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光野朝風
2016年5月27日 21:06
八幡西区の空には数多くのホバーカーが走っている。目の前には雑然とした街並み。工場の煙突は煙をボンボン吐き出している。ほとんどが錆びた鉄のような臭いとオイルの臭いと豚骨だ。瓦礫の山に、時折屋台。薄汚れたジャンク屋に雑貨屋。だけど時がどれだけ経ってもヌードルは消えなかった。もう体のほとんどを機械化して、あと脳が滅びるだけっていう状態のヒイヒイヒイヒイ……数えるのも面倒臭い俺のじいさんが、これは昔
2016年5月24日 03:34
ドライブ中の二人。 札幌から来た佐渡が北九州市の若松区在住の金本に乗せられ西部にまで走らせている。 最近中古で待望のRX-7が手に入ったとかで、大喜びで飛ばしている。「なっ? いい音だろ? このエンジン音と振動がさぁ、もう最高だよなー」 色々とおいしい食事どころを案内してもらった手前、いくら仲良しとはいえ茶々を入れられない佐渡が、次々と足早に流れていく田舎風景を眺めていると、
2016年5月24日 02:57
「恋をしたら必要になるのは観察力で、愛を抱いたら必要になるのは忍耐力だ。だが、この二つは、その真っ只中にいる内は自然としている。苦痛になった時点で完全に失っているのさ。恋も、愛も」 そう言った俺の作家志望の友人がいた。「俺はクズだし、お前は立派に生きているから、自信持って生きていけばいいんだよ」と酔った時口走ることが多かった。 小説を書いてはいたが鳴かず飛ばずで、俺は彼の小説が好き
2016年5月20日 02:41
僕はその人の考えていることが、よくわかるような気がする。 気がするだけで充分かもしれない。どうにも口が悪く、意地も悪く、意固地で、信念があり、物事もハッキリ言ってしまうタイプだから敵も多いことだろうと思っている。アイディアマンであり、実行力もあり、我が強いくせに実は傷つきやすいナイーブな面を持っているが、ブルドーザーのような力強さと突進力で、そのような繊細な一面は一切感じ取ることは出来な
2016年5月18日 02:05
北九州市立大学には最初からあった北方キャンパスと後に出来たひびきのキャンパスがある。二つは離れているし、ざっくり分ければ北方キャンパスは文系。ひびきのキャンパスは工学や情報建築などの学科が入っているため様相も違っている。 私は久しぶりに北方キャンパスに来ている。 学食前のテラスには白い椅子やテーブルが立ち並び、晩秋の紅葉の木々が立ち並んでいる。 少し肌寒くなり出したというのに、ホ
2016年5月12日 21:49
どうすればいいのか腹は決まっているはずが、岩淵幸弘の心の中では迷いがあった。いかにも矛盾している。 夜明けだ。若戸大橋の向こうに見える戸畑区の工場地帯には絶えることなく煙突から煙が吐き出されている。変わらぬ景色、変わらぬ営み。 岩淵は深夜から高塔山公園から北九州市の景色を眺めていた。落ち着かず溜息ばかりをついて、眉間に皺を寄せ、自分の体が泥に埋まっていくような感触さえ覚えていた。知ら
2016年5月10日 01:29
一分一秒刻んでいくごとに、光が集まって眩しくなっていく。 頭上にかかる若戸大橋を走る車の光も対岸の戸畑地区の光も輝いて美しく見えてくる。 私の胸は大きく高鳴り、あの人を待ち焦がれる。ちりちりと燃える胸の内は溢れそうな想いで一杯になってくる。「ごめん。約束の時間には遅刻しそうなんだ。急な仕事が入って。一時間以上は遅刻しないようにする。本当にごめん」 彼からのメールを読んでも、が
2016年5月6日 02:11
「殿! もはや城は敵に囲まれ逃げ場もありませぬ!」 腹心の小太郎が城主の堅剛へ悲痛な面持ちで叫んだ。「ぬぅう。敵め、我が軍を出し抜き、ここまで追い詰めるとは、天晴れなやつめ」 敵軍二千。堅剛の軍勢は三百にも満たなかった。敵軍は騎兵を主戦力としていたため、山や山林に逃げ込み馬の威力を消しながらも戦ってきたが、背後に伏兵を置かれ次々と拮抗していた兵数は削がれていった。 間者の報告に