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ki•i•ro【ショートショート】

私は髪を寄付した。寄付するには30cmは必要と言われたので、1年半くらい頑張って伸ばした。

いくつかの束に分けられた髪がどんどん切られていく。私はそれがなんだか愛おしくて、その髪たちに名前をつけた。

束の分を切り終わり、美容師さんに聞かれる。
「どのように整えていきましょうか?」
「ベリーショートにしてください。髪色は黄色で」
私は私の分身たちにki•i•roと名付けた。

さて、彼女の分身であるki•i•roはと言うと、きちんと鬘に整えられ、アカネちゃんという小学生の女の子のところへ届けられた。

アカネちゃんは病気でいっとき髪の毛がなくなってしまい、お母さんがアカネちゃんの為に鬘を買ったのだ。

けれどアカネちゃんは鬘が嫌だった。鬘というより病気で髪を失くしたことが悲しかった。だからお母さんが買ってくれた鬘も、
「こんなものいらない」
と壁に投げつけて泣いていた。


ある日アカネちゃんはお母さんと一緒に病院へ行った。定期的に通院しなくてはならないのだ。アカネちゃんは外に出るからとしぶしぶと鬘をかぶり、その上にバンダナを巻いていた。

すると目の前を鮮やかな黄色の髪のお姉さんが歩いていくのが見え、思わずじっと見てしまった。
お姉さんはアカネちゃんの視線に気づき微笑んだ。
アカネちゃんはなんだかどきどきして、
「髪の毛きれいな色ですね」
ともじもじしながら言った。
するとお姉さんはより一層笑顔になって言った。
「私ね、髪の毛を寄付したの。その記念と言ってはなんだけど、その鬘を使っている人が元気になればいいなあと思って」
そう言いながら毛先をくるくると触っていた。
「黄色はおひさまの色じゃない、ひまわりも黄色だし、なんか元気出そうだなって。あ、ごめんなさい、なんかよくわかんない話してしまって」
お姉さんはニコっと笑って行こうとした。
アカネちゃんは言った。
「私も‥私もいつか、おんなじ色にします!」
「ほんとに!?うれしい!」
「私‥はい、がんばります」
「うん、ありがとうね」
お姉さんはお礼を言って手を降りながら去っていった。

ひまわりの色、太陽の色。
アカネちゃんは唱えながら歩いた。
「お母さん、私がんばる」
お母さんはそんなアカネちゃんを見て、泣きながら抱きしめた。

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