4月5日

 夕方、知らない人から電話がかかってきて「死んだあと、学校のトイレにひそんでみる気はありませんか」と誘われた。
 なんでも近ごろ学校のトイレ人気は下降の一途をたどっており、びっくりするほど人手が足りていないのだという。「一度ひそむと癖になっちゃうんですよね、これが」とか「ギャラ、はずみますよ」とか、あまったるい湿っぽさをふくませて知らない声はそのように続けたのだけれど、生憎わたしは死んだあとは南の島にいくと心に決めているので丁重にお断りした。
 先ほど夕御飯をたべながら「春になると、そういうことふえるものですよお」なんて、わたしの話にもっともらしくコメントをしてみせるフミちゃんの背中に、りっぱな蟹がくっついているのをみて「なるほど、春だものな」と妙に納得した。

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