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[推し本]失われた賃金を求めて(イ・ミンギョン)

韓国も日本も常にトップ争い(男女賃金格差)とワースト争い(ジェンダーギャップ指数)で傷を舐め合っています。この本は韓国社会の分析ですがほぼ日本でも同じと思えます。
様々な局面で「なんとなく」選ばれる、もしくは据え置きされる効果が長期的に地位および賃金に影響します。「なんとなく」男性がいい年齢で昇進しない方が違和感がある、というような。その「なんとなく」は(女性を含めた)社会に埋め込まれた暗黙の認識が大きく、あえてことさら毎回なぜそうなのかは説明されません。
その結果、本来女性にもっと分配されたはずの賃金はどこへ。

男性より女性の方が能力が劣るというような能力論は、格差を隠すための虚構なので(これについては小坂井敏晶さんの著に詳しい)、原因ではありません。
日本の状況を補足する解説では正社員同士の男女賃金格差(男性100%に対して76.6%)が、非正社員同士のそれ(80.5%)より大きく、短時間の非正社員同士が最も差が小さい(93.3%)。この意味するところは、より長期的な雇用形態かつより昇進ラダーがある中では、日々のジョブアサイン、情報共有、ちょっとした頼み事、定期評価、昇進判定局面での「なんとなく」の積み重ね効果がこれほどの開きを生むということです(もちろんこれにマイクロアグレッションや意図的な差別的行為が乗っかることもある)。「なんとなく」でも機会が与えられることで実績ができて実際の能力強化になるので、「なんとなく」を享受できる側にとっては複利効果にも近いでしょう。

読んでいると、1.01の法則と0.99の法則を思い出します。毎日0.01努力するか怠けるかで365日後には大きく変わるという例でよく使われるものですが、これが自己責任ではなく、他者に「なんとなく」与えられる環境によるとしたら。

-IRで外部発信できるような仕事の手伝いを誰に声かけるか ->1.01

-縁の下仕事だが誰かが片付けないといけない地味な申請作業を誰にやらせるか ->0.99

-役員への報告プレゼン(最初はごく一部でも)を誰に任せるか ->1.01

-役員プレゼンのスケジュール調整を誰にやらせるか ->0.99

こんな感じでしょうか。
あるいは、名前が出る仕事か、よくてありがとうと言われるだけの仕事か。

なぜこの機会はその人に与え、あるいは与えなかったのか、こういう一つ一つが明らかにされないといけない。

なお先進国でも格差が小さいだけで女性の方が上回ることはありません。それでも日本は伸び代が相当大きいはずなのでもっと縮められるはずですし、手を打たないのは政治も経済界も怠慢である以上に、はっきり搾取の構造だともっと訴えないといけないと思います。

そんなところに、2023年のノーベル経済学賞に、男女の賃金格差の要因や労働市場における女性の役割などを研究したアメリカのハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授が選ばれたニュースが入ってきました。
それでも、日本のメディアでの取り上げられ方は控えめに言って、”スルー”に近い。
もっと社会も経済界も政治も、危機感をもってざわつかないといけないと思います。

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