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日記

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備忘録
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2019年4月の記事一覧

4月30日

今日はめずらしく昼過ぎまで寝た。
テレビをつけてみるとどのチャンネルも最近この町にやってきたサーカス団の話題でもちきりで、フミちゃんが目をまたたかせながら「お祭ですか!? お祭りですね!?」とはしゃぎはじめる。彼女は祭だとか記念日だとかパーティーだとかをめっぽうよく愛する女なのだ。そんなフミちゃんの空気にあてられて、ベランダ付近を浮遊していたUFOがグリーンやらイエローやらスカイブルーやらの光線で

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4月18日

 トイレから出られなくなった。
カギなんてかけていない筈なのに押しても引いてもオレンジ色のドアはピクリとも動いてくれず、こういう時にかぎって家にはわたし以外誰もいない。ドアのむこう側に置いてきた食べかけのアイスクリームのことをおもって、わたしはしばらく世界をじめじめと呪った。
 そのうちに飽きて、わたしは床に積んでおいた「孤独のグルメ【新装版】」を読みはじめる。
ああ豆カン。シュウマイ。カレー丼!

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4月6日

どきどきした出来事について。
今日は天気が良かったのでわたしはひとりで散歩に出かけることにした。通ったことのない路地を抜けていくつかの角を曲がり人影のない道をもくもくと歩き続けていると、いつの間にか見知らぬ墓地にたどり着いていた。
だれかが供えたであろう百合の花の香にくらくらとしていると、視界の端をピンク色の鋭い光が、ヒュンッと横切っていく。え、と思いながらそちらをみてみると、ひとりの若い女の人が

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4月5日

 夕方、知らない人から電話がかかってきて「死んだあと、学校のトイレにひそんでみる気はありませんか」と誘われた。
 なんでも近ごろ学校のトイレ人気は下降の一途をたどっており、びっくりするほど人手が足りていないのだという。「一度ひそむと癖になっちゃうんですよね、これが」とか「ギャラ、はずみますよ」とか、あまったるい湿っぽさをふくませて知らない声はそのように続けたのだけれど、生憎わたしは死んだあとは南の

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