孑孑日記㉛ 『鼻行類』の感想
ハラルト・シュテンプケ『鼻行類』を読んだ。奇書として名高く、他にほとんど類を見ない書物だから、ずっと読むのを楽しみにしていた。それでゆっくりと読み進めてさっき最後のページに至った。
一貫して真面目な論調で、架空の哺乳類についての記述をやりきったのには驚嘆する。何より驚くべきは、本書(平凡社ライブラリー版)にはないが本来収録されている序文やあとがき、そして書評にいたるまで、本書を取り巻く関係者が一様に乗っかり、さも鼻行類が現実に存在し、学術界で真剣に研究されているかのように振る舞っていることである。平凡社ライブラリー版あとがきでは、引用して本書がフィクションであることが示されるが、しかし訳者本人の言葉で、本書はフィクションである、とは断定されてはいない。「真剣な悪ふざけ」を関係者が揃って実演し、そもそもの出来の良さも相俟って、本書の評判を高めた側面があるといえよう。
もちろん、それを可能にしている本書の記述もある。しかし、僕が生物の博物書をあまり読んでこなかった関係上、きちんと鼻行類の生態について記述されている、とまではわかっても、そこから先には立ち入れない。そのため非常に口惜しいが、内容への詳らかな言及は避ける。ただ、素人並みの感想として、「ホンマかいな」と思える箇所が複数あったことは、表明しておく。
(2023.8.30)
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