見出し画像

Rambling Noise Vol.80 「LOST CHILD その3」

ところで、アサノさんのお父ちゃんは、戦後には横浜辺りでアメちゃん相手に通訳めいたものとか何やらしていたとかとアサノさんも聴いた覚えは確かあるんだけど、何度も繰り返し話されてもお父ちゃんの昔話など右から左、最後までマトモに聴いた試しがないので実際は良く判らない。

実は、上京して暫くしてしまってからは、帰省時に久々に聴くお父ちゃんの大変な茨城訛りに、アサノさんの翻訳機能が付いていけなくなってしまい、或る程度の量を過ぎるとお話が頭に入ってこなくなってしまうという事情もあったりしたのだ。

兎にも角にも、当時相当嫌な想いをしたのだろう。お父ちゃんはなんだか都会嫌いで、

「東京なんてロクなもんじゃねぇ。田舎が一番だぁ(語尾上がる)」

と口にする偏狭的、保守的な人物であった。だから、アサノさんと気が合うワケもない。


ところがまた或る時、

「東京へ連れてってやろう」

と、やおら言い出し、はぁ?! と訝しるアサノ小学生さんを伴って、国鉄石岡駅へと馳せ参じるや否や、as soon as、常磐線の鈍行列車へと乗車した。


「ホントに行くんだ?!」
と、内心ウキウキ状態のアサノさんは、ただただ通り過ぎる車窓の外の風景を眺めながら東京への到着を待った。
やがて出発してから約一時間半後、常磐線は終点の上野駅へと到着。
さて・・・と身構えるアサノさんに対し、お父ちゃんは席を立つ気配も無し。

「?」

やがて列車は折り返し発車し、上野駅を離れた。
そして、お父ちゃんの手には入場券が二枚握られていた。

おいおい。


普通、親がそうなら反動で旅行好きにもなりそうなもんだが、何故だかアサノさんはその辺りは完全に受け継いでしまった様で、ビジネス以外の旅行に行ったことがあんまり無い。
目的地を決めずにフラっと出かけることはあっても、宿を探したり電車の時刻表を調べるだけでも億劫になってしまう、野暮チンなタイプなのだ。
まぁ、高校の修学旅行をボイコットするくらいだし、そりゃ好きとは言えないですわね、旅行が。
というか、すこぶる問題があったのは協調性の欠如の方か。

うん、偏屈者にはぶらり旅しかそぐわない。


(うん、続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?