インクルーシブ デザインって何? - 超わかりやすく説明します
こんにちは、オランダ在住のサービスデザイナーASAKO (あさこ) です。
今日は、聞いたことはあってもなかなか意味をバシッと説明できない「インクルーシブ・デザイン」について私の理解をご紹介させていただきます!
インクルーシブデザインって何?
インクルーシブデザインとアクセシビリティの違い
みなさん「インクルーシブデザイン」って聞いた時、それが何を意味するか説明できますか?
簡単に言うと、「そのへんで広く使われているような一般的な製品が、そのまま、なるべくいろんな人に使えることを目指す」のがインクルーシブデザインです。
反対に、もう1つよく聞く単語である「アクセシビリティ」は、そのまま使えるかどうかとか、なるべく多くの人に使えるかは問わないんです。
例えば…新幹線には車椅子ではそのまま乗れませんが、スロープをつけてカスタムすることで乗れますよね。
これは、「車椅子の人のための特別なカスタム」になるので、アクセシビリティを高めている例と言えます。
ではこちらの電車はどうでしょうか。
誰の手助けやカスタムも不要で、そのままいろんな人が乗れるようにデザインされています。そしてこれは車椅子の人だけにメリットがあるのではなく、小さな子供や杖をついている方などより多くの人にとって安全な出入り口を実現ており「なるべく多くの人が使える」ことを目指してると言えるインクルーシブデザインの例になります。
障がい者だけじゃない!身近なワナ
インクルーシブデザインは「なるべく多くの人に使える」と説明しましたが、つまり障がいのある方だけを対象にしている考え方ではありません。
身近な製品にも「エクスクルージョン(排他)」はたくさんあります。
例えばこのハンドソープ。何が起きてるかわかりますか?
実はこのハンドソープ、白人の手だと石鹸が出てくるのに、黒人の手だと石鹸が出てこないんです...
2015年にアメリカで、高級ホテルや駅などさまざまな公共施設で使われていたハンドソープでこれが発覚し問題になりました。
「まさか」と思うかもしれませんが、こうゆう排他はどこでも起きています。例えば、小さな子どもが背伸びしても押せないエレベーターのボタン。文字が小さすぎて老眼だと読めないメニュー。
障がいとは何か?
新しく定義された「障がい」
WHOが定義する「障がい」という言葉は、2000年代になってアップデートされました。
1980年代まで、障害とは純粋に個人の能力に紐づくものと定義されていました。「視力が他の人より低い人」「他の人のように二本足で歩けない人」というように、当人の能力自体を評価するような捉え方です。
この定義は「Ableism (エイブリスム) 」と呼ばれる、健常者が”正"だと考える思想 に基づいていると言えます。この考え方を大げさに表現すると、世の中には「理想的な健常者」像があり、そこからの逸脱(障がい)は「治すべきものだ!」という、今も根強くある社会の偏見が詰まっている考え方です。
これに対して、2020年以降改められた定義では、障がいは健康問題だけでなく「社会や環境との関わりの中で表出するもの」という解説がされています。
障がいとは周囲との関係性の中で発生するもの
以下の図は私が大好きな図なのですが、インクルーシブデザインにおいて「障がい (Impairment)」をどう考えるかを表現しています。
障がいとは「とある製品や環境を使おうと思った時に、その製品側が要求してくる”能力”と個人の能力に不一致があった時に生まれるもの」だと言っています。
具体的に考えてみます。
例えば写真のようなコーヒーカップがあった時、このコーヒーカップは私たちにどんな能力を要求しているでしょうか?
このコーヒーカップを使おうと思うと、まずはコーヒーの入ったカップを合わせた重量を持ち上げられるだけの腕の強さが必要です。熱々のコーヒーが入っているとい本体が熱くて持てないことを考えると、このカップは持ち手がかなり小さいので指2本だけで持ち手を摘み上げられる指先の器用さと強さも必要ですね。
私にもしリウマチや手の震えがあったら、このカップを使うのは難しいかもしれません。
ではこっちのカップではどうでしょう?
先ほどのカップに比べて指先の器用さに対する要求が軽減していますね!
重量はさっきよりありそうなので、腕の力は引き続き要求されていそう(例えばこの持ち手が両側についていたとしたら、両手で持てるので、要求される腕の力は半分になりますね)。
このように、それぞれの製品や環境は、利用者に対してあらゆる能力を要求しています。
このように障がいを「製品・環境から要求される能力との不一致」と捉えると、製品デザインの視点から障がいによる不具合を減らすことが可能になります。
例えば、もし今見ている画面の文字がもう少し大きかったとしたら、それは「視力の要求を下げた」ということになります。視力の要求を下げると、より多くの視力が多様な人たち(平均よりも視力が低い人たち)にとって使うことができるようになります。
このように、製品や環境が利用者に要求してくる力を減らすことで、利用の障がいが発生する状況を軽減するのがインクルーシブデザインです。
ちなみに要求と本人の能力が合わず使えない状態を「エクスクルージョン(排他)」と呼びます。
誰にでもある「一時的な」 障がい
製品・環境の利用上の障がいを「要求との不一致」と捉えたとき、健常者であっても排他を経験することはたくさんあります。
例えば…車を運転していてちょうど太陽光が目の前にある時、看板が全然見えなくてちょっと怖い時ありませんか?これは強い太陽光の環境下において私の「視る能力」が一時的に損なわれた状態が、看板が要求する視力に応えられなくて発生する排他です。
例えば…事故で片腕を亡くした方はずっと片腕だけで生活していますが、一時的に「片手で赤ちゃんを抱えている人」も、その状況においては「片腕しか使えないので、両腕の能力を要求されると応えられない」という利用上の障がいが発生しえます。
例えば…知らない国に行って、メニューも店員さんが話す言葉も慣習も全く違うところに行ったら、私はその環境下の言語要求に応えられません。しかしGoogle翻訳という「アクセシビリティ」があれば、その環境において言語要求を下げることができるので、私は生活していけます(ありがとうグーグル)。
こう考えると、インクルーシブデザインの文脈において「排他」とは決して医学的に診断された障がいだけを対象とするものではないのです。
世の中に存在するたくさんの要求
能力要求をあげ出すとキリがないのですが、身体や認知力の障がいに関しては研究で定義されているものがあります。
ちなみに、とある製品や環境が要求している能力の度合いを登録すると「世の中の何%の人を排他しているか?」というのを計算することができます。ケンブリッジ大学が、オンラインで排他を計算できるツールを出してくれているので興味ある方はぜひ!
※ちなみにのツールではいわゆる「医学的に診断される障がい」をおおまかに計算しているので、先ほど話したような「一時的に障がい状態になっている健常者」は含まれていません。
誰でも、もうちょっとインクルーシブになれる
インクルーシブデザインを一言でまとめると「要求 ⇔ 応えられる能力のギャップを減らす」営みだと私は考えています。
これって実は、デザイナーとか製品メーカーだけに関わる話じゃないんですよね。自分が普段、知らないうちに他者に要求してしまっていたことに気づいたり、誰かのために環境の要求を減らしてあげることができるかもしれません。
例えばあなたが働いている職場環境とか通勤環境を思い出してみて、どんな要求があると思いますか?排除されて困っている人を見つけたら、何か出来ることがあるかもしれません。
例えばあなたは、あなたよりストレス耐性が低い人に対して同じくらいの耐性を要求してませんか?あなたが応えられる要求と、あなたの隣の人が応えられる要求の違いに気づいてますか??
あるいは、あなた自身があなたに合わない「過度な要求」を受けて排除されているのに気づくこともあるかもしれません。それはあなたのせいではなく「過度な要求」のせいです。要求が少しでも下がる環境はあるでしょうか。
まとめ
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
インクルーシブデザインについて私なりの理解を解説してみましたが、想いが溢れて今回もまた長文になってしまいました…
少しでも興味を持っていただける方がいればとても嬉しいです。
私は大学院では、世の中をもっとインクルーシブにするための「デザイン現場のプロセス」を作る研究をしています。まだまだテーマを見つけて走り出したところですが、これからもデザインに関わることはたまに発信していく予定なのでどうぞよろしくお願いいたします!
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