ロングヘアーストーリー①【恋愛 短編小説】

一月ぶりに美容院へ来た。
いつもの美容院で、やっぱり担当もいつもの人。というか、切ってくれるなら誰でもいい。夏休み中に行っときなさい、と母に言われて来ただけなのだ。
「どれくらい切る?」
「揃えるくらいで」
いつもどおりのオーダーだ。実は以前、20センチほどバッサリ切って学校へ行ったら、先生に怒られたのだ。あなた、髪の毛を短くするときは報告しとかなきゃだめじゃないの、と。それ以来、面倒くさくて伸ばし続けている。
「先にシャンプー台へお願いしまーす」
いつものように声をかけられ、いつものようにシャンプー台へ。
「目元、暗くなりますねー」
ガーゼをかけられる。
「じゃ、担当変わりますねー」
サーーーー。耳元でシャワーの音がし始めた。頭にお湯がかけられる。
「熱くないですか?」
お?
「は…い」
聞いたことない声だ。新しい人だ。途端に私は固まった。気取ってみても一介の高校生。こんなつまらないことでも緊張する。
「痒いところはないですか?」
「はい…」
「洗い残したところはないですか?」
「はい…」
いつもどおりの質問が滞りなく交わされた後。
「きれいな髪だね。染めたりしてないから傷んでない…」
バシャッ。
「うわっ」
「あ、ご、ごめんなさい!」
びっくりして、濡れた髪のまま、起き上がってしまった。ど、どうしよう。は、恥ずかしい。
「く、く、はははは」
わ…笑われた。がーん。
「髪の毛拭こうか」
笑いながら拭かれた。けれどその後は真顔になり、何事もなかったかのように担当もいつもの人になった。
なんなんだ、なんなんだ、なんなんだ、あいつー!雑誌に目を通す振りをして動揺を隠した。
無事カットが終わりレジに立つと……さっきの奴がいた!
できるだけぶっきらぼうに、お金だけ渡して帰ろうと思った。が。
「よかったら、サッカー見に行かない?」
「………は?」
「今度の土曜、長良川競技場で試合があるんだ。17時頃入り口で待ってるから」
いつもカットしてくれるおじさんが、ニヤニヤしながらこっちを見ている。
「わ、わかりましたっ」
恥ずかしくて、なんとかとりあえずの返事をして店を飛び出した。

そして土曜日がやってきた。
彼に誘われたことは誰にも言ってなかった。友達にも、親にも。
親に言っていないから、突然夕飯時に出かけるわけにも行かない。つまり今日は行くつもりがなかった。
17時。待ち合わせの時間だ。けれど私は家にいた。そろそろ待ち合わせ場所に来た頃かなあ。
17時15分。遅いなあなんてキョロキョロしてるかなあ。大体、ケータイ番号教えてくれればいいのに、あんな大勢人がいる中では、出会えるはずがない。
17時半。さすがに30分待って、おかしいと思い始めてるだろう。
17時45分。あと15分でキックオフだ。でも、私はあの人の名前も知らないのだ。
私は夕飯を食べながら、ぼうっと約束した試合をテレビで眺めていた。


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一話完結になりませんでした(;_;)

長くなってごめんなさい(;´д`)トホホ

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