見出し画像

#5 元どおりが正解とは限らない

朝日新書781『コロナ後の世界を語る 現代の知性たちの視線』は、2020年夏に発行された本です。朝日新聞デジタル連載を書籍化したものになります。
どの識者からも、非常に意義深い投げかけが為されていて、読んで良かったと思える本だったので紹介したいです。そして私たちは今一度、この混乱の3年間を深く反省する必要があると思います。

在宅勤務が可能な仕事は、「弱者」の低賃金労働に支えられることによってしか成立しないという厳粛な事実だ。今の政治が医療現場や生活現場にピントを合わせられないのは、世の仕組みを見据える眼差しが欠如しているからである。
藤原辰史(歴史学者)p.93
逆に聞くけど、コロナの前は安定してた? 居心地はよかった? ふだんから感じてる不安が、コロナ問題に移行しているだけじゃないかな。こういう時、いつも「早く元に戻ればいい」って言われがちだけど、じゃあその元は本当に充実してたの?と問うてみたい。
五味太郎(絵本作家)p.48


だんだんとわかってきたのは、高齢者や基礎疾患のある人が重症化しやすいということ。対して比較的健康な人は、かかっても無症状が軽症で済むということ。
これはある意味、当たり前のことというか、COVID-19に限った話ではありません。
しかも、軽症者は結局、市販薬で治すしかないので、そういった意味では「コロナは風邪」というのもあながち全く的外れではないように私は感じます。
ただ一方で、感染力の強さは侮れないという意見もあるとは思うし、感染すれば一定期間の自宅待機が求められる以上は、やはり「コロナは風邪」とは言えないかと思いますが……。

それでも日本は「コロナ前」に戻るのにとても慎重です。政治の問題ももちろんあるでしょうが、国民ひとりひとりのレベルでも、必ずしも「コロナ前」をよしとしない何かがあるようにも思います。
それは、感染対策からは、もう異なる次元のもののように思われます。


たとえば、会社の飲み会や社員旅行がなくなったのは、むしろ歓迎する声も少なくないようです。
会社への出社日数も、減ってなお仕事ができるのであれば、ずっとテレワークの方がいいという声もあるでしょう。
人と会うことが暴力であった時代、会わなくても済む仕組みが生まれてきたことは、人と会うことが苦手だった人にとってはむしろ、好機になったとも言えそうです。
今ホットな話題、マスクについても、ただの感染対策以上のメリットを感じる人が多いからこそ、なかなか外す人が増えないのかな、と思います。


必ずしも全てを元通りにする方向が、正しいとは限らないようです。
私の職場でも、COVID-19が5類扱いになったらどうするかという議論の最中ですが、マスクに限らずどうも全てがまるっきりコロナ前と同じ、にはならなさそうです。


進むも戻るも、もはや進んでいるのか戻っているのかも、わからないくらい制度やルールは変わっていくなぁと感じます。
議論を尽くして合意を得る、というのは本当に骨が折れるけれど、それを避けるわけにもいかないですね。改めてそれだけ大きなインパクトのある出来事だったんだと、コロナ禍を振り返り思います。

(全5回の読書感想文となりました。ご拝読いただき、誠にありがとうございました)

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集