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クリスマスプレゼント

(以前別の場所で書いたものを再掲しています)


年末年始の外出規制をいいことに、親類へのクリスマスプレゼントが今回はかなり省略となり、それは楽であった。毎年、今年は子供だけにプレゼントを用意して終わりにしようという話が出るのだけれど、必ず裏切り者(いい意味で)が出てくる。まず、隣の国にいる義弟夫婦が来る場合、頻繁に会わないからという理由で彼らが大量にプレゼントを持ってやって来る。それを知ってる為に何となくこちらも用意しようかという空気になる。そして、羽振りのいい叔父さんと言う人が毎年みんなにシチリアの上手いもんセットみたいな詰め合わせをくれるし、ある年はみんなが近所の美味しいパネトーネ(クリスマスのお菓子)にハマり、みんながそこで買ったパネトーネを贈り合う(交換し合う)みたいになっちゃったこともある。そんな感じなので、結局近年は大人同士も何かしらのプレゼントを用意する事にしていた。

クリスマスプレゼントといえば、留学生だった時に住んでいた寮で1度だけみんなでプレゼント交換をした事があった。そしてそのプレゼント交換に付随して「姿の見えない友達」というゲームが1ヶ月に渡って行われた。

細かい事を忘れてしまったけれど、要は学生それぞれが誰かの「見えない友達」で、それぞれに「見えない友達」がいた。「友達」は姿を隠しながらクリスマスパーティーの日まで、時折自分が誰であるかわからせる為のヒントの手紙などを相手に贈ることになっていた。私も何回か手紙が自分の食料品棚に入れられていて、筆跡から女の子だろうということはわかっていた。一方、私はくじ引きにより寮でその年の1番の変わり者と言われていた哲学科の男の子の友達であり、彼にプレゼントを用意しなければならなかった。彼とは話したこともなく(というか挨拶しても無視されるし、物凄い目つきで睨まれたりする)予算10ユーロ未満で無難な物と考えた結果、スーパーで割引されていた良さげなワインを贈ることにした。

パーティーの日、50人近い年も出身も専攻もバラバラの若者達が集まり、何となく料理の好きな子達が調理、ガンガンに音楽がかけられ、おしくらまんじゅう状態で座っての食事から始まり、デザートを食べながらプレゼント交換が開始。全員が友達でなくても、それなりに毎日顔を突き合わせているせいか仲が悪い人はいないので終始和やかにプレゼントが一組ずつ交換されていく。私も何となくあの子かなと思っていた子からプレゼントが手渡され、いよいよみんなの前で哲学科のあの人を呼びワインをプレゼント。拍手がありここで普通はみんなハグになるのだけれども、彼はいつも通りの真面目な顔でじっとワインを見つめている。何となくみんな察し始め、よーしじゃあ次行ってみよう!みたいな流れに。私は席に戻り、周りからお疲れ〜笑みたいな感じで笑われたりしてまあ楽しく会は進んでいった。

ちょくちょく寮でパーティーというか、みんなでお金出し合ってちょっといいご飯作って食べたりとかしていたのだけど、一応教会附属の寮でもあったので、あまり夜遅くまで騒ぐと神父様から注意を受けたり、大昔は騒ぎすぎて警察が来ちゃったとかあったらしいけれど、まあその日は神父様も少し大目に見てくれていて、そのうち食堂はディスコに変身し始めた。

途中あまりにもうるさいので、部屋に戻ろうと食堂を出て部屋の並ぶ廊下に来たところで、私の部屋の前に哲学科のあの人が仁王立ちしているのが見えた。

え?待って、そもそも男女で部屋は階が違うので彼は規則を破って仁王立ちしてるあたりであれだし、明らかに私を待ち構えている。彼の視界に私の姿が入ったらしく、物凄い勢いでこっちにやってくる。

「どういうことなんだよ」

分厚い眼鏡の奥から小さな目が睨みつけてくる。手には先程渡したワイン。何、こんな無難な物おくりつけやがって的な言いがかり?

「何が?」と聞くと、「これいくらのワインだよ?高すぎだろう?」と。「スーパーの割引でちゃんと予算内だよ。嫌いなら誰かにあげていいよ」「そういう問題じゃない!俺は1ユーロのお菓子を俺の相手にプレゼントしたんだよ!おかしいだろ、お前のプレゼント高すぎだろう?」「いやだから予算内だよ」彼は私のプレゼントが高いとしばし言い続け、顔を真っ赤にしながら有り得ないと言い続け、まあ最後はなんとか全く納得してない顔で去っていった。

何なのあの人、怖すぎる。

他の寮の子達に話すと、えー、実はあなたからのプレゼントが嬉しすぎて爆発したんじゃなあい?!なんてからかわれたりもしたけれど、そんな少女漫画的な空気一切なかった(笑)

彼は近年稀に見る秀才とか言われていて、授業料も寮費も何もかも免除らしいとか、テストは全て満点らしいとか様々な噂はあるものの、彼に友達は寮に一人しかおらずその人もとんでもなく変わった数学科の子だった為に実際どうなのかは誰も知らないまま。この二人、どちらもが他の子達に結構攻撃的なのに2人でいると、ゲラゲラと低い声で窒息寸前まで笑ってる姿などが確認された為、どちらもの同じ部屋の子からの申請で二人が同室に途中からなるというできごとも。勉強はできたあの2人、今頃何か立派な仕事をしているんだろうか....名前を忘れてしまったから調べることもできないんだけどね。

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