動物観察|オガサワラヤモリ|そこにロマンスはないけれど
先日小笠原諸島の父島に行き、新婚旅行という大義名分で最高に素敵な宿に泊まったときのこと。
亜熱帯の森をのぞむ半露天のバスルームで手を洗おうとしたとき、洗面台の上、ハンドソープの横に小さなヤモリのオブジェが置いてあった。「インテリアもハイセンスだなあ」と感心してると、そのオブジェが動き出し、イキモノであることがわかった。
それにしても小さい。生まれたての子供だろうか。
このヤモリ、おそらく「オガサワラヤモリ」という種類で、調べたところによると特に日本にはメスしか存在しないらしい(オガサワラと名がつくけど固有種ではなく、太平洋やインド洋の島に広く住んでいる)。
単為生殖で子孫を増やすとのこと。広い森の中でなかなか出会いがないから、最適化してこうなったんだろうか、わからないけど。
ともあれ、彼女は最初こそこちらを窺ってウロウロしていたものの、すぐに自分の仕事に戻っていった。つまり、餌となる小さい羽虫を待ち伏せするために再びオブジェのように固まった。
ヤモリはあまり群れない。そのうえ単為生殖ということは、一切仲間に出会うことなく、卵生なので親に会うこともなく(親は産卵したあとは去る)、一生を独りで過ごす可能性があるということだ。
例えば人間だったら、どんなに孤独が好きでも誰とも関わらない生き方はまずあり得ない(生まれてすぐ山に捨てられて山犬に育てられるパターンもあるけど、その場合は山犬と家族関係を築く)。
そんなヒトの立場からして、絶対的に一人という状況は想像がつきづらい。
他者がいない世界。
それは一体どんな生活なんだろう。
いまだに洗面台でオブジェになっているヤモリを見やる。オブジェは、一つの明確な目的(羽虫)に狙いを定め、迷いのない目をキラキラさせていた。
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