予定が詰まっていることが豊かなのではないという話

ずいぶん昔に、武司くんの高校のときの同級生が店にやってきたんですね。今は東京で暮らしてて、帰省中に来てくれたのだそうです。武司くんには高校以来会っていないらしく、そんな事情なら今から武司に電話しますよー、と。私は気をきかせました。彼の住まいは店から歩いて1分半のところなのです。電話に出た武司は、久しぶりの友達が来て会いたがってるよ、という私の話のあと、にべもなく言い放ちました。

「いや、俺、今夕飯作ってるし、もう一杯始めとるから行くの無理」

え!だって、久しぶりの友達やん。と思う私の心中をよそに

「そんなのいきなり来られたって困るわ」

と、言うのです。けれど、家から歩いてすぐなんだし、ちょっとくらい顔出したっていいじゃない。と、私は言ったけれど、いやいや、無理。と言って譲りません。

時刻は夕方の4時。武司くんは3時くらいから夕ご飯の支度をしながら晩酌を始めるという、ある種大変規則正しい生活を送っています(ちなみに9時ころには寝る。起きるのは朝4時とか5時)。ですから、夕方の4時というと、一般人の感覚では、夜の7時の夕食時に訪ねてくる。という感覚だったのでしょう。そう考えると、確かに無茶と言えるかもしれません。けれどねえ…。普通の人には夕方の4時だよ。まあしょうがない。私はお友達に、そのまま伝えました。

「武司くん、今夕飯作っているところで、ちょっと会えないって」
「えっ!そうなんですか」
「今度、来るときは、連絡して、って言ってました」

お友達は、それ以来来てません。私はちょっと武司くんのこの感覚について考えてみました。これ、私だったら絶対に会ってるんですよね。久しぶりの友人が来たら、会ってみたい。という気持ちがまずあるし、2,30分くらいなら全然話したっていいじゃないですか。それに武司くんは一人暮らしで、別に家族に夕ご飯を作っているわけではありません。だから、来ようと思えば全然来れるんです。けれど、自分のペース、自分の時間を大事にしているスタンスを崩さない。昔からそうなんです。

実は、うちの息子もそういう性質です。学校のクラブでも彼が別に行かなくてもいいと判断した朝練とか行かない。代わりに毎朝ゲームのレベル上げをしてから学校へ行く。自分で決めた予定を相手の都合で変更するということを、まあしないんです。それが、例え私から見たら遊びが理由でも。

「ゲームすることは俺の予定のうちやから」

と、言います。私はその2人とは対極にあって、例えば、

「今度の木曜日の10時から空いてる?」
と、言われて予定表のそこが空欄なら
「空いてますよー、いいですよー」
と間違いなく言う。これ、普通の感覚ですよね?ところが、武司くんと息子は違う。むしろ、自分の予定表が空欄になっていても、

「あ、それオレ無理」

って、簡単に言います。これを知った時、私カルチャーショックだったですね。自分の予定表がぎっしり入っていると「うおー、忙しい。充実している!私めっちゃ仕事しとる!」という、ある種の高揚感があると思うんです。ところが、彼らはそういう感覚がない。まるっきりない。

しかし、いざ蓋を取ってみると、彼らのほうが自分に時間を十分使っている。武司くんは映画を見たり、本を読んだり、自分の制作について考えを巡らせている。規則正しい生活で体重は昔となんら変わらず。息子はゲームを楽しんだり、その合間に勉強して国家資格を取ったりしている。私はと言えば、ただその場にいればオッケーなだけの会合にあくびをしながらいくつも出席したり、自分のことばかり話す人相手に1時間以上もあいづちを打つばかりだったり、急にやってきた知り合いが話し込んで、その日に終わらせる仕事ができなかったり。

なんなん??私、もしかして損してる?やっとそう思い始めたのが最近。去年の12月にもこんな記事書いてます。

さて、今は予定を極力入れないような生活に切り替えています。予定を入れてても、その予定をこなさない。ということもやっています。ちなみに、昨日の予定はこんなふう。

2月20日
9時半‐10時過ぎ 民生委員の定例会
11時‐17時 店番しながら仕事
17半 納品
19時‐20時半 地元町内の町づくり会議

昨日の一番最後の予定はキャンセルしました。理由は「ホワイトデーで超忙しいので休み」です。もちろん、その時間に仕事は終わっていますが、忙しく働いた自分をいたわるため、翌日も元気に仕事をするには、休まなくてはなりません。休むことだって仕事のうちです。そういうことが、言えるようになってきました。「休んでるなら出てきてよ」そう言われたら「いや、私は無理。だったらそういうことができる人に頼んでください」って、言いますよ。ねー、これ、すごい進歩じゃないですか?私。息子や武司くんのことがナマケモノに見えていた私ですが、いまは彼らから教えられることばかりです。

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