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古い家を使う

縁あって、古い物件に関わることが多いです。今まで手がけたのは6軒。戦後からの文房具店を改装し、最初のカフェを始めました。その時の住まいは築100年の酢屋跡。次に移転して始めたワインバーは築150年の蔵。数年後に始めたCafeも明治に建てられた砂糖蔵。今年は築80年の元牛乳屋さんを一棟貸しのレンタルスペースにしました。建具も凝っていて今ではなかなかない作りです。

現在は祖父が使っていた昭和初期の家。木の柱に砂壁、サッシは木製。数年かけて直しながら住んでいます。リノベはとにかく「拭き掃除」が基本、というのが私の持論です。

何枚もの雑巾とバケツを2つ。天井、柱、壁、床、サッシ。上から下へ、順番に拭いて行きます。柱はたわしで、桟(さん)の細かいところや歯ブラシを使って、洗うように何度も、何日もかけて隅までこすります。長年のヤニやホコリ、手の脂。木に取り付いた汚れは水を吸った瞬間、匂いを放ちはじめ、濃い泥水のようなバケツの液体を何十回と換える。これをひたすら繰り返します。

そうやって磨いていくうちに、新鮮な木の香りが甦り、空気が澄んできます。スリッパでしか無理だった床に頬ずりできるようになります。マスクをはずし、深呼吸できるようになります。家に生気が宿り、ある瞬間に生まれ変わります。その時、ふと家の心と繋がったような感覚を覚えるのです。

木を拭く、という好意は「もともと住んで、使っていた人に敬意を払う」ことだと思います。家の世話主が「さあ、今から変わりますよ」ということを家に告げながら、家のエネルギーを整えて行くことでもあります。家も人と同じ。中に入って使う前にはスキンシップも対話も必要なんじゃないかな、と思います。ましてや、古い建物ならなおのこと、ゆっくり時間をかけて分かりあって行くことが大事なのではないでしょうか。


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