見出し画像

たとえば、すべてをできなくなる日がやってきたとしても

看護師って大変な仕事だよね

と、言われることに関しては
以前もこちらに書いたのですが

その中でもトップオブ大変
言葉に出さないにしろ
最もやりたくない仕事だと思われるのが

シモの世話。

だいたいの人は、我が子ならまぁ許す。
親のはやりたくないけど
やらなきゃいけないなら仕方なく。
他人のは死んでもイヤ!
という感じでしょうか。

仕事とはいえ
よくそんなことできるね…
わたしだったら死んでもむり

と、友人に言われたことがあります。

わたしからすると
平日、毎日満員電車に乗って
嫌いな人相手に仕事するほうが
「よくそんなことできるね」
という気持ちなんですが

何を不快と感じるかは
人それぞれってところでしょうか。

わたしの場合、最初に配属された病棟が消化器だったため、ありとあらゆる洗礼を受け、強くなってしまいました。

人のアレを顔に浴びたことがあります。
2回も。
ね、強くならないほうがおかしいでしょ?

パジャマやリネンを汚す患者さんがいても

なにも出ないよりは、マシ

と、思えるほど。
もう菩薩と呼んで欲しい。


さて、こういう類の話って、リアルな人間関係の場で話すことってほとんどありません。初対面でこういう話をされたとしたら、相手が変態、もしくはあなたが変態なんでしょう。

仕事ではこういう話しかしていないわたしですが、苦手な人は本当に苦手な類であるため、医療従事者ではない人と関わるとき、わたしからそういう話題に触れないよう注意しています。


なんですが、わたしたちと同世代にもこれで悩んでいる人、実はいるんです。

みんな口に出して言わないだけ。

noteで出会った友人たちの中にも、何人かそういう悩みを抱えている人がいてですね

頻尿が…
膀胱のキャパが0…
漏れそう…

TL上でこんなうわ言を呟いているのを見かけます。


我慢できなくなってしまう、その理由

原因のひとつは、老化。

耳が痛いかもしれませんが、アラサーのわたしたちは老化ランドの入り口に立っております。
中に入ってみると、意外と楽しそうな人もいるので、まぁひと安心(患者比)

緊急入院等で患者さんのズボンや下着を下ろすことがあるのですが、その時にトイレットペーパーや尿とり用のライナー、パッド(生理用ナプキンのようなもの)を当てている同世代に出逢うと

あらまぁ…今まで大変だったでしょう…

という気持ち。

ずっとずっと隠し続けたその痕跡を見てるだけで、こっちが泣きそうになります。

当然、受診などしていないため、真っ赤にただれて出血している人もいました。

もう少し年齢を重ねた世代の場合

男性からすると、ちょっと何を言ってるかわからないかもしれませんが、尿失禁や便失禁を飛び越えて膀胱や子宮、肛門を骨盤周りの筋肉が支えきれず、飛び出してしまっている人もいます。

ビジュアルでいうと(いうな)、深海から地上へ出てしまった深海魚のような感じ、とでも言いましょうか。

これ、適切な方法と言うには非常にグレーなんですが、頑張って押し込むと体内に戻ります。だから、誰にも相談できず未受診のまま経過している人がたくさんいるんです。

特に女性の場合、生理におけるナプキンの使用経験がある人がほとんどなので、なんとかなっちゃうケースが多いんですよね。

受診に至る人のほとんどが、自力ではどうにもできなくなって重症化してしまった人ばかり。

随分前にNHKで骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)というタイトルで特集がありましたが、あれを見てわたしもそうかもしれない、受診してみようと思った人が果たしているのかどうか…

産婦人科と同じくらい、受診への心的ハードルが高い分野と言えるでしょう。


もうひとつの理由は、出産。
特に経膣分娩を経験した人です。

分娩時、赤ちゃんが産道を通るために子宮口は10cm開くと言われています。今、手元に定規がない人のために目安をお伝えすると、10cmは女性のこぶし1個分です。結構ありますでしょう?

それくらい、骨盤周りの筋肉が伸び縮みするのが分娩というもの。鼻からスイカなんて言い回しもありますが、あれを実現させているのは筋肉の収縮。

そのため、伝わりやすいようにあえてこういう言い方をさせてもらいますが、分娩の影響で産後、この辺りの筋肉が伸びきってゆるんでしまう人もいらっしゃいます。

当然、骨盤周りの筋肉は子宮を支えているだけではなく、膀胱や肛門までも統括しているので、産後に頻尿になったり粗相してしまったりする人がいるわけです。

TL上のうわ言は、こういう背景があったりします。
誰のせいでもないけれど
声に出して言わずにはいられないのです。


フランス事情はこんな感じ

ここでちょっと補足を。

フランスでは、産後における女性の骨盤周りのケアとしてペリネケアというものが浸透しています。


詳細は上記の記事を読んで頂ければわかるのですが、保険適用でこのケアをやってくれるあたり、とてもありがたいですよね。

これ、もう少し背景を補足すると、フランスの女性たちは、経済的・社会的、そして性的な事情から早くひとりの女としての自分を取り戻したいそうなんです。

子どもが生まれても
早く仕事に復帰して
早くお金を稼いで自立して
早くパートナーとSEXしたい

はい、シンプル。

日本だと性的な理由の優先順位は低くなりそうですが、それでも、身体を整えられて将来の排尿トラブルをある程度は回避できるとなれば、需要はありそう。

フランスの女性たちを取り巻く環境や背景については、こちらもぜひ。


悩んだり困ったりするのは、みんな一緒

ここまで女性視点で話を進めてきましたが、男性だって同じです。

排泄関連の粗相が恥ずかしいと感じる気持ち、そして辱めにあったような気持ちになるのは。

男性の事情こそなかなか表に出てきませんが、EDや陰茎湾曲症をはじめ悩んでいる人は結構います。字面にするとすごいネーミングですが、持続勃起症なんて病気もあります。

家族をはじめ、絶対に誰にも言わない人がほとんどですが、ね。

ここで、男性ならではの発言だなと思うことがあったので紹介させてください。

手術のとき、男女問わず尿道カテーテルを挿入することが多いんですが、その際に

あの…(小さいんですけど)大丈夫ですか?

と、聞かれることがありました。

あ~…用があるのは(それじゃなくて)その先にある膀胱なので、全然大丈夫ですよ。問題ありません。

と、わたし。

もう、ナースあさみの超絶スキルを駆使して、一瞬でカテーテルを挿入してあげましたよね。

男性は、そのサイズを気にされてる方が本当に多いんだなと考えさせられる出来事でした。女性でいうところの胸のサイズみたいなものでしょうか。


この件で性差があるとしたら

粗相という点でいえば、実は管理しやすいのは男性のほう。

穴がふたつしかありませんし、いい具合に穴同士が離れてくれているので、それぞれの汚物が混ざりにくいんです。皮膚トラブルが起こったとしても、ケアや工夫によって改善が見込めやすい。

それに男性の場合、解剖学的に膀胱が外に飛び出ることはまずありません。そんなことが起こったら、欧米の医学雑誌のトップニュースになります…

加えて、膀胱から出口までの距離が解剖学的に長いため、頻尿も粗相もゆるやかに始まりゆるやかに終わる傾向があるなと思います。

いつまでもたっても始まらず
いつまでたっても終わらない
そんな感じ。


一方、女性はたいへん難しい。

まず穴が3つあります。
しかも、それぞれが連なっている状態。

それぞれの穴から出てきた汚物が、あっちへこっちへ行ったり来たり。
皮膚トラブルが起こっても、完治までの道のりが比較的長い気がします。

つぎに、膀胱から出口までの距離の近さ。
よく、ご近所同士で仲良しなさまをお醤油を借りられる近さと言いますが、あんな感じ。

あ!っと思ったらもう遅い。
だって、その距離、5cm前後しかないんですもの。
そのあいだを神経と筋肉で支えているんです。

そしてこれは、実際経験してみないとわからないんですが、薬を塗ろうにもうまくいかない。粘膜に塗ろと思っても、すべっちゃって塗りたい箇所に塗れない。

ワセリンを口の中に塗ろうとしたことがある人はわかるはず。
塗り薬って、乾いたところじゃないとうまく塗れないですよね。


ここでもうひとつ、エピソードを紹介させてください。

田島さん(仮名)としましょう。
80代の女性。

大腸がんのため人工肛門を造設しましたが、化学療法が功を奏し、1年後に人工肛門を閉鎖する手術を行いました。

人工肛門を閉鎖するってどういうこと?という方に簡単に説明すると、また自分の肛門から便が出る身体に戻るということ。

なんですが、1年近く使っていなかった肛門。
まったく使い物にならない状態でした。
(すべての人がそうなる訳ではありません)

単なる筋力低下だけではなく、もしかしたら、化学療法による神経障害もあったかもしれません。

どんなに薬を調整しリハビリを重ねても、自分のしたいタイミングですることができない身体になってしまいました。

術前からあった粗相も悪化しています。

ちなみに、素肌は弱酸性
便は弱アルカリ性

相容れないふたりはケンカを始めます。
もちろん、戦場である皮膚は次第に弱っていきます。

皮膚や粘膜についた便がかゆみやただれを引き起こし、田島さんのそれは常に出血していました。

ねぇ、先生…わたし、またストマ(人工肛門)のある生活に戻りたい…
たしかに、いまのほうが自然な身体かもしれないけれど、こんなんじゃ外出できない。買い物にもいけない。だいたい、これじゃ垂れ流しじゃない…

こんなの、治ったなんて言えないわ!
わたしを、早く前の身体に戻してちょうだい!!

結局、田島さんは2回目の人工肛門造設術を受けることになります。永久的な人工肛門になるため、肛門も閉じる手術でした。

1ヶ月後、彼女のそれは劇的に改善します。

これで買い物にいけるし
電車に乗って旅行もできる
自分で自分のことができるって最高ね

田島さんが、田島さんを取り戻した瞬間でした。


老化の正体

ここまで粗相や頻尿を話題にしてきましたが、ここからは視野を広げて老化の話をさせてください。

老化というと、老けていくこと、衰えていくことを思い浮かべる人が多いと思いますが

できていたことができなくなっていくこと、また、できなくなることだと思っています。

トイレができなくなり
歩けなくなり
覚えていられなくなり
動けなくなり
食べれなくなっていくプロセス
その、すべて。

病気や障害によってその進捗やスピードは人それぞれですが、老化はすべての人が通る道。避けて通ることはできません。


これはエビデンスのない個人的な意見ですが、いわゆるつよつよな人ほど病気になったら老化や衰弱が加速度的に進んでいくことが多いな、と思います。

体調を崩した途端、あっという間に逝ってしまったという話、みなさんも聞いたことありませんか?

きっと、そういう人たちって社会で生きていくにあたり、たくさんのできることで勝負してきたと思うんです。出せる手札がたくさんあって、タイミングを身計らないながらカードを切ってきた状態。

お金を稼いで大切な人を養い、できないことや弱点はなるべく知られないようにして、自分のできること=自分の価値だと思って生きてきた人たち。

だから、手札がなくなっていくこと、そしてカードがきれない状態を受け入れることが難しいんです。

自分で自分に価値を見出せないから。
自分の価値を、持ってる手札に依存させてきたツケです。

こういう状態を、自己喪失(アイデンティティ・クライシス)と言いますが、健全な状態とは言えませんよね。自分を自分たらしめる要素が乏しい状態ですもの。


その点、女性のほうが老化に適応しやすいと言えるかもしれません。

・エンタメや娯楽としてのアンチエイジングを知っている
・趣味や推しを生活のハリにしている
・男性中心で構成された社会において不条理な経験をしている人もいる
・趣味やご近所付き合いなど、成果や生産性以外で繋がっている人たちがいる

こんな理由が挙げられるでしょうか。

もちろん、専門性やできることも自我の要素のひとつではあるんですが、そうではないもの、例えば好きなアイドルや住んでる地域で繋がっている人たちとの関係性も持っていたりします。

男性の患者さんのもとにはご家族や親戚しか来ないのに対し、女性の患者さんのもとには同じ書道教室の生徒さんや自宅のお隣さん、なんかもお見舞いにくることが多い印象です。

病気になったときをはじめ人生の危機を迎えてしまったとき、こういう人たちとの繋がりが自分を救ってくれることもあります。

こういう理由から、女性のほうが自我の喪失に引っ張られることが少ないのでは、というのがわたしの見解です。


失敗を重ねたほうがいい、本当の理由

失敗は成功のタネ
たくさん失敗しなさい

世の中ではこんなふうに言われたりしますが、果たして本当にそうでしょうか。

今回は、粗相というわかりやすい失敗を例にあげましたが、普通に社会生活を送っていく上でこれを繰り返すのは、大変よろしくないですよね。

しかも、老化によってもたらされる失敗は、成功の可能性を広げてくれるものではありません。残念ながら、その頻度と程度は悪化の一途を辿っていきます。

失敗は成功のもとでもなんでもないし
いいことなんてひとつもない

そう思っていました。


唐突で恐縮ですが、わたしたち、みんな赤ちゃんだったじゃないですか。
これを思い出してもらいたいのです。

生まれて1年くらいは、粗相がデフォルト。
みなさん、おむつをはかされてましたよね?

育ててくれた親だって、それが当たり前だと思っていたはずなんです。
トイレットトレーニングで初回からパーフェクトだった子なんていません。そんな子がいるとしたら、人間やるの10回目くらいのベテランです。

なのに、いつしかトイレでできることがスタンダードになります。いろんな事情でうっかり粗相なんてしようものなら、もうおしまい。下手したら、社会的信用や肩書きだって奪われる事態に陥ります。

それでも、失敗をすることで得られるものがあると思っています。

それは、周りの人の反応というデータです。


できないことを受け止めてくれる人や場を

誰しも失敗する生き物ですが、それを頭で理解している人と腹落ちさせている人には雲泥の差があります。

職場にもいませんか?
みんながいる前であなたの失敗を叱咤し、失敗したおまえが悪い、お前のこういうところがそもそもこの仕事に向いていないと罵ってくる人。

きっとね、そういう人って、自分が失敗したらどうにも立ち直れないお豆腐メンタルの人だから気にしなくて大丈夫。人生の危機に直面したら、あっという間に老けてしまう、かわいそうな人なの。

こういう人が、あなたの人生にいい風を吹かせてくれるわけがありません。
それよりも、追い風を吹かせてくれそうな人のそばにいませんか。

・失敗そのものに言及し、あなたの人間性や人格を否定しない人
・改善する方法を一緒に考えてくれる人
・できないならば、アウトソーシングを提案してくれる人
・できないけれど自分でやりたいことならば、アイデアや具体案をくれる人

失敗の利点があるとしたら、周りの人の反応というデータを得られること。
今後の人生で距離を置いていきたい人かどうか、見極めるチャンスです。


わたしたち看護師が優しいと言われる理由は、失敗がデフォルトの世界で生きているから

そのため、排泄行為をトイレでできるだけで素晴らしいと思える。
相手を褒めること、気持ちをあげることのハードルが低いんです。

たとえ失敗してしまったとしても、しょうがないよね、こういう時もあるよねと、いい意味で淡白に対応できます。そして、できることとその人の人間性や人格を、切り離して考えることができるんです。

じゃないと、寝たきりですべての活動を他者に依存している患者さんの生きてる価値がなくなってしまいます。

粗相を罵り否定してくる人は、成功がデフォルトの世界にいて、自分はそこの永住権を持っていると勘違いしている人なんです。生まれたときは、こっち側の人間だったはずなのに。

人生は、できることとできないこをを繰り返す壮大な実験の旅。その中で、好きなことや大事な価値観をみつけていく。これが「あなたらしさ」を構成する大事な要素になるはずです。

たとえ、下半身が動かなくなろうとも
粗相を繰り返すような身体になろうとも

自分で育ててきた「わたしらしさ」があなたを、そして、あなたの周りにいる人たちをも救ってくれるはずです。


自分のDoではなく、Beを受け止めてくれる人や場を見つけておくこと。
そして、できたら関係性を築いておくこと。

たとえ、できることができなくなる日が来ても、大丈夫。

あなたがあなたらしさを発揮しつつ生きていること、生きていくことそのものに価値があります。それを受け止めてくれる人と場を、今のうちから見つけて育てて、できたらいい関係を築いておこうねって話でした。

豊かな人生には、きっと必要不可欠なことだから。

貴重な時間を使い、最後まで記事を読んでくださりどうもありがとうございます。頂いたサポートは書籍の購入や食材など勉強代として使わせていただきます。もっとnoteを楽しんでいきます!!