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マテリアルの洪水「THE ROOM」

映画の謎解きにわくわくしませんか?ミステリー映画のトリックやパズル、迷宮や仕掛けのある箱、紙に残された暗号。けれど、謎解きがメインになることはありません。中心はあくまでもストーリー。暗号や仕掛け、パズルやトリックと言った謎解きは物語を彩るほんのスパイスに過ぎないのです。

仕掛けをもっと詳しく見たい!あんなパズル自分でもやってみたい!トリックを別の側面からも検証したい。

そんなふうに思っても、出てくるのは一瞬だけ。分かってはいるけど毎回消化不良、むしろトリックと、パズルと、仕掛けと、暗号。それだけで2時間やって欲しい。ストーリーと役者は脇役でいいから…。

そんなことを日々切望していた私が、ついにこんなゲームと出会ってしまいました。

紹介のため、このゲームの中のスクリーンショットを出そうかとも思いましたが、アイテムはネタバレになるし、実は画面だけ見てもあんまりそそられないんです。なによりまず体験してほしい。世界観としてこの動画で少し分かってもらえるかと。それではこの「THE ROOM」について解説していきましょう。


知っての通り、脱出ゲームは無人の閉鎖空間からスタートする。脱出ゲームは簡単すぎるとつまらないし、難しすぎると逆に詰んで離脱の原因となりつまらない。

大事なのはユーザーの知的レベルとの兼ね合いだ。物理学の知識がないと解けないようなトリックはまずだめだし、幼稚園児の色合わせみたいなのもバカにされてる気持ちになる。この塩梅が大切なのは、知識を総動員して暗号を解き、仕掛けを攻略していくクリアの快感がまずもって最大のキモだからだ。手に入れたパーツの使いみちが翌日になっても分からない、なんてこともある。そんなとき私は自分に言い聞かせる

なにか必ず見落としがあるはずだ。
もう一度よく見るんだ。
自分の目を疑え。
固定概念に囚われすぎていないか。
必ずヒントが示されているはずだ。

そうやって、何度も画面をくまなく見ていくと、嵌めるべき場所が必ず見つかる。そうやって入れるべきポイントにパーツを嵌め込み、小箱がテーブルに、テーブルが宇宙に変貌する。しっかり重さを持った金属の擦れる音、光に反射する鏡面。細部から俯瞰へ、俯瞰からまた新たな手がかりが示される。何度もその繰り返しを味わうこの贅沢の極み。あらゆる謎解き映画の謎解き部分だけを凝縮させた高級おせちもビックリの豪華詰め合わせだ。

さらにこのゲームの凄さは細部にある。進めて行く度にアイテムを取得するがこれを必ず丹念に見てほしい。画面から伝わる質感はずば抜けている。とりわけ金属の描写が素晴らしい。例えば鉄ひとつとっても、古い鉄、錆びた鉄、磨かれた鉄、表面加工された鉄、薄い鉄板、厚みのある古い金庫。どれも完全に描き分けられている。それがすべての金属、アルミニウム、銅、真鍮、また木材や石材にも適用されているおかげで画面に深みと信憑性を与えている。

見るべき細部はまだある。パズルを解いて箱から引き出しが出てくるとしよう。中には仕掛けを動かすためのアイテム、取っ手が入っている。引き出しには真紅のビロードが張られている。張られてはいるが、引き出しの中、全面が均一な質感とはなっていない。ちゃんと、白っぽく擦り切れた箇所がある。つまり画面に「時」がちゃんと刻み込まれている。そういった細かな説得力の積み重ねが随所にある。それが実に心地いい。

アプリのレビューにもあるが、音は大変重要だ。手にしたアイテムの鍵で箱を開ける。小さい鍵で開ける、大きく重い鍵で開ける、ちゃんと音が違う。仕掛けの木の薄い板が動くときの、かすかな摩擦音すら贅沢に作り込まれている。画面の重厚感を楽しむためにも、できたら暗い部屋でしっかり音を聞ける環境でプレイするのがおすすめだ。

最初にも書いた謎解きの部分について言及しよう。脱出ゲームに時折見られる「たまたまやったらできちゃった」という部分は制作サイドとしては、できるだけ回避しなければならない。この「THE ROOM」には4つのシリーズがあるが、たまたまできちゃうシーンはゼロではない。けれど、プレイヤー自体は「たまたまできること」を避けたい傾向にあると思う。少なくとも私はそういうタイプだから、やたらめっぽう暗号を合わしたりはしない。解決することが目的ではなく、どこかにあるヒントを探す楽しさ、つまり過程を楽しんだほうが面白いからだ。

脱出ゲームには難解な謎解きもある。「THE ROOM」においてそれは一昔前、ビクトリア朝時代の技術や知識だったりする。デジタルな現代人には難解かも知れないが、好きな人にはたまらない。大航海時代のエッセンスもある。なにしろミステリーは英国のこの時代にこそ映えるからだ。ぜひ1から順番に通してプレイしてみてほしい。

4作目の「THE ROOM Old Sins」はモノクル(単眼鏡)で得られるヒントが少なく、後半いささか単調になってくる。「THE ROOM 3」は部屋をいくつも言ったり来たりしなくてはならず、面倒というレビューが多く、ドールハウスという設定をしたかも知れないが、ドールハウスらしさがあまりない上に、プレイ中はドールハウスであることを忘れてしまうくらい、ドールハウスらしさがない。小さいタンスや服、小さい食器やランプ、小さい料理など、小ささを愛でるものなのに、生活臭のするミニチュア感は皆無なのは相当残念。

コンパクトに楽しめるのは1作目の「THE ROOM」。古い作品で今プレイすると機種によっては固まったりするかも知れない。2作目「THE ROOM2」はノーヒントでチャレンジした。今回の記事を書くにあたって、1も2も再プレイしたけど相当忘れていたので結果楽しめた。「THE ROOM 3」もノーヒントでやったけど、これは難解かつダイナミックな設定で、しかも終盤はラストが5つくらいある。これは素晴らしくて何日も楽しめた。(iPad版はラストの動画が見れない不具合があって、解消されてない模様。それでも充分面白いと思うけど、不服な人も多いっぽい)

状況を作り上げるための設定上のストーリーは一応ある。しかしそれは脇役に過ぎない。メインは自分の洞察力と知識。この「THE ROOM」はそれに充分応えてくれると思う。ビクトリア朝時代好きな人にはぜひプレイしてほしい。そして続編も待ってます。

※アプリは有料です。
※画像は載せたかったけど、ネタバレになるのでヤメました。

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