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「月の歌を聴いていた」③点と点をつなぐ〜アルバムタイトルが決まるまで

嬉しいことがあると帰り道に走り出したくなる。

初めて一人でCMのお仕事をいただいたとき、六本木のスタジオで収録を終え、外に出ると、興奮しすぎて走り出したくなった。

そっか、冷静なふりしてたけど、
実は私、めちゃめちゃうれしかったんだな。

そうしてあの時、表参道の駅まで走っていったんだった。

その時と同じくらいのコーフンを覚えたのは
久しぶりかもしれない。
10月の終わり、私のインディーズデビュー20周年を記念すべき
初めてのソロアルバムがついに、ついにリリースされた。

そしてアルバムが出た日、またしても走り出したい衝動にかられたのだった。

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今回のアルバム制作では本当にたくさんの「手」が私のまわりにあった。誰かがかけてくれた言葉が私の進路をスーッと進めてくれるような出来事がいくつも起こった。

アルバムタイトルが決まらなくて悩んでいたとき、鎌倉の御成通りへ抜ける道を歩いていると、水平線ギャラリーの前でふと「魔法植物園」の文字が目に止まった。それが今回のアルバムジャケットを撮影してくださった写真家、渡会審二さんの個展であることはすぐに分かった。
稲村ヶ崎にお住まいで、同郷の名古屋出身ということもあり仲良くしてくださっている渡会さんと、会えばたいてい「クリエイティブとは?」について熱く語り合う。この日も渡会さんの写真展における作品づくりについて盛り上がり、それから話題は私のアルバム制作の話になった。

まだタイトルについて悩んでいたものの思い切ってその時点で考えていたタイトルを説明してみたんだけど、やっぱりうまく話が広がらなかった。

渡会さんは「もっと本当の言葉を見つけないと」とおっしゃった。必然で、胸の内から湧いてくる言葉でなくては、と。

そのあと数日間、タイトルのアイディアを思いつくたびノートに書きつけてみたけれど、どれもこれもとってつけたような陳腐なものだった。

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2020年、短くて暑すぎるステイホームな夏があっという間に去っていき9月になった。

9月22日には逗子渚小屋からの無観客ライブ配信を企てていた。ただライブをするだけじゃなくて、お客さんたちに楽しんでもらえるようにと重ねた企画会議で、共演の花*花 こじまいづみちゃんが、同じく一緒にイベントを企画していたフォトグラファー高橋こずえちゃんの写真をお題に曲を作ろうと提案してくれた。このイベントのオーガナイズを担っていた私にはなかなか時間の確保が難しくヘビーな課題だったのだけど、その時のお題は自然にアルバムのクリエイティブにリンクしていった。

こずえちゃんがお題に出してくれたのは「宙(そら)」だった。私がいつも空を見上げているからと、逗子の海や夕陽を撮したキラキラと輝く写真を何枚か送ってくれた。私はこずえちゃんの捉える光や水がすごく好きだから嬉しかったのだけど、逆に曲の題材としてよく扱う内容だけに、短期間で新しい世界を描くのはかなりハードルが高かった。

その中にいくつかの三日月が紛れていた。

「あさこちゃんは満月というよりは三日月のイメージ」。

こずえちゃんはそう言った。

自分では思ったこともなかったけど、夕方歩いていると、さっきまで明るかった空が暗くなっていくとき、抗うように輝き出す三日月がすごく好きで、そんな湘南で見上げる空の光景を描いているうち気持ちが入り込んで、結果的に素晴らしい曲を書きあげることができたのである(ライブではもう歌ってるけどこれからレコーディングして、年明けにはリリースしたいと思っている)。

名前をつけるのは苦手で、常々、誰かから名前を授かりたいと思っていたわけなんだけど、そんな経緯があって、今回のアルバムをリリースするにあたり立ち上げたレーベルに「Mikazuki Records」という名前をつけた。

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(Photo by Kozue Takahashi)

そうして9月下旬。いよいよアルバム入稿のデッドラインが見えてきて、今回のジャケットデザインを担当してくれたコラージュ作家の井上陽子ちゃんにアルバムタイトルを伝えなくてはという時期が迫ってきたが、そこまでせっぱつまってもまだタイトルになりうる言葉は見つからなかった。

ミックスがひと段落した最後の日曜日、すがるような気持ちで東京都現代美術館で開催されていたオラファー・エリアソンの「時に川は橋になる」展を訪れた。宇宙や自然へのリスペクトがこめらた展覧会にはとても感銘を受けた。

でもまだ、言葉はやってきてはくれなかった。

それから友だちとお喋りをして、でも名案は浮かばないまま肩を落として帰路についた。いつもの湘南モノレールがガタガタと音を立てて夜の街を飛んでいく。最寄り駅で降りてトボトボと階段を降り、いつもの夜の坂道をあがっていくと、鎌倉の山の匂いがして安堵した。

その瞬間。

言葉が降りてきた。

「月の歌を聴いていた」

あぁ。

これかもしれないな。

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その晩、鎌倉の紙雑貨作家さんであるtegamiyaさんにお願いしていた「Mikazuki Records」のロゴデザインが届いた。ストーリーがあまりにもさっき浮かんだタイトルとシンクロしていた。そういう時、その答えは"正解"だと理解することにしている。やっとここにたどり着けたと思った。

アルバムタイトルが決まってからは早かった。
ずっと悩んでいた曲順がすんなり決まり、制作作業は波のうねりにサーフしていった。

クリエイティブはどこからやってくるんだろう??

それはやっぱり、点と点をつなげる力なんだろうな。

でも私はまだそれをメソッド化できていないから、経験して、感じて、ばぁっと広げて散らかしたビーズや石ころの中からフワッと掬いあげる宝物を見つけられたらいいなといつも思う。うーん、メソッド化なんて、望んでいないかも。その煩雑な感じがまた好きなのかもな。

けど、今回は、一人で作ってたんだけど、全然一人じゃなかったな。そこにたくさんの暖かい手があったことは、私の一生の宝物だ。



tegamiyaさんがご自身のブログにロゴのことを書いてくれました。
ロゴに込められたストーリーが紹介されています。


★1stアルバム「月の歌を聴いていた」の聴き方

 ・CD「月の歌を聴いていた」はstores オンラインショプから。

・配信ダウンロードとサブスクリプションはこちらから。

・YouTube Music

★ミュージックビデオ

★オフィシャルサイト


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