小説版・この道の先に  あとがき

あとがきを書くつもりはなかった。
だが、この物語をアップロードすることで、少なからずどなたかに
目を通して頂けたことがありがたいので、ここに書かせて頂く。

この話は、わたしの体験談と言って良い、ごく個人的な話で
箱根駅伝が絡んでこなければ、ここまで読んでもらえなかっただろう。
トランスジェンダーのひとつの例とも言えるし
ただの陸上競技オタクの、狂気じみた話だとも捉えられる。
これは読む方の自由で、わたしがどうこう言う話ではない。

冒頭で、わたしは箱根駅伝が好きだった、と書いた。
これは、事実である。たぶん、今でも好きだ。
2024年の箱根駅伝では『俺は、これが見たかったんだ』と
肚の底から嬉しくなるシーンもあった。

それでも。
箱根駅伝が好きだ、とは、今は無邪気に言えなくなっている。
駅伝の選手はいない、と感じてからは
陸上競技が好きだ、という氣持ちの方が大きくなった。

マラソンや1万m走、5000m走の日本記録が出た、とか
3000m障害走でオリンピックでメダルを獲った、とか
1500mで日本記録を更新したとか
そんな瞬間に立ち会えることの方が、ずっと嬉しい。

そんな試合を、テレビ中継や現地で
始めから終わりまで通して見届けて、
どんな景色なんだろうなと、どんなにきついんだろうかなと
思いを馳せられること。

そして、今の日本が、日本人選手が
こんなに速く、強く走れるんだと思えることが、
平和なんだなぁ、と思えることが、ただただ嬉しい。

俺が生まれた時代は、戦争のただなかで
選手たちは、当たり前のように戦地に送り込まれていった。
俺が憧れた選手も、戦争で亡くなった。

どうして?と問いかけても、誰も答えをくれなかった。
あれだけが、俺はどうしても解せなくて、許せなかった。

陸上競技が好きだ。
走ることが好きだ。
そう言える世界を守りたいと思う。
走ることが、広く愛され、受け入れられ、応援してもらえるように。
その流れの中で、箱根駅伝が愛されているのなら
俺の想いを引き継いで、わたしを生きて、良かったと思える氣がする。

この道の先に を読んでくださり、ありがとうございました。
                    2024年 春    朝海 佑佳

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