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【書評】「彼方の友へ」伊吹有喜

彼方の友へ

この本はきっと映画化もしくはドラマ化されると思う。まるで朝ドラを見ているかのような作品だった。
戦前戦中を時代に翻弄されながらも、雑誌作りに情熱を注ぐ少女と彼女を取り巻く魅力的な大人たち。
荒波の中で成長し、芽生える友情や愛情の物語。

モノひとつ、言葉ひとつが今よりもずっと尊くて儚くて、そして濃い。
人間の生死さえもガラスのように繊細で脆い時代。だからこそ生を謳歌する人々が気高く、眩しく見える。
物質的、経済的豊かさを享受し、恋愛も友情もネットさえあればあらゆるところにアクセスして手に入る今、それでもなお満たされない何かがこの昭和という時代にあったように思う。

伊吹有喜さんの作品は初めてだったけど、とにかく読みやすくて癖のない綺麗な文章だった。
人物の描き方もとても丁寧で、声が頭の中で鮮明に再生されるようだった。
恋愛や友情、戦争と希望、逆境と勇気、などなど喜怒哀楽と程よいエンタメ感で大満足の作品。
寝る前1時間の読書が楽しみで夜が待ち遠しかった。
個人的に2020年これまでの1番の作品だと思う。

本は結局のところ善し悪しよりも好き嫌いによってしまうものだと思うけど、特にこの昭和を扱った小説(映画やドラマも)が好きなのは、やっぱり、戦争と平和、地獄と天国が共にあった時代だからだと思う。

アカデミー賞をとった「パラサイト」をはじめ、韓国映画やドラマが最近特に人気もクオリティも高いけれど、そこには南北の問題や、貧富格差の問題が大きなテーマとしてあるからなのではと感じる。
大きなテーマやコンセプトがあるとストーリーが重厚になって芝居にリアリティが生まれるのかもしれないと最近思うようになった。

翻って日本のドラマや映画が、どこか芝居がかって、オーバーなリアクションだったり、演出がかった決め台詞があったりするのは、平和で変化の乏しい日本に今、そういう多くの人に通底する問題やテーマがなく、過剰演出によって補われているからかもしれない。
ところが漫画やアニメなど、特にファンタジーの世界では、例えば進撃の巨人のように物語の世界に大きなテーマを組み込めるので、世界的な人気を誇るコンテンツになり得る、とも考えられる。

抑圧や逆境の中にこそ感動的なドラマが生まれるのだとしたら、日本は今とても平和で、退屈だ。

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