【小説】鉄道員 5/5
私小説的小説、家族の再生の物語、ついに最終回です。
日曜の昼、一家は家を出て、車で帯広駅に向かった。
万智が札幌の大学へ進学して実家から離れて以来、見送りの時はいつも、両親がわざわざ入場券を買って、ホームまで送迎に来てくれる。
昔は、その過干渉さが嫌だった。3人の間に流れる微妙な空気が怖かった。母の人見知りからくる不自然な笑顔や、父の照れ隠しの仏頂面が忌々しかった。
けれど今は、そしてこれからは、そういったものもまとめて受け止められる気がする。
「3号車、1列目のA席・・・・・・」
万智はチケットを見ながら自分の乗る車両を探し、3号車の停車している方向へ歩き出した。それを両親が追いかける。父は今日もぎりぎりまで万智の荷物を持ってくれていた。
「よし、ここだ。お父さん、荷物荷物」
万智は3号車の前で振り返り、父に向けて両手を広げた。
「幸せになれ」
父は荷物を渡しながら、万智の耳元でぼそりと呟いた。
万智は驚いて目を見開いた。
「ありがとう」そう答えて万智はそそくさと車両に乗り込み、1列目のA席を探した。
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