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大学入学者の地域性(旧帝一工編)

今回の記事は、2月23日にした以下のツイートを深堀りしたものです。

日本には700を超える大学がありますが(2021年2月現在)、その多くは所在地に近い地域から入学者を集める傾向があります。この記事では、日本にある9つの国立大学(北海道大・東北大・東京大・一橋大・東京工業大・名古屋大・京都大・大阪大・九州大。以下、旧帝一工と呼びます)について、その入学者の地域性を調査しました。

入学者の地域性、つまりどの地域からどの大学にどれだけの数の学生が入学しているかを調べるには、大学改革支援・学位授与機構が提供している「大学基本情報」というWebページが有用です。

「大学基本情報」の中にある「出身高校の所在地県別入学者数」というエクセルファイルを開くと、全国立大学の学部別に所在地県別入学者数を確認することができます。あくまで出身高校が基準なので、出身とは別の都道府県の高校に通っていた学生がいるとその分ズレが出てしまうのですが、大体の傾向をつかむには十分でしょう。

概観

直近のデータである2020年の「出身高校の所在地県別入学者数」を、旧帝一工の9大学別に集計した結果がこちらです。文字が小さい場合はクリックorタップで拡大してご覧ください。

2020年大学学部高校所在地別入学者比率2

ちなみにこの記事では、次の通り地域を分類しています。

北海道:北海道

東北:青森県・岩手県・宮城県・秋田県・山形県・福島県

北関東:茨城県・栃木県・群馬県

首都圏:埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県

甲信越:新潟県・山梨県・長野県

北陸:富山県・石川県・福井県

東海:岐阜県・静岡県・愛知県・三重県

関西:滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県・奈良県・和歌山県

中国:鳥取県・島根県・岡山県・広島県・山口県

四国:徳島県・香川県・愛媛県・高知県

九州沖縄:福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県・大分県・宮崎県・鹿児島県・沖縄県

いずれの大学でも、それぞれが所在する地域(以下、地元地域と呼びます)からの入学者数が最も多いことが分かります。北海道大は北海道、東北大は東北、東京大・一橋大・東京工業大は首都圏、名古屋大は東海、京都大・大阪大は関西、九州大は九州沖縄。ただ、名古屋大や九州大は地元地域の入学者が圧倒的に多いのに対し、北海道大や東北大は地元地域の入学者が3分の1程度しかいません。また、一橋大や東京工業大に比べて東京大は地元地域入学者の比率が少し下がり、全国から学生を集めています。京都大と大阪大を比較すると、京都大は関西以東からの流入が比較的多く、大阪大は関西以西からの入学が比較的多いことが分かります。

北海道大と東北大は、地元地域からは選ばれていないのでしょうか?そんなことはありません。先のグラフは大学ごとの入学者をまとめたものですが、地域別の旧帝一工入学者のうち、どの大学に入学したのかをまとめたグラフが以下です。

2020年高校所在地別入学先大学学部比率2

たとえば、2020年に北海道の高校から旧帝一工に入学した1135人のうち、北海道大に入学したのは842人で、74%を占めました。東北大は同様に73%と、それぞれの地元地域では、北海道大・東北大は積極的に選ばれていることが分かります。にもかかわらず、北海道大・東北大で地元地域の入学者が少ないのは、北海道・東北の人口が、旧帝一工がある他の地域よりも人口が少ないからです。北海道大や東北大は、名古屋大や九州大と同程度の入学者数(約2500人)がいますが、北海道の人口は約500万人、東北は約900万人と、東海(約1500万人)、九州(約1400万人)に比べて少ないため、地元地域の学生だけでは一定学力以上の学生が賄えないのです。

旧帝一工のない地域の情勢と、ある地域での例外

基本的には、最寄りの旧帝一工を志向する傾向があります。

北関東では東北大志向が強く、その入学者は首都圏の旧帝一工(東京大・一橋大・東京工業大)の入学者よりも多いです。北関東の人口は約700万人ですから、東北と足し合わせれば、東北大は、名古屋大における東海や、九州大における九州と遜色ないテリトリーを持っているとも言えます。

甲信越も東北大志向が比較的強いですが、北関東並みに東北大志向が強いのは新潟県だけで、山梨県は東京大・一橋大・東京工業大も多く、長野県は名古屋大志向も強いです。

北陸から旧帝一工への入学者はバランスよくばらけていますが、富山県では東北大・東京大志向が強まり、福井県では名古屋大・大阪大志向が強まります。

中国では関西(京都大・大阪大)志向、次いで九州大志向が強いです。岡山県こそ大阪大志向が強いですが、鳥取県・島根県・広島県で九州大志向が大阪大志向を上回り、山口県は九州沖縄と遜色ない九州大志向を示します。

四国は、中国以上に関西志向が強いです。個別に見ると、西日本の中では東京大・一橋大・東京工業大志向が強い地域でもあります。

なお、埼玉県は首都圏の中では唯一、東京大入学者数を東北大入学者数が上回っています。静岡県は東海ですが名古屋大入学者は旧帝一工の32%にとどまり、次に多かったのは東北大でした。東北大のテリトリー広いですね。

ちなみに、九州大でなくても西日本志向が強い九州沖縄で、鹿児島県は東京大志向が強いですが、ラ・サール高校(首都圏からの寮生が多い)の存在がが効いていると考えられます。また、沖縄県からも東京大、そしてなぜか北海道大志向が比較的強いです。直行便の飛行機が結構あるからでしょうか。

北海道から北海道大、東北から東北大に入る学生が減っている

旧帝一工はそれぞれの地域で安定したブランドを保持しているため、年を経ても所在地県別入学者数はあまり変化しないように思われます。試しに、「大学基本情報」で過去の所在地県別入学者数を調べてみたところ、単年では微妙な変化を続けつつも、大きな傾向は変わっていません。

ところが、北海道大東北大については、年を追うごとに、地元地域の入学者数の減少傾向が見て取れました。実は2012年の時点では、北海道大と東北大への地元地域の入学者はそれぞれ43%、44%いました。それが8年後の2020年には、それぞれ33%、34%まで減少したのです。北海道大と東北大の総入学者数は、この8年間でほとんど変わっていません(ほかの旧帝一工も同様)。ですから、入学者比率の減少は、入学者実数の減少と言っても差し支えありません。

北海道大学学部高校所在地別入学者比率
東北大学学部高校所在地別入学者比率

では、北海道から北海道大、東北から東北大に入る学生が減った分は、一体どこに行ったのでしょうか?私が調査した限りでは、少なくともほかの旧帝一工への志向が強くなったとは言えません。旧帝一工の総入学者数自体が減っているのです。

北海道から入学した旧帝一工の実数を、以下の表にまとめました。2012年と2020年を比較すると、北海道大入学者数が1107人から842人に減っていますが、旧帝一工の総入学者数も1380人から1135人に減りました。一方、他の旧帝一工の入学者数は大きくは増えていませんから(割合で言うと、大阪大学や九州大学が増えたように見えるが、実数としては少ない)、北海道から北海道大の入学者数の減少が、そのまま北海道から旧帝一工の入学者数の減少に直結していると考えられます。

北海道旧帝一工入学者数推移

この原因としては、北海道の高校卒業者数(高等学校(全日制・定時制)、中等教育学校後期課程、特別支援学校高等部の卒業者の合計。学校基本調査による)自体が8年間で約10%減っていることもあるでしょうが、北海道大で2011年度から導入された総合入試の影響があるとも報道されています。

総合入試は、東京大の進学選択(旧:進学振り分け)と同様、文系・理系ごとに入学後の成績で学部を決める制度で、受験時に学部を決めなくていいことで人気を集めているとのことです。もっとも私としては、後期日程の募集人員が旧帝一工の中では比較的多いことの方が要因としては強いのではないかと考えています。2000年代後半から旧帝一工が後期日程を次々と縮小する中、2020年まで500人近くの定員を後期日程に割り振っているのは北海道大学だけです。結果、「ぜひとも旧帝一工」という受験生が全国から集結し、後期日程で合格をかっさらっていく。実際、北海道大学ファクトブックによれば、前期日程でこそ北海道出身者が30%台後半入学しているのに対し、後期日程では20%前後しか入学していません。

東北から入学した旧帝一工の実数はどうでしょうか。以下がその表です。高校卒業者数が8年で約10%減っているのに対し、旧帝一工入学者総数が約24%減り、東北大入学者数も約25%減りました。その分、他の旧帝一工の入学者数が明らかに増えているわけでもなく、やはり、東北から東北大の入学者数の減少が、そのまま東北から旧帝一工の入学者数の減少に直結していると考えられます。

東北旧帝一工入学者数推移

東北大もまた、経済学部と理学部で後期日程を残し、前期日程で東京大などを受験した人の流入が増えていますが、北海道大ほどの規模ではないはずです。単純に、首都圏出身者にしてやられているのでしょうか。なお、東北地域を個別に見ると、宮城県などは比較的持ちこたえていますが、岩手県・秋田県・山形県の東北大入学者数(2012年→2020年)はそれぞれ167→90、132→67、158→79と減らしています。旧帝一工の中での東北大志向が弱まっているわけでありません。旧帝一工入学者総数が減っているのです。

首都圏から地域外の旧帝に入る学生が増えている

北海道から北海道大、東北から東北大に入る学生が減った代わりを主に埋めたのは、首都圏の学生です。2012年から2020年にかけて、首都圏の入学者は、北海道大では14%から23%、東北大では15%から26%にアップ。実数で言えば、併せて467人増えました。地元地域の東京大・一橋大・東京工業大に入る学生は減っていないにもかかわらず。

首都圏旧帝一工入学者数推移

そればかりか、首都圏から京都大、大阪大、九州大に入る学生も増えつつあります。名古屋大だけほとんど変わらない(首都圏からは大阪大や九州大より近いのに、少ない)のは謎ですが。

首都圏の高校卒業者数が他地域とは異なり減っておらず、高校卒業者数全体に占める首都圏の高校出身者の割合が高まっていることは事実ですが、それにしても、首都圏の地域外旧帝志向が強まっているように思いました。ひとつ思い至ったのは「首都圏私大の定員厳格化」、つまり早稲田大・慶応義塾大をはじめとする著名私立大学が合格者数を減らし、合格難易度が上がったことから、首都圏以外の旧帝に目を向けるようになったのか?と考えました。ところが、これが始まったのは2016年度からです。それ以前から、首都圏の地域外旧帝志向が強まっているのだとすると、それ以外の要因が効いているのではないかと考えます。

地元志向とは言うが…

ここ数年の大学入試のトレンドとして、地元志向という言葉を聞かない年はありません。田舎県からわざわざ大都市圏(とくに首都圏や関西)の大学に行かず、地元の大学に行きたがるのだと。ただ、旧帝一工に限ると、各地域の志向性はあまり変わっておらず、かと言って地元地域の旧帝の入学者が減っている所もあります。実は大都市圏の大学入学者が増えているのか、それとも別のどこかに行っているのか。今後、精査する必要がありそうです。

出典

出身高校の所在地県別入学者数:大学改革支援・学位授与機構「大学基本情報」を加工して作成

高校卒業者数:学校基本調査

都道府県別人口:統計局の人口推計


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