見出し画像

生存基盤を崩す前時代的な開発の見直しを抜きに、持続可能な社会は実現しないのでは。

霞ヶ浦流域(約2200平方キロメートル)では、茨城県や国が進める開発事業が数多く行われていますが、それらによる霞ヶ浦への影響は予測評価されていません。例えば、県が流域全域で進めている道路網では、湖の水源となる森林や谷津田などが失われ、多くの水系が分断されます。(自然環境だけではありません。道路建設によって生活道路が分断され地元住民が利用できなくなったり、地域が二分されるなどの影響も出ています。)持続可能な社会に向けて変革が求めらている今、経済成長期に立案された開発が見直されることなく進められ、湖を支える生態系や健全な水循環が失われる恐れが生じています。

しかし、道路や沿線開発による環境影響評価は、それぞれ個別に限定的に行われ、流域全体で実施される開発による霞ヶ浦への環境影響評価は一切行われていません。それどころか、本来一体である事業をあえて分割して実施し規模を小さく見せ、アセスを回避することまで行われています。

高度経済成長期に環境への配慮もないままに計画された道路網などの大規模開発計画が、霞ヶ浦流域のみならず全国各地で継続されています。そもそも既存のインフラの維持管理費用さえ将来の確保が心配されている状況で、道路等のインフラを造り続けていって大丈夫なのでしょうか。私たちの生存基盤を突き崩すような前時代的な開発事業を転換しなければ、持続化な社会やSDGsをお題目のように唱えても、将来の危機は回避できないのではないでしょうか。

このような状況を踏まえ、アサザ基金は県の姿勢を変えるよう求めて要望書を提出しました。

霞ヶ浦の保全再生に向けて道路行政の見直しを求める要望書

茨城県知事 大井川和彦  様
2022年7月25日                                      認定NPO法人アサザ基金
                       代表理事   飯島 博 

 持続可能な社会を構築していくためには、地域全体を支えている繋がりを大切に守っていくことが不可欠です。地域を支える重要なつながりの一つに、水系、つまり水の道があります。水質など多くの課題を抱えている霞ヶ浦においては、水系の保全が重要なテーマとなっています。

霞ヶ浦の流入河川は56本あり、その大半は中小河川です。それらの流入河川には数多くの支流があり、上流には谷津田と呼ばれる樹枝状の水系があり、それらが網の目のように流域全体を覆っています。

霞ヶ浦は、まとまった山地から大型の河川が流入する湖沼とは異なり、その水源が流域全体に分散し、きめ細かなネットワークとなっていることが大きな特徴です。まさに、流域全体が水源地なのです。

霞ヶ浦の保全再生の実現には、流域全体に広く分布する水源地を包括的に保全していくことができるかが大きな鍵となります。特に、水源地の主要な要素である森林面積は、流域面積の2割弱と極めて少なく、このまま森林を減少させていけば、湖の健全な水循環が維持できなくなります。

私たちは、流域に計画されている道路網が、これらの水源地に及ぼす影響をたいへん懸念しています。現在行われている道路計画や実際の建設にあたっては、残念ながら霞ヶ浦流域に分布する水源地や水系を保全するという視点が見られないからです。

そのような中で、道路建設によって霞ヶ浦の水源地や水系が分断されるという事例が、すでに数多く生じています。このまま、霞ヶ浦への包括的な影響を無視した道路網建設が進んで行けば、湖を支える健全な水循環が失われ、霞ヶ浦再生の道が閉ざされてしまいます。

生物多様性の保全は、今や国際的な重要課題となっています。霞ヶ浦流域の水源地、取りわけ谷津田やその周辺の里山は清らかな水が残されている数少ない地域として、数多くの生物、特に絶滅の恐れのある動植物の貴重な生息地となっています。これらの水源地は、生息地を追われた生物たちの最後の拠り所となっています。

茨城県は生物多様性保全の視点から、道路計画を立案する際には水源地周辺への建設を避け、すでに計画立案された路線についても、水源地が含まれている場合には、その影響を評価し、計画の見直しを行うべきです。

しかし、茨城県の道路行政は、環境保全を重視する今の時代に逆行しています。現在計画中の道路の中には、一本の道路を何区画かに分け、環境アセスメントを回避する方策がとられているものがあるからです。すでに建設中の道路においても、水源地保全のみならず生物多様性や水環境(地下水脈の分断等)への影響が無視されたまま、霞ヶ浦水系に重大なダメージを与える工事が次々と行われています。

世界中が持続可能な社会を目指しSDGs等に取り組んでいる今日、本来行うべき環境アセスメントさえ行おうとしない道路計画をそのまま推進することは到底許されません。制度のみならず道路行政の抜本的な見直しが必要です。

私たちは霞ヶ浦の保全再生に責任を持つ茨城県に対して、早急に既存の道路計画を水源地と水系保全という視点で検証し、高度経済成長期に大幅な人口増加等を見込んで立案された道路計画の抜本的見直しを行うと共に、県の事業全体について環境を重視する21世紀型へと大きく転換するよう求めます。

以上の要望について、2022年8月25日までに、文書にてご回答ください。

茨城県知事からの回答(8月24日)  

道路は県民の日常生活を支えるとともに、災害時の緊急輸送や救急搬送の役割も担う、重要なインフラです。

道路計画に際しては、道路の沿線の生活環境や自然環境を保全し、良好な道路環境を創出していく必要があると認識しております。

環境影響評価(環境アセスメント)につきましては、国において、環境影響評価法が施行され、県においては、法律との整合を図ることや環境影響評価の推進を図るために、環境影響評価条例を施行し、法律や条例に基づき適切に対応しております。道路の整備にあたっては、自然環境保全の重要性を踏まえ、適切な対策を講じるよう努めております。(茨城県土木部・道路建設課)

残念ながら、茨城県は自ら進める流域開発による霞ヶ浦への影響については全く考慮していないようです。

環境影響評価条例を施行し、法律や条例に基づき適切に対応しているそうですが、実態はこれまで述べてきた通りです。流域の環境を大規模に改変する事業を行いながら、霞ヶ浦への影響は予測さえ行われていない、それが実態です。

霞ヶ浦流域での開発を総合的に環境影響評価するための条例も必要です。アサザ基金では、今後、このような提案も行っていきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?