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Prism(3)

 翌日の面接がうまくいくはずもなかった。
 それから10社の企業を受けて、どこにも受からなかった。僕は憔悴し、やつれ、疲れ果てていた。フットサル仲間と会う心のゆとりすら持てなくなった。
 幻聴がまた聞こえた。クズ、クズ、クズ、クズ。中澤のせいだ。あいつにボランチなんかさせなければ良かったのに。雄登はマジクズだ。メンタルの弱い情けないヤツ。
 これだから内定もできないんだ。内定一つもらえないんだ。
「クズ、クズ、クズ、クズ!」
 壁に拳を何度も何度も激しく叩きつけて叫んだ。頭を壁に叩きつけようとしたそのとき、ミスチルの『Prism』がオーディオから流れてきた。
 僕はくずおれた。
 切なくて、二人のすれ違いが、やるせなくて、いいの。何かと引き替えに、何かを失っていく感じ。
 それは今の僕ではないのか。
 舞依にしてもらったあらゆることが思い出された。引きこもっていたときに話を聞いてくれたこと。長い髪、ワンピース、うなじ。初めて抱いた日のあどけない仕草。無数のキス。舞依に会うために髪を切り、ヒゲを剃って、お風呂に入ったこと。僕だけに心を開き、誰にも話せないつらさや苦しみを打ち明けてくれたこと。
 僕はバカだ。
 そう思うと無性に泣けてきた。申し訳なくて、申し訳なくて、たまらなくなった。
 すれ違うために出会ったんじゃ、恋したんじゃないのにな。
 泣いたままで、天を仰いだ。

 舞依へ
 身勝手なのはわかっています。
 もう一度、俺に会ってくれませんか。
 もう一度、俺を支えてくれませんか。

 グループホーム暮らしになって、家に会いにいくこともできない。やり直すことがよいことなのかもわからない。何が正しいのかも。
 でも祈るような、すがるような気持ちで、LINEでそのメッセージを打って送信し、玄関のドアを閉めて鍵をかけ、移行支援事業所に向かって歩き出した。

(了)


いつの日か小説や文章で食べていくことを夢見て毎日頑張っています。いただいたサポートを執筆に活かします。