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大根の姉ちゃん

目が覚めたら
大根になっていた。

ここはどこ…?
真っ暗でなんか土臭い…
あ!土の中にいるのね!!

え…わたし…ついに人智を超えて大根に…!

と気付いた瞬間、農家のおじさんに葉っぱの部分をもたれて土から引っこ抜かれていた。

なんとなく、髪の毛をひっぱられた感じがして痛い…なんで大根なのに痛覚があるわけ…?野菜には痛覚存在しなくない?

そして、とにかく眩しい。
私を引っこ抜いたおじさんの顔は逆光で見えない。それくらい太陽が眩しい…目もないはずなのに…おかしい…

私、これからどこへ行くのかしら。
引き抜かれたということは
誰かに食べられるまでの道のりが始まるよね。

え?ってことは、もう天国へのカウントダウン始まってる?
黒い組織に殺られる系なの?
ちょっと早くない…?

そんなことを考えてるうちに

トラクターみたいなものに載せられ
青いケースに入れられて
サイズ別にダンボールに入れられて
トラックへ詰め込まれた大根のあさみ。

もともと車酔いしやすいほうだけど
大根になってるおかげが酔わない。
三半規管が備わっていないから?
いずれにせよ、うれしい。

そうそう、トラックにはセブン&アイホールディングスって書いてある。

イトーヨーカドーに並ぶのかな、わたし。
セブンイレブンのほうがレアな気もするけど。
そして、私はOKストアのほうが好きなんだけど。

そうこうしてるうちに
あるスーパーに到着し
ダンボールが開封される。

さむい。
ダンボールの中のほうが温かいな。

店内用の青いケースに詰め込まれ
店内の野菜コーナーに並べられるわたし。

今度は店内の照明で眩しい。
はぁ、もう生きていてもいいことないし
早く誰かに食べられたい…

そこに聞き覚えのある声がする。
母だ。

今日はブリ大根にしよう~っと

私にその手が伸びてくる。

ねぇ!わたしだよ!
娘のあさみだよ!
大根だと気づかないわけ?
今、あなた、娘を食べようとしてるのよ?
ちょっとそれはいかがなものかと思うんですが…

ほいっとカゴの中に入れられ
彼女の愛用品である買い物カートの中に突っ込まれ
そのまま実家の台所に置かれるわたし。

さーて、まずは大根から…

取り出して洗われて
まな板の上に置かれる。

あぁ…きっとギロチンの刑で死んでいった人は
こういう気持ちなんだなと悟る大根のあさみ。

包丁が大きく振りかざされた瞬間



私は目を覚ました。
人間に戻っていた。

良かった。
夢だったのだ。
しかも、ある年の元旦だった。

初夢が大根かよ…なんでだよ…
せめてナスと同じウリ科の野菜にしてくれ…

この話を家族に話した時の感想は以下。

父:ふーん…それより今日のあさみの予定とタスクは?

ふんっ、リクルート厨め。
もう少し相手に共感する姿勢を示したらどうなの?

元旦の予定はバイトだよ。
私は今日もサンドイッチを作りコーヒーをいれるんだ!

予想通りの反応だった。
母はこう。

あら、買ったのがわたしで良かったじゃない。
知らないおじさんよりいいでしょ?

そうだけど、そうじゃない。
大根のあさみを受容してもらっても困る。
まずは否定して欲しかった。

弟の反応が意外だった。
ずっとお腹を抱えて笑っていた。

まぁ、普段から姉として扱われていないのだけど、それでも姉が元旦に大根になってしまったことはかなり滑稽だったようだ。

ヤバい…
しばらく大根が見れない…

窒息するまで笑っていた。
高校生男子のツボはよくわからん。


当時わたしは大学生。
高校生だった弟は、私を見るたびニヤニヤしていた。大根がチラつくらしい。


学校が始まってしばらくしたとき
弟がニヤニヤしながら
こんなことを話し始めた。

友達の大樹(仮)に、この前あさみが大根になった話をしたんだよね。そしたら、そいつもめっちゃウケてて。やっぱりさ、看護学生が大根になっちゃダメだよね。もうお腹を抱えて笑ってて、そのうち泣き始めて、最後は吐きそうだったよ

そうか…大根話は高校生男子にヒットするのね。

わたしの初夢話が誰かのネタになったなら
大根のあさみも本望だろう…
と心の底から思った。

また別の時のはなし。

ちょうど、弟と大樹くんが自宅に遊びにきていた。

私もそろそろ家に着くから、おやつでも買ってく?とLINEしたら

いや、大樹があさみと会ったら死ぬかもしれないと言ってる。笑いすぎて。

同じ空間にいると想像しただけでも、笑い死にそうなのに、目があったらひきつけを起こして倒れるかもしれない。

少し遠回りして帰ってきて!

とのこと。
わたしの存在って一体…

幸いにも、実習やバイトで忙しくしていたこともあり、大樹くんとは一度も会い見えることはなかったが、一度だけニアミスしかけたことがあり、抜き足差し足忍足で家の中を移動していたことがある。

どうしてだろう。
わたしの家なのに。


交友関係が狭く深くがモットーの弟には毎年、この時期になると大樹くんから連絡がくるそうだ。

大根の姉ちゃんは元気?

って。

わたしは元気だよ。
お前もいい夢見ろよ。

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