都市部の抜本的改革【ショートショート】

都市部の人口過密と、いらぬ仕事で高給を取りすぎている人間がいるとのことで、資本主義にあるまじきことだが、平等性を期する為、各企業に国からの査察が入り、無駄な人員を削減し、地方のエッセンシャルワーカーへと回されることになった。

とんでもない法案だが、人々が政治にあまり興味を持たなかったから、その間にしれっと決まってしまったらしい。

そもそも高齢化に伴い入居施設とそこで働く人が足りなくなったために抜本的に、というのが一応の理由で、そんな法案を通したらしい。

法案が通っても、地方の暮らしはほぼ変わらず、また、エッセンシャルワーカーの賃金を1.5倍にするとのことで、むしろ歓迎されていた。

喧喧囂囂としているのは都市部である。いやらしいほどに丁寧に査察が入り、いらないと思しき者はばったばったと切られていった。元々企業側としても口減らししたいとは思っていたがなかなか切れない人員などもいたので、残念そうに別れを告げながらも内心ほくそ笑んでいる経営者もいた。

さて、都市部から追い出された人々は、国のよきように各地方へ配置された。本人の意向など当然反映の余地はない。場所も職務も国に決められたところへやられるのである。

資格が必要な仕事であれば、それをとるための合宿所へ放り込まれた。
たいてい何の資格も持たない者が多かったので、これから潰しが効きそうな資格をいくつか取らされた。
「おい!私は〇〇という社内資格も持っていて、部下だってたくさんいたんだ!その私がなぜこんな目にあわなければならないのか!」
合宿所へ放り込まれても食い下がる者はいた。
「今更車の運転なんて‥。運転なんて下賤の者がすることでしょう。第一事故でも起こしたらどうしてくれるんです?私は運転手がいるからいらないよ」
そんなものに勿論国が耳を貸すわけがない。社内資格なんて当然無意味だし、運転手なんてもういない。むしろ自らが運転しなくてはならないのである。
皮肉なことに運転手のいた男は物流の仕事に回され、もうひとりは農業をすることとなった。

最初は文句ばかり言って、仕事も全くできなかった男たちであったが、一年もするとそれなりのことはできるようになり、過去のことも忘れてしまったかのようだった。

やはり仕事は見合っただけのことをするからそれだけの収入が入ってくるものなのである。
実際、最初は不満だらけの男たちも、生き生きとした顔へと変わっていき、溜め込んだ脂肪もすっかりなくなり顔色も良くなっていた。

実は国の政策の大元の理由は、生活習慣病やロコモティブシンドロームの予防も盛り込まれていたのではないかと、最近では噂されるようになった。
まあ、真意のほどは定かではないが。


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