マダガスカルの人々
街から離れても常に見られている。
こちらからは見えなくても、はるか遠方から「サリー、バザー!」(こんにちは外国人!)と叫ぶ声が鳴りやまない。
うっかり道端トウモロコシ屋さんの前で立ち止まろうものならトウモロコシに包囲される。
また極上マンゴーが激安で買える。
マンゴー好きの僕には本当にたまらない。
ローストビーフ?
チャーシュー?
全然違いますよ、これケーキです。
あらゆるものがDIYだからおもしろい。
ハンドルもブレーキもついていて、坂を颯爽と下っていく。
これまた万国共通、男の子の手作りおもちゃ。
人目につかない場所で野宿するのは得意のつもりだった。
この日は、どの方向からも死角になって誰からも見られない茂みの中にテントを張った。
しかし、まもなくして妙な気配を感じたので、外の様子をうかがってみた。
すると、20人ものマダガスカル人に包囲されているではないか。
子供たちは僕を見て宇宙人でも発見したかのように騒ぎ出した。
大人も大勢集まってきたが、言葉がわからない。
しばらくして、英語を話せる男性がやってきて「ウチに泊まりなさい」と言う。
気持ちはありがたいが、一度セットしたテントと寝袋をたたんで移動するのは正直すごく面倒なのである。
「ここは誰かの私有地なの? それとも危険な場所なの? 一晩キャンプするぐらいいいでしょ?」
「いや、これは我々マラガシーのホスピタリティだ。ゲストを外で寝させるわけにはいかない。」
そこまで言ってくてるのなら、とお言葉に甘えることにした。
彼の家に着くと、6歳の娘さんがなんと日本語で「こんにちは! 元気ですか?」と出迎えてくれた。
電気も水道もないこんな僻地の村で、驚きとともにこの上なく癒やされた。
なんて楽しそう。
伝わってくる幸福感、生きてる感。
肌で直に感じたものを、僕は信じる。
異国の友が日本に来た時、こんな幸福感、生きてる感を感じてもらうことができるだろうか。
日本人にだって同じものがあるはずだと信じたい。
5人います。
家畜を追うのは男の仕事、水を汲むのは女の仕事、これも万国共通。
リアル「井戸端会議」が見られる。
マダガスカルは舗装率11%。
ただ舗装されていないだけでなく、川に橋もかかっていない。
今も人々は躊躇なく川に入って渡っていく。
かれらのこの前進力には勝てる気がしない。
頭に荷物を乗せて運ぶ原点はこれか。
手で抱えたら濡らしてしまうから。
バランスの悪い水中でこれをマスターしたら、陸地ではなんてことないのだろう。
川にはいつも人がいる。
釣りをしていたり、水浴びしていたり、洗濯していたり。
水浴びは、女性は上半身裸で、男性は全裸で。
日常の誰もがやることだから、特に恥じらいなどもないのだろう。
上半身裸の若い女性が僕と目が合っても、隠さず平然としている。
むしろ彼女の表情は、自転車に乗った外国人がここにいることの方に驚いているように見える。
ちなみに小便も、女性でも歩いている時ふいにしゃがみこんでシャーッと用を足す。
これも別に当たり前のことだから、本人も周囲の人も、何とも思わない、気にしない。
村に外国人が一人現れただけで大騒ぎされるが、女性が人前で裸になったり野ションしたりしても誰も騒がない。
学校。
来るぞ来るぞ。
ほら来た。
生きる選択肢はごく限られている。
日本で生まれたら無数の選択肢の中から自分の道を決めることができる。
ここでは、一生島の外の世界を見ることもなくただ生活していくしかない。
それなのに、このまっすぐで強い目力は何だろう。
どこから来てどこへ行く?
「サリーバザー! サリーバザー!」
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