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受験科目『保護者の説得』

令和の日本で、大学への進学を目指す人の大多数が避けて通れない受験科目とは何でしょうか?

英語?いいえ、答えは『保護者の説得』です。

大学受験生に対して、経済力の観点から、「私立に自宅外でもOK」という保護者もいれば、「地元の国公立しかダメ」という保護者もいるでしょう。経済力の有無にかかわらず、我が子を大学に行かせる気のない保護者もいれば、逆に絶対に大学に行かせないと気が済まない、何なら「○○大学しか認めない」なんて保護者もいるかもしれません。「自分の好きな大学を選んだらいいよ、そのためのお金は出すよ」なんて殊勝な保護者を持たない限り、『保護者の説得』なしには大学に進学できないのです。

『保護者の説得』は、大学の進学そのものだけでなく、受験戦略にも影響を及ぼします。旺文社の受験情報誌『螢雪時代』は、例年、11月号で併願プランの特集記事を出します。模試の成績を参考に目標校・実力相応校・合格確保校をそれぞれ選んで併願しよう、というのがお決まりパターンですが、これを実行したいと思ったとして実現できるのは、保護者がこの受験戦略の価値を認め、かつ、受験料(+滑り止め校の入学金)を支払える場合のみです。さもなければ、受験生は『保護者の説得』をするなり何かしらの手段で金策を練ったりする必要があります。貴重な受験勉強の時間を削って

同一の学部学科で同一の入試区分であれば、試験科目も採点基準も公平であるはずの日本の大学入試は、『保護者の説得』という受験科目の存在という一点だけから見ても、不公平にならざるを得ないのです。この受験科目が困難になるか否かは、ひとえに保護者次第。もちろん、受験生自身が受験料や学費を出すことだって理論的にはできますよ。ただ、日本では親の扶養下にある比較的若い年齢で大学に進学し、卒業することが奨励されている社会(≒そういうルートを通った人が高収入や安定とされる身分を得やすい社会)ですから、保護者に金を出してもらって進学する方が大多数の人にとって有利なわけです。

↑のTritama氏の例は、私が知る限りもっとも極端な例のひとつではありますが、保護者の経済力云々以前に、受験生の生殺与奪の権を保護者が握る仕組みになっていること自体が問題だということが、ご理解いただけるかと思います。

朝森久弥の中の人のケース

もう少しマイルドな話もしましょう。私は、さる田舎県で高校生をしていたとき、先生から「自分の興味・関心に沿って大学を選ぼう!」と言われたので、当時、とくに興味を持っていた地球環境問題について学べる大学を、↓の本で探しました。

この本が面白いのは、分野ごとに(学部の入学偏差値ではなく)研究力の高さに基づいて、学部学科単位でランキングが作られていたことです。この本に書かれていた中でとくに面白いと思った某分野で、東京工業大学の理学部がトップにランクインしていたのを見た私は、ここを第一志望にすることに決めました。「東大じゃなくてもトップなんだ、お得じゃん!」という発想も多少はありました。

ところが、いざ『保護者の説得』の段になると、親を理解させることができませんでした。高専卒の父親曰く、

東工大?東大の工学部と何が違うんだ

と。もちろん、ここで私が、当該分野における研究力の優位性を上手くプレゼンできなかったのが敗因のひとつにはあったんでしょうが、子供をわざわざ東京で一人暮らしさせるのに、東大でなければ出資する価値あるのか、という含みがあったぽいんですよね。

東工大はいま、親が4年制の大学を卒業していない者を対象とした「ファーストジェネレーション枠」という奨学金を設けています。

私が高校生の時にこれがあれば、バッチリ当てはまっていたわけですから、迷わず親にプレゼンする時の材料にしたでしょうね。

一方、私と同じクラスだった同級生は、東工大に進みました。彼の親御さんは私の両親でも知っている大企業務めの転勤族とのことで、東工大の価値が分かる方だったのでしょう。羨ましいなと思いました。

結局私は、背伸びして、東工大でない大学を第一志望にして撃沈し、地方にある国立大学に進みました。数学があまり伸びなかったので、東工大を受けたとして、受かったかは微妙ですが……。

母校の進路指導室には、予備校提供の大学偏差値ランキング表が掲示されていました。そこには多数の大学名が書かれていて、これと自分の成績を照らし合わせて、志望校を決めたり奮起したりするのが世の受験生の常です。当然、そのランキング表は誰が見ても同じ代物なんですが、そこから有意味情報として認識できる文字列の量は、人によって様々なんですね。それはひとえに、『保護者の説得』の出来次第と言うわけです。


今回の話は、すぐにどうにかなる類のものではないでしょう。ただ、教育クラスタの一員として、記憶しておかないといけない話だと思っています。


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