日記112 安部公房『デンドロカカリヤ』

 この短編では、主人公コモン君が、K植物園長に、うちの植物園で植物になって暮さないか、と誘われる。そこでK(植物園長)はK植物園のすばらしさをPRするのだが、その際3回も「政府の保証つきですからね」と念を押す。当時の安部は共産党員であり、そのため除名されるまでの間、国家のお墨付きであったり、公的な承認であったりといったことを、かなり敏感かつ直接的に書いている。そしてそれは、「デンドロカカリヤ」においてはすばらしいユートピアのように語られるが、しかしそこは温帯の気候に管理され、園主催のイベントで盛りあがるトップダウンの環境だ。しかも、誘われて入った人々(ここだとコモン君)は植物になるわけだから、身動きできず意識も観測できないことになるわけだ。つまり徹底して人格を剥奪されたものが立ちならぶ楽園ユートピアであり、それが国家の保証つきなのだからなかなかグロテスクである。このような管理された楽園といえば旧共産圏の国々を想起させる。共産党員という身分からすれば反乱分子とも見られかねないのじゃないか? と素人には感じられるのだが、どういう心持ちだったのだろう。

(2024.1.12)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?