見出し画像

膝の痛みから逃げるためのピラティスがベリーダンスの課題に向き合う時間になった

それは突然やってきた。

土曜日の朝、ベッドから出る前にストレッチをしようと体を動かしていると、何か音がした。ギリギリ、ザリザリ、気泡がはじけるようなパチパチという音も混じっているような、なんとも言えない音だ。

動くのをやめると音も止まるので私の身体から出ている音なのは間違いない。どこから出ているのかを突き止めるために身体の部位を1ヶ所ずつ動かして、音の発生源が右膝であることが判明した。痛みは全くないが、ただ、動かすと音がする。思わず動画を撮ってしまったが寝起きの生足を曲げ伸ばししている姿があまりにも見苦しいので公開はやめておく。

不安を感じながら月曜朝の整形外科の予約を取り、診察を受けた。レントゲンを見た医師はこともなげに、「膝の軟骨、なくなってますね。変形膝関節症のグレード3です」「原因は、加齢です」と言った。57年生きるってそういうことか。軟骨がないのに痛くないのは、太ももや膝まわりの筋肉が支えているからだそうなので、踊っていたのも無駄ではなかったようだ。

「何か運動してますか?」と聞かれて「ベリーダンスを週2回ほど」と答えた。「痛くなければ今まで通りでいいですけど、痛み始めたらダンスはお休みしてリハビリしてくださいね」と言われた。痛くならないようにと潤滑油がわりのヒアルロン酸を膝に直接注入されながら(結構痛い)、「これ、顔にも打ってくれませんかねえ」と冗談を言ってみたら「うちではやってません」と真顔で断られた。

45歳でベリーダンスを始めるまで、身体を動かす習慣が全くなかった。体重も気がついたら学生時代からは10kg以上増えている(最大で15kgオーバーまでいった)。私が家を出てからいつの間にかヨガを教える人になっていた母親に、帰省のたびにヨガのポーズをさせられても、覚える気が全くないので「シャバアーサナ(屍のポーズ)」以外はさっぱりわからない。

そもそも還暦近くまで健康でいられるとは思っていなかったし、健康でいたいとも思っていなかった。それが、「加齢」で身体が壊れていることを突きつけられたとたんに「嫌だ」と思ったのだから不思議だ。膝が痛くならないために何をすればいいのか、必死でググっている自分がいた。

変形膝関節症の対策として一番効果があるのは減量、そしてインナーマッスルを鍛えることらしい。もともとベリーダンスを踊るにも減量と筋力は課題だった。これ以上膝を悪化させたくないという動機とダンサーとして身体を改善したいという動機、2つの動機が少し前の私には信じられない選択をさせた。

近場のピラティススタジオの体験レッスンに申し込んでしまったのだ。そして参加してその場で30回集中コースを申し込んでしまった。「ピラティスは10回で違いを感じ、20回で見た目が変わり、30回で身体のすべてが変わる」らしいので、そこまではやめられないように自分を追い込んでみた。

申し込んだコースでは30回のうち10回はプライベートレッスンが受けられるので、自分の身体の使い方の癖をしっかりと見てもらえる。最初の日には、私の身体は右下がりだということがわかった。右の肋骨を1センチ上げる気持ちで立つと真っ直ぐになる。なるほど。

次の日にいつもベリーダンスの自主練で使っているスタジオで鏡を見て、「なんだか立ち姿がいつもと違う?」と思った。心当たりといえば前の日に言われた「右の肋骨を1センチ上」しかない。心底驚いた。

ピラティスにもいろいろ流派があるらしいが、共通しているのは「背骨」の骨と骨の間を広げてをバラバラに動かすことを意識することのようだ。背骨をコントロールするために「コア」と呼ばれるインナーマッスルを使うことで体幹が鍛えられる。

3回めのプライベートレッスンで気づいた。「脚を上げる時は太ももの筋肉使わないで腰から上げる」「手だけじゃなくて胸を使って体の軸から動かす」などなど、いつもベリーダンスのレッスンで振り付けを習う時に言われる動きを反復している。振り付けでは音についていくのが精一杯だったり、次の動きに気を取られて疎かにしてしまう動きを、それだけに注目しながら何度も繰り返して、身体に覚えさせる訓練をしているのだ。

まだまだエデュケーターの補助がないと動けないし、24個あるはずの背骨は頚椎・胸椎・腰椎の3分割ぐらいしか意識できなくてバキバキに固いけど、これちゃんと身体が覚えたら絶対踊りも変わる。レッスンの終わりに、「なんで私、もっと早くやろうと思わなかったんだろう」とつぶやいた。

「私も腰を痛めてピラティスを始めた時にそう思ったよ」と、プライベートレッスンをお願いしているエデュケーターが言った。「でも人間何か困ったことがないと新しいことやろうとは思わないし、今ピラティスを始めようと思ったってことは、今が朝子さんにとってのベストタイミングだったんだよ」と言ってくれた。

そう考えれば、膝の軟骨がなくなったのも、悪くなかったのかもしれない。いや良くはないけど、膝の痛みから逃げようとして始めたピラティスで、今まで自分の力では解決できなかった身体の使い方の課題を解決できるかもしれない。そう考えてちょっとわくわくしている。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?