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【推し本】心の傷を癒すということ(安克昌)、そして師の中井久夫

1995年1月17日の夜明け前、阪神大震災が起こりました。

これは神戸大学附属病院精神科に勤めていた安医師の生前唯一の著作。NHKのドラマにもなりました。
震災が起こる前から精神科医として患者を診ていた安医師ですが、災害下での心的外傷やPTSDからの回復に寄り添う眼差しはひたすら穏やかで温かい。

震災から時間が経つにつれて問題は複雑に慢性的になっていく。
震災の影響なのか、そもそもの家庭が原因なのかだんだんと判別しがたくなってくる。

なぜ私に震災がおこったのかとの問いが被災者に渦巻いている。
(略)
苦しみを癒すことよりも、それを理解することよりも前に、苦しみがそこにあるということにわれわれは気づかなくてはならない
だがその問いには声がない。それは発する場を持たない。
それは隣人としてその人の傍らに佇んだとき、はじめて感じられるものなのだ。

自然災害は、時・場所・人を選ばない。しかし、その影響は弱者をより追い詰めます。その後の東日本大震災でも、COVIDでも複層的な要因を重ねて心を病んだ人は多かったでしょう。
声にならない小さな声があることを、常に心しておかなければならないと思います。

「心の傷を癒すということ」にも出てくる精神科医の中井久夫さんも、神戸大勤務時に阪神大震災を経験し、その後につながる災害時の精神医療の基礎作りに貢献されました。
中井さん曰く、“精神科医の分際は翻訳家”として統合失調症の患者に寄り添って治療にあたった。社会、文化によって病気が生まれるとあり、意外なことに新たに統合失調症になる人はなぜか急速に減っているらしく、その空いた病床を埋めるのは認知症だろうとのこと。心はどこにあるかと問われた中井さんは、心は人と人の間にあると答える。脳科学が進んでも科学的アプローチだけで治療できるというのは幻想で、社会との関係性で病気を理解しないといけないと。

心の問題は益々大きくなってくるのでしょう。

安さんは2000年に小さいお子さんを遺して40歳という若さでがんでお亡くなりになりました。
2022年にお亡くなりになった中井久夫さんをしのんで特集なども立て続けに出ましたが、最相葉月さんの「中井久夫 人と仕事」についてはこちらにも書きました。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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