見出し画像

アジアの超絶僻地ラダック、標高4500mに浮かぶ天空の湖

標高4800m。
まさかの雪。

まだ9月だよ!?

決断を迫られた。
ラダックが走行可能なのは夏季のみ。
冬季は道路閉鎖されて陸の孤島となり、アクセスは空路のみとなる。
これは一時的な雪なのか、それとも冬の到来なのか。
本格的に降って積もるのなら、今のうちに撤退するのが懸命だ。
退くべきか、進むべきか…

・・・特攻だ!

初めての標高5000m。

気圧は550hPa。
体力の消耗がハンパない。
1時間で2~3kmしか進めない。
それでもいい。
ゆっくり進んで、10mごとに立ち止まって深呼吸。
僕は人一倍高山病になりやすい体質なのだ。

あとわずかで峠なのに、みるみる雪が深くなって行く手を阻む。

こんなにしんどいのに、こんなに楽しいのはなぜだろう。
頭ガンガン、心臓バックンバックンさせながらも、ヘラヘラ笑いながら登っていた。

気持ち良すぎる。
自転車旅行万歳!!!

カルドゥン・ラ(標高5359m)。

「ラ」は「峠」という意味。
キリマンジャロ(標高5892m)よりは低いがモンブラン(標高4807m)やアララト山(5137m)よりは高い。

インドはこのカルドゥン・ラが標高5602mで、自動車の通行が可能な道路としては世界一高い峠だと主張している。
が、その信憑性は低く、GPS計測によると標高5359mらしい。
まあどっちでもいい。
峠からの眺めはまったくだが、それでも満足度は100!

幸い、峠を下ると雪はもうなかった。

年にもよるだろうけど、10月いっぱいぐらいなら走れるんじゃないかな。

再びインダス川を登る。

相変わらず、車とすれ違うたびにクラクションが鳴り、せっかくの静寂が破壊される。
遠くから車の音が聞こえてくるだけで、条件反射的に胸糞悪くなってくる。
しかしどこへ行っても村人たちは気さくに話しかけてくれたり、僕の自転車をベタベタ触ったりする。

チャック全開三兄弟。

標高4800m。

サイクリング・ラダック。
アジアの超絶僻地。

標高4500m。
この世のものと思えぬ湖あらわる。
ツォ・モリリ。

どう形容したらいいだろうか。
ここではどんな言葉もむなしい。
ただ、家族や友だちをここに連れて行きたい、と思った。

いや、やっぱりひとりで、自力で行きたい。
同じ場所、同じ風景でも、これはこの時の僕だけの私的体験。

ラダックは、インドと中国の国境紛争地。
1959年にインドがダライ・ラマの亡命を認めた時から小競り合うようになり、現在も国境で両国軍が衝突して死者が出ている。
ここもまた、地図上の国境は点線で描かれている。

カルドゥン・ラやこのツォ・モリリなどいくつかの重要な軍事エリアは、ILPというパーミットを取得しないと立ち入ることができない。
そのおかげというべきか、見渡す限り誰もいないこの天空の湖、僕と一匹のイヌだけでひとりじめ。

低酸素サイクリングで、キメてみる。

標高4300m。
村が現れたが、売店もレストランも宿も見当たらず、なぜか学校だけがあった。
すでに日は沈んでいたが、校内には人の気配があった。
ものはためし、校内に泊めさせてもらえないかと頼んでみた。
すると高学年の生徒が上手な英語で、「先生を呼んでくるのでちょっと待って下さい」としっかりした応対をしてくれた。
先生は快く承諾してくれて、教室で寝させてもらった。

ここは全寮制の学校のようで、生徒も教師も寝食をともにして生活している。

翌朝。
この日は日曜日で授業はなく、生徒たちが校内を案内してくれた。

井戸水とソーラーパネルでの学校生活を見学。

今まで見てきたラダック人よりも、さらにアジアンな顔つき、見方によっては日本人にそっくりとも言える子たちだった。
外見だけでなく性格も、シャイで初対面の人とは馴れ馴れしくせず一歩引くところ、客を丁重にもてなすところ、年功序列、など日本人とそっくりな点を発見して、親近感が湧いた。

突如現れたにぎやかな学校がウソのよう、一歩踏み出せばまたむき出しの荒野。

途方に暮れるようなこの広大さを表現するには、写真はあまりに非力だ。

標高4800m、名も無き峠。
低酸素サイクリングでブッ飛んでみる。

まだまだ登るよ。

5000m、もういっちょ。
ラチュルン・ラ(標高5079m)。

脳をギュッと締めつけられる、この心地。

あら、素敵な道。

ドバドバ流れてますねー。

1日何回川を渡らせるつもりだ?

素敵な橋。

13億のインド人よ。
今すぐここに集結してまともな道路と橋をつくっておくれ。

ラダックは野宿天国。
どこにテントを張ろうが、誰も何も言わない。
こんなに人目を気にせずに野宿できるところは、インドには他にない。

毎晩、満天の星空。
「本物の天の川はどこだ?」って探してしまうほど、天の川ではない星屑が夜空を埋め尽くしている。

冷たく澄んだ空気。
心地よい深呼吸。
静寂。
至福の時。

ん?

誰?

僕は彼女をチャパティと名付けた。
「チャパティ!」と呼ぶとちゃんと反応する。
なでてやると気持ち良さそうにする。
いかん、こうやって情が移っていくのか。

当然僕より足が早く、勝手について来てるくせに「まだ~?」と退屈そうな顔をしやかる。

標高4000mの峠も一緒に越えた。
標高4000mの峠でチャイとオムレツをつくって商売しているおばちゃん、つえー。

ヤク、でけー。

今晩は山小屋で泊まるから、おとなしくしてろよ。

翌日。
チャパティ、やけに遅いなと思ったら、足を切って血が出ていた。
人間でいったら、けっこうおばさんなのかもしれない。
弱りかけのようにも見える。

村を通るたびに、チャパティは地元犬から威嚇されていた。
インドのイヌはおとなしく、あまり吠えたりしないが、いきなりニューフェイスが現れたりしたら、さすがに興奮しだす。
チャパティは時に反撃し、時に僕に寄りそって無視を決めこむ。

とうとう、ラダック最後の街マナリまで来てしまった。

どうしよ、こいつ?
このまま日本に連れて帰るか。
それとも食べてしまおうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?