今話題の「コトづくり」に小学生が挑戦?!〜体験デザイナー(なりきりラボ#18)〜
家族でゆく旅行、遊園地での特別な週末、友達と盛り上がるゲーム・・・私たちが普段なにげなく体験しているあらゆるものごとが「デザイン」されるこの時代。最近では「モノづくりからコトづくりへ」「UX(User Experience)デザイン」など、体験にまつわるバズワードも次々と生まれています。
そこで今回は子どもたちにも身近な"イベント企画"を切り口に、体験=目に見えない感情を相手に届けるコツを伝授!あの人をあっと驚かせたい、この人を楽しませたい、そんな願いを形にする授業です。
※本記事は、小学生向け探究学習プログラム「なりきりラボ®」「おしごと算数®」(グッドデザイン賞受賞)の各テーマを紹介するシリーズ記事の一つです。
<プログラム開発者、いわたく&すぎちゃんに聞きました!>
ー 「体験デザイナー」という職業を耳にするのは初めてなんですが、どんな仕事ですか?
いわたく:「なりきりラボ・おしごと算数」シリーズでは、これまで数多くのデザイン領域を扱ってきました。グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、そしてファッションデザインなどですね。いわゆる「モノのデザイン」は大分カバーしているんじゃないかと思います。
でも、まだアプローチできていない領域が一つあって。それが「コトのデザイン」、つまり体験デザイナーの仕事です。音楽ライブや屋外マーケットなどのイベント企画はもちろんのこと、私達の何気ない日常生活 〜スーパーマーケットでの買い物や公共交通での移動、カフェでのひとときなど〜 もその範疇に入ります。
ちなみにこれはプロのデザイナーでなくても、生活する私達一人ひとりが自然とやっていることでもあるんですよね。休日をどう過ごそうとか、あの人の誕生日をどう祝おうとか、自分や誰かを喜ばせるためにあれこれ考えを巡らせたことはありませんか?それも、ある種の体験デザイン。
また、体験デザインに似た言葉で【UX=User Experience=ユーザーエクスペリエンス】というものがあります。これはどちらかというと、モノや仕組み・サービスの利用を通じて人々がどんなことを体験するか、という考え方。近年製造業からサービス業までさまざまな現場で必要になってきている比較的新しい職種が、UXデザイナーなんです。プロダクトデザイナーやサービス開発者が兼務していることも多いのですけれどね。
ということで、今回のプログラムではさまざまな角度から「体験をデザインする」という仕事に迫ります。なかでも子どもたちが挑戦するのは、いわゆる「イベント会社」が手掛けるような企画づくりです。
すぎちゃん:言葉で説明してもピンとこないと思うので、授業では「そもそも体験デザインってなんだろう?」ということをさまざまな事例から感じ取ります。商業施設からオンラインゲームやアプリまで、モノやサービスに潜む"体験"という要素に目を向けていくんです。
定番のクイズに加えて、子どもたちが参加・体験できる4つのオリジナルイベントを用意したのもポイントですね。作り手になる前に自ら受け手になることで、体験デザインの要となる「参加者/ユーザー目線」を養ってほしいなと。
ー 授業中に子どもたちがイベントに参加する、ということですよね?どんなことをやるんでしょう?
すぎちゃん:そうそう、毎回講師がいろんな見世物をやる感じ(笑)。
例えば初回に行うのは、カップ麺の新しいパッケージをつくるワークショップ。よくあるガラス工房体験や焼き物体験の模倣というか、「初体験に挑戦する企画」です。第2回は一言でいうと「脱出ゲーム」。さまざまなミッションをクリアしてゴールにたどり着く、というものですね。
第3回の「紙飛行機の飛ばし方コンテスト」は身の回りの遊びをアレンジしたもの、最終回となる「レクリエーションパーティー」はさながらバラエティ番組のようと、同じ体験でも少しずつアプローチや仕立てが異なる種類をピックアップしました。
これら4つの、あえて作り込みすぎずに不完全な要素を残した企画を体験してもらうことで、子どもたちにその裏側を深く考察・分析してもらうんです。対象者がお年寄りだったらどうだろう?とか、こうアレンジしたら面白いんじゃないか?とか、イベントをよりよくするための思考を巡らせてほしいんですね。
いわたく:受け手になりきることで「体験デザイン」のコツを体得したら、今度は自分が作り手になる番。普段は個々人で作品づくりに取組むことが多いんですが、今回はチーム戦でオリジナルイベントの企画運営に挑戦します!
というのは世の中のイベントも、企画・会場運営・受付・司会など多岐にわたる分野からプロが集まって作り上げるから。役割分担やチーム内連携など、チーム・プロジェクトならではの学びも得てほしいですね。
ー みんなで一つのことに取組むのは楽しそうでもあるけれど、それなりに苦戦も予想されますよね(笑)。大人の世界でもそうだと思いますが、協働には揉め事がつきもの。
いわたく:まぁ、トラブルも含めて学びですよね(笑)。誰かと働くことをとおして、自分の得意・不得意が肌で感じられるんじゃないかな。
すぎちゃん:むしろ「チームでなにかを成し遂げるのはそう簡単なことじゃない」というのが今回プログラムの裏メッセージです(笑)。チーム内で何度もシミュレーションとフィードバックを繰り返しながら、このまま本番を迎えても大丈夫かな?(汗)と緊張感をもって取り組んでくれるといいですね。
ー これを経てまたひとつ、子どもたちが逞しくなりそうですね〜。いっそのこと、これまではスタッフが企画していた夏祭りとかクリスマス企画を任せちゃいたいかも(笑)
すぎちゃん:たしかに、授業の中のシミュレーションで終わらず、子どもたちがやってみたいことを教室という場を使ってどんどん実践してほしいですよね。
ちなみに、私達が普段取り組んでいる授業設計も「体験デザイン」の一種なんです。社内ではLXデザイン(LX=Learning Experience=学び体験)と称しているくらい。だから、体験デザインの目を養った子どもたちにダメ出しされる日はそう遠くないかも・・・(笑)
ー たしかに、ワークショップ・デザインという領域もありますしね。ちなみに、今回子どもたちがどんな体験を生み出したら "いい体験" だなっていうイメージがありますか?
いわたく:うーん、体験そのものにいい・悪いはないんじゃないかな。ただ、体験の意図や目的はどこにあるのか、それを実現できるデザインになっているかという点は大切にしてほしいなと思っています。例えば、「え、そうだったの!」と驚かせたいのか、「なるほどー」と深く納得させたいのか、思考の沼にはまってとことん考え込んでほしいのか。
イベントを企画運営してなんとなくいい感じで終わった、ではなく、当初意図した体験を届けられたかどうか、きちんと振り返ることができるように試行錯誤を繰り返してほしいですね。そのためには綿密な企画と準備が肝となります。
すぎちゃん:私もそこは完全同意ですが、一方で体験の偶発的・即興的な側面も楽しんでほしいと思っています。体験デザイナーの思惑通りに進行するのが全てではなく、予想外のハプニングがいい味付けをしてくれることもあるからです。丁寧な事前準備と、現場の想定外をプラスに変える運営と、そのどちらもが大切で結局は塩梅なんだと思います。
いわたく:私達の授業がまさにそのいい例で。子どもたちに体験してほしいドキドキやワクワク、試行錯誤や成長のデザインはあるけれど、それをより一層ユニークで特別なものにするのは子どもたち一人ひとりの反応。こればかりはやってみないとわからないし、だからこそ同じプログラムでもクラスごとに出来上がる場は全く違う。そういう体験者のリアクションが加えられて初めて完成するような「余白のデザイン」まで考えられるようになると、かなり上級者ですね!
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