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私たち看護師が患者さんに聞いてること、本当は聞きたいこと

どうも、ナースあさみです。

おそらく、このnoteをスクロールしたときに
右横に出るスクロールバーの小ささに
軽く絶望している方、多いんじゃないでしょうか。

私もです。

はじめに言っておきますが
このnote、めちゃめちゃ長いです。
10000文字を超えています…

自分で書いておきながら
読み直すのにものすごく時間がかかって
う~ん…と唸りながら
誤字脱字のチェックをしました。

そのため、読みたいけどちょっと時間ないって方は
まずは目次に飛んでいただき
サラッと気になる箇所だけ読んで

もう少し気になるところがあれば
その項目だけじっくり読んでみてください。

そして、出来たら起こってほしくないですが

家族や大切な人が脳梗塞や心筋梗塞、交通事故などで救命センターに入ってしまった方や

病気や障害を抱えたまま生活をしていかなくてはならない方がいる場合には

すべて読むことをオススメします。

おそらく、目の前で一生懸命に現状について説明している医師や看護師の補足として、このnoteが少しは役に立つと思うのです。


はじめに

ご自身やご家族が入院になった場合
医師や看護師をはじめ、多くの医療関係者から
びっくりするほどいろんなことを聞かれます。

中には

はじめての性交渉はいつですか?

とか

家族じゃなくてもいいので
同居されてる方はいますか?

とか

お金に余裕はありますか?

など、仲良しの友人にさえ知らせていない、かなりプライベートなことも聞かれたりします。

なんで初対面の人にそんなこと聞かれなくちゃならないんだ…

と、お怒りになったり困惑される人もいますが、それは

安全な医療の提供とスムーズな退院調整のために必要な情報だから

医師が安全な医療の提供のために、健康に関する習慣や病状についてつっこんだ質問をするように

わたしたち看護師は、スムーズな退院調整というもののために、つっこんだ質問をすることがあります。

・お金のこと
・家の間取りのこと
・家族・親族関係のこと

答える患者さんやご家族は言いにくいと思うのですが、すべて患者さんと周りにいる関係者がより納得した選択をするために必要だと思って伺っているんです。

同時に、対応に関して不満を抱かれたりクレームの発端になるのもここ。
かなりセンシティブな内容ですから、敏感になるのも当然です。

医療者と患者さんの認識のズレ
その最初の一歩は

わたしたちが患者さんに聞きたいこと、と
患者さんがいま聞かれていること

の認識のズレから始まります。

今回、このズレを少しでも小さくするために
このnoteを書いてみることにしました。


どうしても、すべての患者さんを対象にはできません。
そのため、今回は

75歳以上の患者さんをペルソナとして設定し
その子どもや家族である「あなた」にお尋ねする

というスタンスで書いていきます。

きっと、お子さんバージョンが一番需要があると思うのですが
私が小児科経験0なので語れることも0。

(母子手帳があればいいと思うしか言えない)


そして、看護学生&経験年数の浅い看護師の方へ。

臨床経験10年目の看護師として、患者家族からの情報収集のポイントとコツをすべて詰め込みました。ちなみに、私は前の職場で退院調整看護師の研修に何回か参加し、いわゆるヘビーな患者さんの退院支援を数多く実践してきました。

職場によくいる

退院支援なんてめんどくさい〜
とりあえず、在宅か転院か施設でよくない?
在院日数を短縮すればいいわけでしょ?

って言ってる先輩より、わたしのほうがはるかに退院調整に対して愛と情熱を持ち合わせているはず。負けない。

理論は、多くの病院で採用されているNNNの看護診断。
13領域のアレです。

実習や臨床での関わりに役立てもらえたら、嬉しいです。

それでは、スタート!


以下、タイトルは私がわかりやすくしたもの
(カッコ内)は、NNNの中での名称となっています。
医療関係者じゃない方は、ふーんと思ってもらえばよいです。


健康と習慣に関すること(ヘルスプロモーション)

まずは、カルテにある住所や年齢、血液型などを聞いていきます。

血液型に関しては、自己申告のものと実際に採血した結果が違うこともあるため確認のため。

その次に大事なのが、アレルギー。
食物をはじめ、薬剤、接触するとダメなもの(アルコールや金属)、花粉症なんかも伺います。

あとは、お酒とタバコの習慣の有無。
お酒なら

・どんなお酒を
・どれくらいの量
・どれくらいの頻度で
・どれくらいの期間

まで聞きますし
タバコなら

・何歳から吸ってるのか
・1日◯本吸ってるのか
・今も吸ってるのか
・辞めたらないつ辞めたのか

まで聞きます。
しつこいと思うけど許してほしい。

なぜなら、手術をする場合には
肺の機能に大きく影響するからです。

気になる方は、ブリンクマン指数で調べてもらえると◎

タバコの吸いすぎで弱った肺を持つ患者さんは、手術で挿管しても抜管できないというジレンマ(呼吸器を外すと呼吸が止まる、それはつまり…)が生まれてしまうため、結果的に手術できないという選択になってしまうこともあるんです。

もちろん、レントゲンやCT、肺機能検査で他覚的にも評価しますが、一番早く患者さんに負荷をかけることなく聞けるのが、この指数というわけ。

そのため、特に手術を控えている患者さんには、喫煙歴を細かく聞く傾向にあると思います。


つづいて、既往歴。
これまでの病歴について伺います。

ここでは、風邪や蕁麻疹は該当しなくて、入院したり現在も治療中の病気について伺うことが多いです。

特に、心筋梗塞や脳梗塞のため抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)を内服している人や、インスリン注射をしている人は申し出てくれるととても助かります。

なぜなら、その後の治療の経過に大きく影響するものだから。

あとは、先天性の疾患を持っているとか、子どもの頃に手術した、あたりも聞いておきたいところです。

これに関連して薬を服用している場合

・誰が管理しているのか
・大きな飲み間違いなく服用できているか
・副作用の強い薬はあるか

も聞くことが多いですね。

認知症や加齢にともなって、薬を自己管理できない高齢者はたくさんいます。そういう場合、看護師側で管理するのが一般的です。


次は、キーパーソン。

関係性が良好なら誰でもいいんでしょ?と思われがちですが、私たち看護師からすると本人の意思表示が難しくなったときに、代理意思決定をする人という認識。

そのため、本人の意志を尊重しつつ決断できる人、が望ましいなと思います。

法律的に強固な関係性である家族や配偶者が一般的な印象ですが、たとえば優柔不断で不安定になりやすい人の場合、お子さんや本人の兄弟でも、もちろん大丈夫。親等の数え方を含め、明確な正解はありません。

患者さん本人と関係している人ができるだけ納得している人、そしてプロセスが理想的です。

そして、日本人の多くが、キーパーソンに家族や配偶者を挙げることが多いですが、本人とその人が納得しているなら内縁関係の方や大家さんでもOKです。

この患者さんの事例も、当初のキーパーソンは大家さんでした。

なんですが

たとえば本妻がいて、でも実際の関係性は内縁の妻のほうが良くて…という方は、残念ながら本妻がキーパーソンとなることが多い印象です。

なぜなら、仮に患者さんが亡くなった場合、喪主を務めるのは本妻なはずだから。感情はいったん抜きにして、患者さんの人生の結末を責任をもって見届けてくれる人。

どんなに内縁の妻が患者さんを献身的に介護していても、法的な関係性の強さの証明にはなりません。たとえ、関係性が冷え切っていたとしても、法律上は本妻のほうが強いんです。

それはそのまま、有事の際の代理意思決定権にも直結するように思います。

昨今、LGBTQをはじめいろんな関係性がありますが、法律の壁はやはり厚い。

私個人としては結婚していようとしていなかろうとどっちでもいいんですが、有事の際の関係性の証明という意味では、結婚ほど強いものはないなというのが本音。あと血縁も。


そして、本当に身寄りのいない方じゃない限り、キーパーソン以外にもうひとりお名前と連絡先を伺うことが多いかなという印象です。

というのも、病院という場所は命を助ける場所であるとともに、お看取りをする場所でもあります。

そろそろその時がくるかもしれない
と、こちらからキーパーソンに連絡をした際に

・繋がらない
・電話に出ない
・日本にいない

だと、その瞬間に間に合わないことも。
そうなることを防ぐ意味もあります。

そして、ちょっと残酷な言い方になりますが、仮に患者さんが亡くなってしまった場合、亡くなったあとの手続きをするのは病院の役割ではありません。

これはご家族やそれに準ずる関係者がやること。私たちは、死亡診断書を書いてお渡しできますが、役所へいって一緒に死亡届は出せないんです。

ちなみに、生活保護受給者の方が亡くなった場合には、市区町村の担当ソーシャルワーカー宛に連絡します。彼らが葬儀や火葬の手配をする流れとなることが多いです。


食に関すること(栄養)

はじめに、直近の体重や身長をお尋ねします。

意外にも、高齢になればなるほど身体測定をする機会が減っていくので、ご家族はおろか本人でさえも自分の体重と身長がわからない、という方はたくさんいます。だいじょうぶ。

治療上、どうしても測定が必要な場合には、ベッドで計測できる特殊な体重計があるので安心してください。

緊急手術になる場合には、ここでおおよその麻酔薬の量を決めることも。

次に

・3食食べているか
・好き嫌いはないか
・アレルギーはないか

も聞いていきます。医療機関によっては、コストの関係で好き嫌いの対応をしてくれないところもあるので、ここは穏やかな心をもっていただけると嬉しい。苦手なものが出たら残してください…


続いて

身近に75歳以上の高齢者がいない方はピンとこないかもしれませんが、以下こんなことも聞いていきます。

・入れ歯はあるか

部分入れ歯、総入れ歯どちらも含みます。

・普通食を食べれるか

ここでいう普通食とは、大戸屋の定食のようなもの。

反対に、普通じゃないものは、食べやすいように汁物にとろみがついていたり、舌で押して飲み込める柔らかさに煮てあったり、すべてペースト状にすりつぶされていたりするもの。

いわゆる、介護食ってやつです。
想像がつかない人は、離乳食の大人版だと思ってください。

嚥下障害や誤嚥性肺炎の診断があり、上記のような食事を入院前からしている人は教えてもらえると大変嬉しいです。すぐ栄養科に連絡できますしね。

あとは、1日の水分摂取量や大幅な体重減少がある場合には、尋ねることもあります。


排泄に関すること(排泄と交換)

1日の排尿・排便の頻度、量、性状などを伺います。

こんなことも聞かれるのか…!と思われるかもしれませんが、排泄物の観察と記録は、わたしたち看護師のたいせつな仕事のひとつ。

食べものを気にするならば
出るものを気にするのも当たり前でしょ?
という感覚。

カルテに記載する欄がちゃんとあるんです。

特に消化器や排泄器官の病気の際は、排泄物が治療の効果や進捗を判断する重要な要素となります。

便秘薬を内服してるのに出なかったり
反対に、下痢止め内服してるのに止まらなかったら
内服が功を奏していない、という判断になるからです。


受診するほどではないけれど、便秘や下痢気味のときがある、残尿感がある、夜だけ頻尿になってしまう、など症状がある方もここで聞いていきます。

便を柔らかくする薬を飲んでいる人は、その種類と頻度も聞かせてもらうことが多いですね。入院のストレスでさらに便秘に傾く人もいるので。

その他

・失禁があっておむつを使用している
・病気や障害のため、もともと膀胱留置カテーテルを挿入している
・ストマ(人工肛門)管理をしている
・認知症などのせいで不潔行為がある

など、特殊な排泄パターンがある際は、教えてもらえるととても助かります。


生活におけるリズムと身体の動かし方に関すること(活動と休息)

個人的にとても重要な項目だと思っているところなので、ちょっと分量多めです。

・睡眠

病気になると、眠くなって寝るというのがとてもしあわせなことに感じるのは私だけでしょうか…?

ほら、どこか痛かったり熱があったりすると、なかなかいい睡眠って取れないですよね。入院すると不眠がちな人が増えるのはこのため。

もともと睡眠がイケてない人の場合(寝付きが悪い・すぐ目が覚めちゃう)、入院によってさらに不眠が助長するリスクがあります。

多くの病室は大部屋。
しかも、仕切っているのはカーテン。
そうすると

・いびきが災害レベルの人
・寝言が呪文のような人
・何度も夜中にトイレにいく人
・テレビやスマホを見ている人
・難聴の人

いろんな人の生活音や光が、睡眠の妨げとなってしまうことがあるんです。
安眠のために個室にうつりたい!という患者さんからの訴え、何度も聞いてまいりました。

病院といえど、大部屋の場合は集団生活に近いものがあります。
そのため、自宅のような心地よさの中で過ごすのは、とっても難しいんです。

くわえて、加齢とともに睡眠時間や質が低下していきます。
病気もあいまって、睡眠導入剤や抗不安薬を内服している高齢者のまぁ多いこと。

そのため、高齢の人が

・夜になると眠くなって
・ある程度の質を保ちつつ
・きちんと眠れる

というのは、それだけで本当に本当に尊いこと。
このような背景があるため、入院時には

・いつもの就寝時間
・いつもの睡眠時間
・ベッド or 布団
・トイレに頻繁に起きるか
・よく寝た感(熟眠感)があるか
・睡眠薬を飲んでいる場合はその種類と量

などを聞いていきます。


・日常生活動作(ADL)

難しい言葉を出してしまいましたが、これ、UI/UX並に世の中に浸透して欲しい言葉のひとつ。

わたしたち看護師は
ADLを拡大していく、とか
ADLを維持したまま早期退院を目指す
なんていうふうに使うことが多いですね。

ここで、ADLをググってみましょう。

食事・更衣・移動・排泄・整容・入浴など生活を営む上で不可欠な基本的行動を指す。基本的日常生活動作、日常生活活動とも言われる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E5%B8%B8%E7%94%9F%E6%B4%BB%E5%8B%95%E4%BD%9C
より引用

ちょっと何言ってるかわからない、という人も多いと思うので具体的に説明すると

ベッドから車椅子に乗れるか
立ち上がって歩けるか
洗面ができるか
歯磨きができるか
食事を座ってひとりで食べれるか
お風呂にひとりで入れるか
着替えや身なりを整えることができるか
排泄行為をスムーズにおこなえるか

このあたりのことを指します。


いやいや、簡単でしょ!って思ったあなた

甘いですよ。

いまのあなたが、十分に健康な身体と心を持ち合わせているからそう見えるだけです。

たとえば、アラサーのあさみ(仮)が酔って転倒し
右の鎖骨を骨折してしまったとします。

手術をして、傷の経過は順調です。
さ、もう明後日くらいには退院かな…というと

意外にこれがそうでもないんです。
どういうことか、説明させてください。

利き手である右手が三角巾で吊るされた状態になっています。もちろん、術後なので傷が痛いですし、肩の関節の可動域はほぼありません。

バンザイなんてもってのほか。

こんなんじゃ洗濯物なんて干せません。
大好きな料理だって、電子レンジにコンビニで買ってきたお弁当を入れるのがやっと。

そして、手術で筋肉やリンパ節を操作しているため、手首から手のひらにかけてパンパンにむくんでしまっています。指はかろうじて動くけれど、握る感覚や指の腹の感覚は曖昧なまま。

右手のMP、ほぼ0の状態。

食事は慣れない左手で、そしてフォークかスプーンで食べられるものを自ずと選択していくことになるでしょう。おにぎりだって、海苔で巻くのは大変だから混ぜご飯タイプを選ぶほうが増えそう。

こんな調子で洗面やお風呂、着替え…日常のあらゆるシーンに障壁が出てきます。

手術をして病気自体は快方に向かっているのに、できないことが多すぎて生活そのものが送れない可能性が出てくるんです。

リハビリをして、ひとりである程度のことができるようになるまで入院が必要、という判断になることもあります。

病気が治っても
生活をするための行動が取れなければ
退院は難しい

というニュアンス、少しでも伝わったでしょうか。


もうひとつ例をあげさせてください。
臨床では、こっちのパターンのほうがはるかに多いです。

それは、股関節の骨折。
正式には、大腿骨頸部骨折と言います。

足をすべらせて転んでしまった場合、物理的にお尻から尻餅をつく人がほとんどですが、バランスを崩して横向きに転倒する人が多いんです。

アラサーのわたしが転んでもまだ平気だと思うのですが、この大腿骨頸部ってところは一部が細くなっていて解剖学的に脆い。これはアスリートもお相撲さんも、みんなも一緒。

そこに、加齢や運動不足によって骨の脆さが加わると、転倒による衝撃で骨がまぁきれいにポキっと折れてしまうというわけ。

レントゲンをみたら、誰もがわかる美しい骨折となっています。

高齢者の転倒=大腿骨頸部骨折といっても過言ではないのは、こういう理由。

他にも、すべってお尻から転んでしまった場合

・大腿骨頸基部骨折
・骨盤骨折
・恥骨骨折
・腰椎圧迫骨折

こんな診断がつくことが多いかな。

ここからが本題。

今までなんの問題もなく日常を送ってきた人でも、大腿骨頸部骨折になってしまったら、以下こんな問題が出てくる可能性があります。

・10cmの段差が上がれない=階段昇降ができない
→自室が2階、トイレと台所とお風呂が1階の場合、毎日の生活どうするの?問題

・湯船に入るための足が上がらない
→え、湯船に入れないまま暮らしていくの?

・買い物に行こうにも、お店までひとりで歩いていけない
→これからAmazonの使い方を勉強する?
 宅食サービスもあるけど、口に合うかな?


このような問題を解決に導くために、介護保険を使って介護や医療のサービスを提供・調整していく必要が出てくるんです。

たとえば

・自宅では布団だけど起き上がりが困難だと思うので、電動ベットをレンタルしましょう、そのために介護保険を申請しましょう
・ひとりでお風呂に入るのは危険なので、デイサービスにいった際にお風呂も入るプランにしましょう
・料理はなんとか出来そうだから、ヘルパーさんに食材だけ買ってきてもらいましょう

こういうことを、わたしたちは退院調整と呼びます。

自宅でなんとか生活をしていくために、経済状況や家族関係、自宅の環境を考慮して使えるサービスや社会資源はないかな?と提案していくんです。

その道のプロが、ケアマネージャーと呼ばれる人たち。他にも、MSW(メディカルソーシャルワーカー)という社会資源に精通している人や病院所属の退院調整看護師の力を借りながら、調整をすすめていきます。


多くの患者さん・ご家族は、前と同じくらい元気になるまで入院させてもらえると思っていることが多いですが、残念ながらそれは昭和の話。

いま、病院の中にはあふれかえるほどの高齢者が入院しています。
果たしてそれが病気なのか、加齢なのか、もしくは老衰のプロセスのひとつなのか……

いずれにせよ、ご飯を食べさせたりおむつを交換したりする、いわゆる介護にあたる行為は、医療行為と違って収益性が低いのが特徴です。

ということは

高齢社会を迎えた日本では、できるだけ早く退院してもらうことが多くの医療機関の最大のポイント。そうでないと、経営を黒字化出来ません。

理由はこれだけではありませんが、病気の治療が終わる or  ある程度の目処がつけば、たとえ生活がままならない状態であっても自宅退院か施設入所を検討する、というのが臨床の現実となっています。

病気の重症度はもちろん大切なのですが、自分で自分の生活を送っていくことも同じくらい、いや、それ以上に大切なんです。

いかにADLをキープするか
いかにADLを低下させないか

これらが、これからの患者さんの暮らしのキーとなってゆくのです。

ADLがいかに大切か、伝わったでしょうか。


感覚と認知機能に関すること(知覚・認知)

ここは病気によるものというより、加齢にともなうものについて伺うことが多いような印象です。老眼と難聴がツートップ。

これらは、プライドもあるためかなかなか診断を受けていない高齢者も多いのですが、安全な入院生活を送る上ではリスクとなることもあるので、かならずお伺いしています。

特に難聴の場合、夜中に大部屋で

◯◯さ〜ん
え?
横を向いてくださいね
え?なに?

なんてやりとりを大声でしてしまうと、周りの患者さんからクレームがきてしまうこともあります。

自分が逆の立場だったら、たぶんわかると思うんです。

言い方がキツイかもしれませんが、うるさいな〜と思ってしまうのが人間の性。なんで隣の高齢者に自分の生活リズムを邪魔されなきゃならないの?こっちだって病人だぞ!という気持ち。

限界はありますが、入院する部屋を調整することもできるので、ここで判断をすることもあります。


あとは、なんといっても認知症
診断を受けていてもいなくてもかならず伺っています。

認知症の何が問題って、治療へのスムーズな協力が得られないところ。
わたしたち看護師も大変ですが、実際に処置や治療を行う医師も頭を悩ませる疾患です。

認知症といっても、その種類や程度にもよるのですが

・薬を飲んでくれない
・点滴の針を抜いちゃう
・安静を保てない
・感情失禁や暴力行為、不潔行為がある

などが起こるリスクが高いんです。

場合によっては、抑制といって点滴やルートをさわれないように手袋のようなものを装着したり、腰にベルトのようなものを巻いてベッドから立ち上がれないようにしたりするものをつけることもあります。

こうして患者さんの行動を抑制します。
もちろん、本人もしくはご家族の同意を得てから、です。

人間の尊厳の観点からいえば、よくないことであるのはわかってはいるのですが、患者さんの安全を守るという観点からみると、ある程度は仕方ないことなのかな、というのが私の意見。

だれかひとりが患者さんのそばに、ずっと付き添ってあげられれば、こんなことしなくていいんですけどね。


自分の受け止め方に関すること(自己知覚)

自分で自分のことをどう思っているか、という自己分析みたいな質問をさせてもらいます。

頑固とか
心配性とか
神経質とか。

これをご家族などの親しい間柄の人にも聞いて、相違がないかを確認する意図があります。

誰かの前では気を遣う代わりに、身内には罵詈雑言というぶりっこおばあちゃんもいるからです。

そういう人って、人を見て態度を変えたりするので

医師の言うことは素直に聞くけれど看護師のいうことは聞いてくれないよね〜
関わるときには担当を決めて指導していくとか注意が必要だよね〜

なんてことをチームで共有したりします。


関係性と社会資源に関すること(役割関係)

さっきから、社会資源という言葉を出していますが、説明していませんでしたね、すみません。

社会資源とは「支援を必要とする人々のニーズの解決のために必要とされ、支援のために使われたり開発が必要とされる施設、制度、機関、組織、個人だけでなく、知識や技術なども含めた物的、人的資源の全て」

こちらのサイトより引用

なんだか、ものすごくたいそうな感じになってますが、要はその人を支えるためのリソースです。

介護保険も
お金も
家族もそう。

患者さんの療養と生活を支えるためのサービスや、モノ、ヒトのことを指します。

病気や受傷をきっかけに入院してくる人が多いですが、それでも、これまでどんな社会資源を利用して生活してきたのかを伺っていきます。

もともと障害がある、難病がある、先天性の病気があるなどでサービスや制度を使っていた人には、その詳細な内容も聞いていきます。

介護保険もそう。

例えば、在宅介護でサービスを利用していた場合、いきなり患者さんが入院してしまったらデイサービスの人や訪問介護のヘルパーさんがびっくりしてしまいます。

お宅に伺ったのに、本人がいない!って。
そこで、担当のケアマネージャーに連絡して

・現在入院していること
・退院までのおおよその期間
・退院が見えたらこちらから連絡するので、カンファレンスをさせて欲しいこと(病院とケアマネの連携に加算がつく仕組みがあるため)
・自宅退院が厳しく転院、もしくは施設入所を検討していること

なんかをお伝えします。

電子カルテがインターネットと繋がったら、いちいちこんなこと電話で連絡なんてしなくていいと思うんですが、なかなかね…


それから、ご家族について伺っていきます。

・家族構成
・同居している人
・家族の住んでいる場所
・年齢
・関係が良好か、そうでないか

これは、決して興味本位ではなく、患者さんの生活のリソースになるかどうかを判断するために伺っているんです。

・介護の担い手になるだろうか
・お金を払うのは本人? or 家族?
・同居はしているけれど、仲が微妙…

こんなのは序の口で

・遺産相続で揉めていて、接近禁止令が出ている
・過去にいろいろあって絶縁状態
・同居はしているけれど離婚している
・家族は生きてるけれど連絡先が不明

など、本当にいろんなケースがあるので、その内情を把握しておいたほうがなにかとベターという認識なんです。


そして、おうちの間取り

・台所やトイレの場所
・ベッドなのか、布団なのか
・一軒家なのかマンションなのか
・車椅子が通れるほどの幅があるか
・自宅までに段差はあるか
・エレベーター or 階段
・バリアフリーになっているか

なんでここまで聞くの?と思われるかもしれませんが、家に帰ってから生活をするのは患者さん。

わたしたち看護師は、おうちまでついていけないんです。

だから、わたしたちがいなくてもいいように、生活の導線を整える必要があります。

それは同時に、医学的なゴールをどのあたりにするか、ということにも大きく影響するんです。

前と同じようにスタスタ歩けるレベルなのか
伝え歩きでトイレまで歩ければいいレベルなのか
ベッド脇にポータブルトイレを置くため一瞬自分で立てればいいのか
動いて転倒してしまうほうがリスクだから、いっそ寝たきりでもいいのか

患者さんの身体の状態はもちろんのこと、患者さんらしい暮らしの観点、住居環境、生活の導線、サポートが調和してはじめて「生活」になります。

病気が治っても生活を送れる状態でなければ、果たしてそれは治ったと言えるんでしょうか?

医学的なゴールだけがすべてはない、というニュアンスが少しでも伝われば。


セクシャリティに関すること(セクシャリティ)

ここは、身体の性と自認する性が一致しているか、していないのかを聞いていきます。

おそらく、LGBTQの方にヒットする項目かな。
トイレ問題が、一番ネックだと思うので。

次いで、入院するお部屋問題。
多くの大部屋は、いわゆる男女別に別れているので、あなたはどちらに入るのがベターなの?と、伺うことがあります。


それから、過去にタイで性転換手術を受けた方が別の病気で入院・手術というケースにあたったことがあります。

そこそこ大きな手術の場合、男女関係なく膀胱留置カテーテルというものを尿道から膀胱へ挿入するのが一般的なんですが

この人の場合、どうなっちゃってるの…?

ということで、手術をしたタイの病院から手術記録(英語)を取り寄せて、担当医がうんうん唸りながらシュミレーションしていたのを、たったいま思い出しました。

私自身、経験が多いわけではないのでなんとも言えないですが、LGBTQの患者さんへの対応は、本当に個別的かつセンシティブでマニュアルなんてものは存在しないんだろうな、と思っています。


ストレスへの反応と解決方法に関すること
(ストレス耐性とコーピング)

病気や治療によって身体的にも精神的にもストレスがかかってしまうのが入院生活。

そこで、日頃からどんなストレス解消法を実践しているのかを伺います。

さすがに、院内でカラオケとかは難しいんですが

・外の空気を吸いに行く
・ラジオを聞く
・1日1杯まではコーヒーOK(人によります)
・Kindleをうまく使う
・お花をいける

など、対応の方法はいくらでもあります。
少しでもストレスを軽減し、治療や処置に臨んでもらいたいなというのがわたしたちの気持ち。

ですが、やはり一番多いのは人に話をきいてもらうこと。
わたしたち看護師も、患者さんの話を否定も肯定もせずに聴き続ける傾聴のプロなので、ここはお役に立てるはず。

これは、患者であること・障害を抱えていることに関係なく、みんな共通だと思っています。

それから、ストレスが溜まったときの身体の反応を伺うこともあります。

たとえば、血圧を低くコントロールしたいのに、入院や治療のストレスで激昂し血圧が爆上がりしてしまうと、大変困ります。

治療の効果が薄まってしまうからです。

したがって、コミュニケーションや環境を調整することでどうどうと落ち着いてもらい、激昂する機会を減らし、治療の効果を最大限に高めるねらいもあったりします。


生活の中で大事にしていること(生活原理)

目標やいきがいを伺っていきます。

毎日ラジオ体操をすることが日課、とか
早く元気になって孫に会いにいきたい、などですね。

この情報を知ることで、退院の目標設定がやりやすくなることもあります。

もちろんこれらも大事な要素なのですが、臨床的にネックになるのは宗教

宗教というと、日本ではネガティヴなイメージをもつ人もいるかもしれませんが、お祈りや礼拝がいきがいという人もいます。

わたしたちだって、推しのSNSや動画をみては〜んってなりますでしょ?きっとそれに近いものがあるかと…

それが病気や入院によってできないだけで、ものすごいダメージを負ってしまう人もいるんです。

具体的に言及すると、日本の臨床でトピックになるのはエホバの証人とイスラム教の患者さん。

どちらも、宗教上の理由から治療を選択できないことがあるからです。

エホバの証人の場合は、輸血を拒否されることがありますし、イスラム教の場合は、豚由来のものがアウトになることがあります。

豚…?と思われるかもしれませんが、抗凝固薬であるヘパリンは豚から作られますし、保湿剤の中には豚由来のコラーゲンが含まれていることがあります。

これら、どこまで厳密に遵守しているかは個人差があるものなので、丁寧にヒアリングし、医師へ報告していきます。

意外にゆるい人もいれば、死んでもいいので輸血しないでほしいという人もいて、世の中グラデーションだなぁ…と思っています。

人によってはナーバスになる人もいるので、「治療上、妨げとなりうるような宗教を信仰してますか?」と聞いちゃうことがわたしは多いですね。この質問で一気にスクリーニングしちゃう。


身体を脅かす危険に関すること(安全・防御)

健康を脅かすリスクについて聞いていきます。

ここはお伺いするというよりも、私たちが実際に患者さんを観察し情報収集することが多いです。

・感染症の有無
・転倒転落のリスク
・褥瘡発生のリスク
・感染症にかかるリスク
・誤嚥のリスク
・体温調節の異常を引き起こすリスク
・アナフィラキシーショックの経験の有無
・テープかぶれの有無

特に、褥瘡(床ずれ)は作らせたくないし、作りたくないし、作ってしまったらケアが大変なので、なにがあっても発生させない!という強い気持ちを持ってケアにあたっています。

寝たきりの患者さんなんかは、自分で寝返りをうつことができないので、この褥瘡ができやすいんです。おしり、肩、かかとあたりが褥瘡好発部位と呼ばれる部分。

そのため、わたしたちが2時間おきくらいにコロコロと身体の向きを変え、クッションなどで体勢を整えたりします。


苦痛に関すること(安楽)

安楽というと聞き慣れないかもしれませんが、身体的、精神的、社会的そして、霊的に健やかな状態だと思っています。

入院したり病気になると、ここが大きく阻害されてしまうんです。
そのため、緩和したり軽減することを目指す、という感じ。

たとえば、身体的苦痛というのは

・痛み
・吐き気
・かゆみ
・だるさ
・ほてり
・寒気

などを言います。

こういうもの、もちろん治療やお薬で解決することもできますが、それをサポートするのが看護師の腕の見せ所といったところでしょうか。


成長と加齢に伴うこと(成長・発達)

身体的な成長の問題や逸脱、先天的・遺伝的な問題の有無を伺っていきます。

知的障害がある
血友病がある
生まれつき片目が見えない

など、本人の意思や環境とはまったく関係なく生じてしまった病気や障害、というイメージです。

高齢者の中には診断を受けていない人も多いですが、わたしたちがおばあちゃんになる頃には、発達障害やアスペルガー、ADHDやLD、HSPなんかもここの情報として収集することになっていくんだろうな、と思います。

エリクソンの発達曲線をもとにしている医療機関もありますね。



おわりに

コミュニケーションに正解はないけれど、間違いって必ずあるものですよね。医療の世界では、特にそれが起こりやすい。

医師から患者へのマウントだったり
医療者間での認識のズレだったり
家族の仲だからこそ本音を言えなかったり。

そういうものを、調整し解決に導くのがわたしたち看護師の仕事です。

そのためには、絶対的に情報が必要。材料や調味料はたくさんあったほうが、おいしい料理を作れる可能性が増すでしょう?

それと一緒。

不快な思いやびっくりされる方もいると思いますが、すべては患者さんとその関係者のためを思ったもの。

どうか、ご協力いただけると嬉しいです。

いま目の前で、あなたのために関わっている看護師の意図やねらいが少しでも伝われば、このnoteもわ〜い!と喜ぶはず。


最後まで読んだあなたは、きっといい患者さんになれます。



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