【小説】fate 5/5

少年たちの青春・バンド・「恋愛」小説、最終回です。

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(ここまでのあらすじ)男子高校生バンド「Helter Shelter」のヴォーカリストの涼は、ベーシストの潤に淡い恋心を抱くようになる。3日間の合宿が終わる。涼は切なくやるせない思いを曲に込めて、渾身の力で作詞に打ち込み、とびきりの曲を書きあげた。どこにも行けない潤への思いを引きずり、涼はこれからどこに向かうのか――


スタジオに別れを告げ、くたくたになって、一同は、重くかさばる荷物を引きずるように、駅までの道を歩いた。さすがに帰りは、透は悟のグレッチを持ってやった。持った途端、透はグレッチの重さにたじろいだが、懸命に有言実行を貫いた。
涼はガラガラと音を立ててトランクを押しながら、ぼんやり潤の背中を見ていた。汗で背中に赤いシド・ヴィシャスのTシャツが張り付き、脇の匂いがする。リッケンバッカーの長さ重さに負けぬよう、「筋トレ、筋トレ」と言いながら、猫背にならずに上り坂でも体を起こして歩いている。
前向きだ。いつもしらけて他人や自分のあら探しばかりしている涼も、潤のように、もう少し前を向くことができるようになれたらいいと思った。
彼は文字通り、涼のひなた=日向、太陽だ。

駅前の商店街を通り抜けようとしていると、悟が楽器店を見つけた。帰りの電車まで、まだかなり時間に余裕があった。
「時間潰しに、見ていこうぜ」
テレキャスだけ背負った悟は、先陣を切って店内に入り、真っ先にエフェクターの陳列されたエリアへと向かう。悟のエフェクターケースには単体のものが既に20個以上、それにマルチエフェクターだって繋いでいるのに、今どきのギタリストという生き物は幾つエフェクターを持っても足らないようだ。これには皆が笑った。


残る3人も、店内でそれぞれの担当楽器のための物色をした。
透は何本あっても困らないドラムスティックの補給に加え、幾つか雑誌や楽譜も読んでいた。ステージ上で暴れ回ってベースを叩き壊すことがしょっちゅうの潤は、叩き壊す用の安価なベースを探していた。適当にベースを買って、リッケンバッカーと同じ色に自分でカラーリングする。後は弦などだ。涼は今回のレコーディングを機に、「マイク」という楽器にもっとこだわりたいと考えるようになった。質の良いマイクを使うだけで、歌声は飛躍的に、良く響くようになる。ボイストレーニングも、そろそろ始めなくてはと感じた。


4人が店を出て、駅へ向かおうというところで、潤が立ち止まった。そして言った。
「行ってくれ。俺は今日は帰らない。あとで帰るから」
「急にどうした?」
涼はしばらくぶりに、自分から潤に自然に声をかけることができた。
「イヤ、自分のことだとなかなか言いにくくてさ・・・・・・。実は俺、かおりと付き合うことになって。あいつ、明日東京に帰るっていうから、今夜は、あいつと一緒に過ごすことになった」
ヒュー! と口笛がひとつ鳴り、歓声やら、祝福の台詞やら、メンバー各々らしいやり方で、潤は祝福を受けた。
「・・・・・・良かったな」
苦々しさを表情に出さないように努めて、涼は慎重に笑顔をつくった。
「ありがとな」
潤はいつものように、邪気のない、優しい微笑みをみせた。そして踵を返し、駅と反対の方向へ歩いていった。
「涼、そろそろ行くぞー」悟と透が呼ぶ。
「ああ」
涼は、ふたりに向き直り、潤に背を向けるように、駅へと駆け出した。

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