サイクリング・シベリア、バイカル湖の氷上を突っ走る
ああ、シベリア。
いざ、バイカル湖へ。
未知の国で一歩を踏み出すのはいつだってビビるしゾクゾクする。
でもこうして僕は進み続けることができる。
淡水湖のボス、バイカル湖。
世界最古の古代湖。
もともとは海だったが、3000万年前に外洋から閉ざされ、長い年月をかけて淡水化した。
通常の湖は土砂の堆積で数万年で消失するが、バイカル湖はプレートの境で現在も引き裂かれているため、長期間湖であり続けている。
世界最深。
最大水深1642m。
スカイツリーが2.5本すっぽり沈む深さ。
石を落としたら湖底に到達するまでどれぐらい時間がかかるだろう?
世界最大貯水量。
地球上の淡水(極地の氷などを除く)の20%を占める。
面積は世界7位、琵琶湖の46倍。
アメリカ-カナダの五大湖に比べたら大きくはないが、その圧倒的な深さゆえに貯水量は群を抜いている。
世界最高透明度。
最大40m。
もともとは海だったため生物は独自の進化を遂げ、淡水でありながらアザラシ、チョウザメ、サケなど豊富な固有種を有する。
1~5月は厚さ1mの氷で覆われる。
車の通行も可能で、氷上交通網ができる。
電源は太陽。
水は無限にある。
最高透明度の湖水は、沸かさなくてもそのまま飲める。
最速のやっつけ料理、スープスパゲティ。
今は何よりもうまく感じる。
世のいかなる高級ホテルよりもぜいたくな1泊。
すばらしい静寂と星空。
バイカル湖の氷上でもネットがつながり、テントの中からSNSを投稿してしまったりする、そんな時代。
こんなん渡れるわけないないでしょ、って思うでしょ。
渡れちゃうんです。
一変して、すさまじい暴風。
テント設営不可能となり、陸地に逃げるしかない。
ツルツルの湖面では、強風に吹かれると踏んばることもできず、氷上を流されてしまう。
僕も自転車も暴風に踊らされて、なかなか進まない。
ふと気づくと、信頼していた厚さ1mの氷が大きく口を開けている!
暴風に押され、危うく世界最深に飲み込まれかける。
あと少しで陸地、というところで今度はドロドロの雪。
ズボズボと沈み込みながら、重い自転車を少しでも浮かせながら、ああ、なんて長い道のり。
次の一歩が僕と自転車をちゃんと支えてくれるのか、保証はない。
一歩一歩が博打。
でも、人はいつだってそういう風に生きている。
やっとこさ、命からがら上陸。
相手は自然。
この日は湖畔の宿に泊まった。
夜になると風はさらに猛威を奮い、窓に打ち付ける激しい音にゾッとした。
キャンプだったらテントごと氷上を滑り続けたかもしれない。
バイカル湖の御神渡り。
温度の上昇で氷が膨張し、隆起する現象。
街に近づくと、見慣れぬよそ者の出現にイヌが反応して吠えだす。
すると他のイヌも連鎖反応を起こして吠えだし、街全体が大変な騒ぎになる。
走行中、休憩していたトラックドライバーに呼び止められた。
「サラームアレイコム!」
おお、そっちの人か。
「アレイコムッサラーム!」
これはイスラムのあいさつ。
ドライバーはカザフ人で、モンゴルへ向かっているらしい。
昼食をつくっていたところで、「一緒に食べよう」とお誘いを受けた。
「どんどん食べろ。」と言われたので、本気でどんどん食べちゃった。
ああ、うまい!
英語はまったく通じないが、こういう人たちとは言葉の壁なんか関係ない。
身振り手振りで笑い合う。
カザフスタンを走行していた時も、よくドライバーに助けられたな。
せめてお礼として、いくらか払おうとしたが、「とんでもねえ」と断られた。
それどころか去り際に、僕の上着のポケットにナッツとドライフルーツとキャンディをたっぷりと詰め込んでいった。
395年にローマ帝国が東西に分裂したことで、西方にはカトリックが隆盛し、東方にはギリシャの正教会が派生していった。
現在のロシアや東欧はギリシャ文字をアレンジしたキリル文字を使用し、正教会の文化が基盤となり、西側のカトリックとは一線を画した歴史を歩んできた。
世界初の社会主義国家であるソビエト連邦を立ち上げたレーニン。
ロシア革命でソ連が誕生して100年。
崩壊して30年。
すっかり過去の人となったはずのレーニンが、こんな巨大な頭像として今も残されているのは、ただの覇権者ではなかったことを物語っている?
しかしこれは、、、インパクトあるな。
ロシアは、日本が45個すっぽり入るほどの面積。
この広大な国には、典型的なスラブ系白人だけが住んでいるわけではない。
中東方面にはトルコやペルシャの血が混じったイスラム教徒もいる。
モンゴルに近いこの地方は、アジア系のチベット仏教。
ロシアとアジアが混じり、チベット仏教とシャーマニズムが混じる。
この地に住むブリヤート人はモンゴル系だが、日本人かと思うほど我々に似た人も多い。
縄文人とのDNAの類似性から、日本人バイカル湖起源説というのもある。
日本人のルーツはここなのか?
ここがロシアだと言っても信じてもらえないかもしれない。
共産主義と宗教は相反する。
中国では毛沢東の文化大革命で寺院等は壊滅したが、ここでは宗教弾圧したスターリン政権下もくぐり抜けてこういった寺が生き残っている。
チベット仏教の真言「オム・マニ・ペメ・フム」がキリル文字で書かれている。
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