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夜のガーデン【ショートショート】

昼間はごく当たり前の姿を見せる、我家の庭。
紅梅、藪椿が咲いている、コブシも咲き始めた。プランターにはサクラソウにビオラ。地植えしたクリスマスローズは、オーソドックスなやつと黄色が花をつけ始めた。芝は冬枯れしている。夜の気温も安定してきた。

そんな春めいてきた折、うちの庭では不思議なことが起こる。

0時すぎ、僕は庭に出てみる。庭の端がぼんやりと光っている。それほ、モヤの濃い日に限って起こる。だから通りすがりの人は愚か家族も知らない。
ちょうど藪椿の足元の辺りに、ピカッと光るものがある。ほんの少しで、よく見ないと気づけないのだが、苔が光っているのだ。

幼い頃海外の番組で光る苔を見たことがあった。その時、幼かった僕は、わりと自然にうちの庭にもそれがあるはずだと思った。21時に寝かしつけられたふりをして、何度も降りてくるまぶたを上げて、眠気と戦いながら、両親が寝静まるのを待った。0時頃、ようやく下の階が静かになり、僕はそっと庭へ出た。

パジャマ一枚では少し寒かった。けれどまといつくようなモヤで湿度が高く、寒いような温かいような不思議な気温だった。

僕は一心に探した。あの光る苔を。すると片隅で小さく輝いているのを見つけた。これは僕の宝物だと思った。だから大切に胸にしまって誰にも教えなかった。

あれから二十年が経ち、この苔の珍しさに僕は気づいている。しかし昼間は普通の苔の顔をしているから、誰も気づかない。今日もモヤが濃い。僕はこっそりと庭へ出て、苔を愛でる。

夜の庭には昼には見せない顔があるのだ。

※題名は、マシーンぶくおさんの庭のガーデンを参考にさせていただきました。


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