井戸の中の生活【ショートショート ファンタジー】

井戸の中には実は幾人か住んでいる。

家族というわけではなく、一人ずつやってきたのだが、今となってはみんなでそれなりに仲良くやっている。

井戸の中にはいくつか部屋があって、上から覗いて見える部分は共用スペースだ。言うなればリビングだろうか。

井戸の中には今、5人の男性が住んでいる。

年齢としては40〜80代。

みな、それぞれの趣味を持っていて、適度な距離で接していて、一人で過ごしたいときは個室にこもる。

食料は各自縄梯子を上って確保しに行くが、時折はおすそ分けもしあっている。

昨日は50代の男性がみんなにパウンドケーキを配っていた。一人で食べきれないから、とさりげなく。でもみんな、わざわざ買ってきてくれたんだなあと思いながら、それを口にせず、礼を言って食べる。

50代の男性は絵描きだ。ケーキのお礼にと、60代の男性がモデルになっていた。自分の肖像ができあがっていくのを楽しみにしていた。

40代の男性は畑をやって、作物をマルシェで売って生計を立てている。夕飯は畑で取れたものを使ってラタトゥイユをみんなへ振る舞った。

60代の男性は、時折村の人へ武術を教えていた。

70代の男性は、村人たちに生きやすくなる術を伝えていた。

80代の男性は主に執筆をしていた。推理小説が主だった。

みんな、自分のペースで好きなことを好きなだけやり、その対価を必要な分だけ受け取り過ごしていた。

男性たちは今を楽しく生きていた。昔も先も考えずに。ただ、のんびりと与えられた時間を楽しんでいた。

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ナスカーチャさんの記事にインスピレーションを受け、書きました。


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