど。

悪役令嬢A「全部聞かせてもらいましたわ。貴方、まだ婚約していないのに少々お高く留まりすぎではないですこと?」
悪役令嬢B「なにがどうなっていますの? 誰か説明してくださいまし」

情報交換する悪役令嬢たち。

そんな彼女たちをモモプリアはぽかんと眺めている。
モモプリア(M)「どうしてこうなった?」

悪役令嬢C「わたくし、彼女にお仕置きしたいですわ。それもとっておきの」
指を差して言われ、モモプリアは動揺する。

悪役令嬢D「ではここは代表としてわたくしが」
悪役令嬢E「いいえ、ここはわたくしでしょう。魔力を制限できない貴方にまかせるのはいささか不安です」
悪役令嬢F「でしたら、貴方より魔力量の多いわたくしが適任でしょう」

揉め合う悪役令嬢。

そっと抜け出そうとするモモプリアだが魔法で拘束される。

悪役令嬢G「いっそ皆様で袋叩きにするというのはいかがでしょう」
モモプリア(M)「死んじゃう死んじゃう!」

あわあわ震えて涙目になるモモプリア。
名案を閃いたとばかりの顔をする。

モモプリア「で、でしたら、私を虐める権利を巡ってバトルロワイヤルをするというのは如何ででしょう?」
モモプリア(M)「噂によれば令嬢様たちは血の気が荒いらしいし」

乗り気な悪役令嬢たち。「ひさしぶりに身体を思い切り動かしたいですし」なんて言っている。

悪役令嬢H「皆様、協力して結界をかけますわよ」

ドーム型の魔力結界が完成し、誰も抜け出せなくなる。

さらに魔法で即席の闘技場が建設される。

モモプリア「は、はは…」
引き攣り笑いをするモモプリア。

モモプリア(M)「こうして私を虐める権利を巡るバトルロワイヤル――悪役令嬢バトルロワイヤルの幕が開けたのです」

第1話 了









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