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桜の咲く頃に

もう、桜の咲く頃にこの世にいるのは難しいと医師から宣告されていた。

冬の木枯らしを見つめながら、夜中になると怖くて眠れない日々が続いた。

私の誕生日は、夏の最中。その頃には、もう、この世に居ない……

だから、冬の寒さが沁みるクリスマスに、最愛の人に会った。笑って別れを告げるために、目いっぱいオシャレして、彼が予約してくれた高級レストランで、シャンパンで乾杯した。

「あなたと会うのは、今日で終わりにしましょう。私は、やりたいことを見つけて、これからそれに向かって猛勉強するの。もうあなたとこんな風に時間を費やす暇はなくなる。」

一瞬の沈黙の後

彼は、微笑んで言った。

「やりたいこと、僕に応援させてくれないの?もう付き合って5年。明日香の体調の悪さを僕が気づいてないと思う?」

私は、心を見透かされたような微妙な不安が消えるような錯覚に襲われた。

知らず知らずのうちに涙が溢れるのを抑えられくなった。

私は、勇気を振り絞った。彼に何もかも打ち明ける。

優しいピアノがジャズを奏でる中、彼は言った。

「結婚しよう!家族になろう」

「私は、数ヶ月後に死ぬの……普通に考えたら、もうここで終わりにした方が、2人はきっと幸せになれる。」

私の言葉を遮るように彼は言った。

「明日香が明日死んだとしても、僕は明日香と共に居るよ。いや、違う!桜の咲く頃にも暑い盛りの花火大会も、一緒に観る!明日香と誕生日を共に迎える。」

うふふふふ、なんだかおかしくなった。

彼には悪いが、運命は、変えられないのだ。

だから、私は、言った。

「もしも、桜の咲く頃にに私が生きていたら、その時は、結婚しましょう!」

彼は不服そうな顔をしたが、私の決意は変わらないと悟ったらしい。

「わかった。それまでは、これまで通り、いや、これまで以上、楽しい時間を過ごそう。」

その後、私は、即入院、苦しみの化学療法を受けることになる。楽しい時間など何もない。はずだった。

吐き気と

嫌悪感が日に日に強くなった。

髪の毛は、日に日に薄くなったそしてある日ツルリと輝く月の光に照らされた。自分を鏡で見た。

「なんて美しいんだろう!」冬の夜空には綺麗な、オリオン座が見えた。私もいつかあの星の1部になるのだろうか ?頭をを撫でながら、私にとって死は、怖いものではなく愛を感じるものへと変わっていた。彼は仕事が終わるとすぐ見舞いに来て面会時間ギリギリまでいて帰って行く。ほんの数時間一緒に過ごすだけ。

年を越して、あっというに梅の時期になる。

2月になって、彼が面会にくる回数が、極端に減った。LINEにメッセージが来る度に「ごめん!忙しくてなかなか会いに行けない」

と、何日も同じ文面が来るだけだった……

化学療法の成果で、胸の腫瘍が小さくなったと医師から報告があった。

あと少し小さくなったら、手術を受けることになった。

嬉しくて彼に電話をするが、いつ留守電になっていた。

そして、桜の咲く頃に私は、手術を受けた。私の家族は、成人した娘が一人。今は、地方で、教師をしていた。ずっと母子家庭だった。それでも、今、私の手から離れ立派に暮らす。私の誇りだった。

いま、手術前の病室で、私の手を握る。

「母さん、身体良くなったら、私のところに来ない?」娘は、真剣な眼差しを私に向けた。

「退院したら1人にしておくの不安だもの。」

「祥子、ありがとう。でも、私の身体が、良くなったら、谷さん結婚するの。」

「谷さん?あの人は……」

娘は、口ごもった。

その時、手術の時間が来る。私は、ストレッチャーに乗せられ、手術室のドアをくぐる。娘の最後の言葉が気になったが、麻酔をかけられ意識が薄れていった。

次の瞬間、お腹の痛みと共に、目覚めた。

「腫瘍は全て取りました。念の為もう一度化学療法をしていただきます。それは少し、体力が回復してからということで!」

桜の咲く頃に、私は、一時退院する事となった。

しかし、彼は、姿を見せることはなかった。娘と長く暮らした市営住宅に、ぽつんと座りコーヒーを啜る。

ふと、寂しさで涙がすとーんと流れ落ちた。

ドアを開ける音が聞こえる。

「母さん、ただいま。退院おめでとう。」娘がケーキの箱を持って部屋に入ってきた。

「やっぱり母さん一人にして置けない次の入院まで、私のところに行こう。あの人は忘れた方がいい。」

しかし、不思議だった。何故娘は、彼の事を知っているのだろう。

「私が、なんで谷さん知っているか不思議に思っている?」

「そうね。しかも、名前まで知っているなんて、何故だろうってずっと考えてたの。」

娘は、少し躊躇したが、はぁとひと息ついて、

「彼の息子、私のクラスの子だった。彼の息子少しやんちゃで、進路がきまらなかったの。谷さんは、息子の母とは、随分前に離婚していたそうね。しかし、息子の事があってから元さやに戻ってしまった訳よ。それが丁度2月になって、受験が始まる頃。」

あはははっ「やっぱり赤の他人より血を分けた子供って事なのね。だけど一言言って欲しかったわ。」

「母さんの病気の事を考えていい出せなかったんじゃない。」

「まぁ幸か不幸か命は助かった。桜の咲く頃に私は、生きてる。だから、それだけでいいわ。医師から宣告された時に彼は求婚した。それが生きる希望になったの。万事解決!」

「だから、私のところに行こう!母さんが居てくれると、私美味しい晩御飯食べられる。えへっ!」

「あのぉー私まだ病人なんだけど。」

私たちは、顔を見合わせ笑いあった。

蝉の声が、日に日に大きくなる。化学療法は、少ししんどかったが、その後の経過は、良好だ。7月8日。私も還暦を迎える。娘が、真っ赤なドレスをプレゼントしてくれた。

少し恥ずかしいが、今日は、それを来て、娘家族が還暦を祝ってくれる。

桜の咲く頃に死に損なった私は、今を生きている。

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今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。