『BOX 暗い箱』 作者: 作・狩撫麻礼、画・池上遼一
今となっては記憶も朧だが、本書が出版された時分の私は、あまり漫画を読むことはなくなっていた筈だが、多分たまたま書店で見掛け、瞬時に買い求めていたのだろう。
なんたって、原作は狩撫麻礼、作画が池上遼一ときたもんだ。こんな組み合わせを眼前にぶら下げられたら否も応も無いというものだ。
池上遼一が作画を担うのであればこれだ! と、狩撫麻礼が用意したモチーフはボクシングだった。
ボクシングと音楽と遁世は、狩撫麻礼の三大テーマなのだ。
戦後の混乱が収まった頃、昭和三十年代の東京。上野にある田島ボクシング・ジムには、将来を期待されていた吉岡というボクサーがいた。
数日後にはノンタイトル戦だが日本チャンピオンとの試合が組まれていた時、スパーリングで吉岡はマットに沈んだ。スパーの相手は同じジムに所属していた首藤という選手だった。
ラッキーパンチもいいとこ。そう諭すトレーナーだったが、吉岡にとっては気掛かりを残すに十分な出来事だった。
日本チャンピオンに勝った吉岡は、首藤と再度のスパーリングを望んだ。だが、結果は同じことだった。首藤は吉岡を圧倒したのだ。
たまにしかジムに顔を出さない、ろくに練習もしない、8回戦をうろちょろしている別にどうということのない奴。戦績も16戦7勝(5KO)9敗で誰からも期待されていなかったボクサー、それが首藤という男だった。
同じジム、同じライト級の二人。
「吉岡の次には、必ずおまえに世界を狙わせる」
ほくそ笑む会長の目論見はやがて砕け散る。
首藤が起こした女の不始末を咎めに、ジムへ乗り込んできたヤクザたち。ムショ帰りしたばかりの宮古という親分は、会長から首藤の才能を聴くと、意外なことを言い出した。
「チンケな色事は帳消しにしてやろう。俺の息のかかったジムへ移籍して、この吉岡と戦え」
田島ボクシングを後にする首藤。その時、吉岡を振り返り見た首藤の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
何故、この時代設定なのだろうか。
アウトロー然とした首藤は確かに現代的とは言えないが、そればかりではあるまい。
兼ねてから狩撫麻礼は、骨のあるボクサーが全滅してしまったと作品の中で嘆いていた。
現代ではもはやマトモなボクシング漫画など成立しない。暗い動機を胸にリングに賭ける男たち。”あの頃”のボクサーを描きたい。狩撫麻礼はそう思ったのだろうか。
ONCE THERE WAS THE GOLDEN AGE FOR FELLOWS.
かつて男たちの黄金時代があったと、サブタイトルも訴えているのだった。
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