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ゆず愛
2020年6月19日 15:23
私がお隣の心中事件を知ったのは、地方の大学で部活動に、明け暮れていた夏の日、隣の家で、ものすごい悪臭が漂い、新聞受けもひと月はそのままで、奥の方から雨水が染み込み、また、その上に新たな新聞が重なり、うちの母が見兼ねて、新聞紙を片付けに行った。玄関のチャイムを鳴らしても、反応がなく、何とも言えない臭いが中から外へ向けて、放出されている。母は、裏口にまわった、昔から、お隣さんとは、家族ぐる
2020年6月19日 21:24
ある朝学校の靴箱の前で、有花ちゃんを見かけた。「おはよう。」と声をかけようとすると、後ろから、クラスメイトに止められる。「やめなよ!あの子に関わるのは。あの子隣のクラスで、はみ出しを食らってる。あの子に関わると、ウチらも狙われてえらいことになるよ。亜子気をつけな。」「だって、お隣の家に住んでて、小さい時はよく遊んだんだよ。」「でも、今はもう友達でもなんでもないじゃん。」「そうだけど…」
2020年6月20日 09:37
中学を卒業し、私は地元の公立高校へ進学した。中学時代に引き続き、バレー部でボールを追いかける毎日。お隣の有花ちゃんは、家に引きこもったままのようだった。時々、カーテンの隙間から、有花ちゃんの姿が見え隠れしたが、あの日以来、一度も家を訪ねたことはなかった。バレー部の厳しい練習と、学業に、精一杯だった。ボールをおいかけ、ボールを拾い次に繋げ、相手のコートにボールを落とす。チームメイト
2020年6月20日 14:46
真夏の太陽は、ジリジリと、アスファルトを照りつける。火葬場で、私達はお骨ができるまで待つ。他人なのだから、別に待つ必要はなかったが、両親は、昔からの付き合いがある。娘は同い年で幼なじみ。だから、最後まで待つと聞かなかった。両親を待合室に置いて、外に出る。喪服は、半袖だったが、汗が流れる。「あ〜家族揃って心中するなんて!馬鹿じゃない?」後ろから声が聞こえる。振り返ると、30代の女性が、
2020年6月21日 13:49
しかし、ただ1つ疑問点がある。有花ちゃんは、屋上から、飛び降りた…なのに、最低ひと月前までは、生きていた。私も中学時代一度顔を合わせたことはないが、襖越しに話をした。「と、私の事はさておき、あなたが、仮に有花ちゃんだったとして、屋上から飛び降りたんでしょ?その時点で有花ちゃんは、死んでるはずなのに、生きてました。一体どういう事なのか説明して貰えません?」彼女は、少し微笑んだ。「そうよね!
2020年6月21日 21:46
「信じてもらえたかしら?」私は狼狽して口をあんぐり開けたまま、言葉がでない。「びっくりさせてしまったみたいね。あっちの世界に飛んだ私は、この世界と、同じような学校、そして、家もあったわ。だけど、そこに住んでいたのは、私の家族にそっくりのアンドロイドだった。つまり、ロボット工学が、ものすごく発達した擬似世界。私は、その世界に生きる希望を見出した。私の他にも時空を超えて飛んできた人がたくさんいた
2020年6月22日 19:30
「これからどうするんです?」私は哀れみな視線を彼女に向けた。「そんな可哀想ってかおしないで!私ね。今、あちらの世界で人影の研究をしてるの。色んな物質で影が出来ないか?動物の影を利用出来ないか?たくさん実験を繰り返したわ。」彼女は、少し遠くを見た。太陽は、少し西に傾き、私の影が少し伸びた。「有花ちゃんは、あちらの世界の世界で科学者になったんですね。凄いなぁ。」「そんな科学者だなんて…ただ影
2020年6月23日 16:28
「幼なじみ。」私は躊躇った気持ちを必死に隠し、笑顔を作って見せる。しかし、彼女にはそんな私の気持ちは、すぐに見破られているようだった。「今、何を今更って思ってるでしょ?そうよね!ただの、幼なじみ。ひととき同じ時間を過ごしただけだものね。あれ以来ほとんど話したこともなかった。私は少し高飛車になってたのかもしれない。亜子ちゃんとは違うのよってね。」彼女は、ため息混じりに空を見上げた。「ただ中
2020年6月24日 11:21
私は、彼女の気持ちを了承した。疑念が消えたという訳では無い。しかし、立場が逆だったら、私もきっと縋る思いで懇願するに違いない。「とりあえず、何をすればいいんですか?お願いを聞くかどうか、それから決める。納得出来なかったら、ことわります。それでも良ければ、話してみてください。」彼女には負い目を感じていたが、やはり何か大変な事に巻き込まれるのではないかと不安でもあった。彼女は、微笑んだ。「
2020年6月24日 19:23
「ありがとう。じゃあいくよ!」彼女は、微笑んだ。しかし、その微笑みの中に黒い闇が見え隠れしているように感じて。私は身構えた。「やめないか!君はいつまで嘘を繰り返すつもりだ。H1002!」後ろから父の声が聞こえて、振り返る。「亜子!その横に居る奴は有花ちゃんなんかじゃない。幼なじみの有花ちゃんは、別世界になんか飛んでない。ずっと自分の殻に閉じこもり、部屋を出るのは用を足すときだけだった。
2020年6月25日 10:31
光の粒子がふわふわと天上に向かっていく。その瞬間、私の耳に声が飛び込んできた。『亜子ちゃん、私はもう一度、亜子ちゃんと話したかった。』それは、もう灰になってしまったはずの有花ちゃんの声。私は自分自身がおかしくなったのではないかと耳に手を押し当てる。その姿を見た父、いや、アンドロイド4986が私の隣で囁いた。「亜子、有花ちゃんはもう居ない。しかし、まだ魂はこの世界にいるあと数分の間な。だから、亜
2020年6月25日 21:26
茜色に、照らされた父はいつもと変わらぬ父の顔だった。しかし、、先程の、激しい闘いの一部始終を目前で見てしまった私は、頭が混乱状態にあった。何か大変な事に巻き込まれたのは間違いない。沈黙は、時間とともに日没を迎えた夜の闇に、私を溶かしてしまいそうだった。「2人でそんなところに突っ立ってないで、早くお骨を集めて家に帰りましょ。役所の人があとはちゃんとお寺に持って行ってくれるそうよ。だから、話
2020年6月26日 23:02
「私もついて行くって、じゃあ私はこの世界でひとりってこと?」「亜子はもう成人している。家を出て一人暮らしもして、打ち込めることだってある。仲間もいる。卒業までの学費と生活費は、通帳に入ってる。もし、どうしても困ったことが出てきたら、あちらの世界に情報が入る。どうしても助けて欲しい時はこの世界に戻って、あなたとと共に生きるわ。だけどね。あなたは、精神的に強くなった。私達が、居なくなっても、困難を
2020年6月27日 22:20
2階の自室は、高校を卒業して、あらからなにもなく、押し入れに、昔の書いた絵や文集などを積み重ねて、束ねてある程度。殺風景な何もない部屋の片隅に、本棚がある。昔は沢山の漫画本が、並んでいたところに、1冊のアルバムを見つけた。埃っぽい部屋の窓を開け夜風に吹かれながら、アルバムを持ち出して座る。1ベージ目、インクで塗って貼り付けた小さい手形と足形。2ベージ目、母に抱かれた猿顔のわたし。「うわぁ不