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世界の均質化から分断化の時代へ、それにいかに抗うのかを新年に考えてみた。

アップリンクが1998年に配給した95~96年内戦終結間際のサラエヴォを私的な観点で見つめたドキュメンタリー『エグザエル・イン・サラエヴォ』タヒア・カンビスの監督の言葉「世界を均質化する力に抗う」をアップリンクの活動の指針としてきた。

経済的には、お金という世界共通の価値観で資本主義の世界はグローバルに活動する企業に支配され世界は均質化に向かっている。が、経済とは別な角度、政治と言うよりも、もっと広い意味で考え方、世界の捉え方、価値観では、2017年にアメリカでトランプ大統領が就任してから、アメリカの共和党、民主党の2大政党に象徴されるように、世界では分断化が進んでいる。

さて、この分断化は、どうして進んだのだろうか。その答えをイギリスのジャーナリストCarole CadwalladrのTEDの動画で一つの解を得た。

(https://www.ted.com/talks/carole_cadwalladr_facebook_s_role_in_brexit_and_the_threat_to_democracy?language=en 字幕設定で日本語字幕が出せます)イギリスのケンブリッジアナリティカが分断化の犯人だったのだ。Facebookの個人データを違法に集め、そのデータを元に個人の政治的指向性をはじめとした分類を行い、データを元に気になる記事を読ませ、選挙の投票行動を操作するというのだ。

選挙の場合、あきらかに投票行動がはっきりしている人は操作をしてもしょうがないので、迷っている人、浮動票層をターゲットにするという。いわゆる広告で商品を売るのではなく、投票を操作するところにコストをかけるという作戦だ。

日本では電通が自民党キャンペーンを女性誌VIVIで行ったことが知られているが、自民党指示でもなく、野党支持でもないVIVI読者は、操作できると踏んで自民党は予算を組んで電通に発注した。

ケンブリッジアナリティカは、2017年のアメリカ大統領選の予行演習として2016年のイギリスのEU離脱の国民投票でまず実験を行ったと言っている。実験は成功し、まさかのEU離脱派が多数を占め、翌年のアメリカ大統領戦では、メディアの予想を裏切りトランプ大統領が誕生した。

ということを、先ほどのTEDのCarole CadwalladrのトークとNetflixの『グレート・ハック: SNS史上最悪のスキャンダル』を見て知ったことだ。さて、その問題のイギリスのケンブリッジアナリティカは、2018年5月に破産した。なのに、2019年12月12日に行われたイギリスの総選挙では、EU離脱を主張する保守党が労働党を破り勝利した。大幅に保守党は議席を増やしたがこれは、小選挙区制のおかげだとも言われている。

前振りが長くなったが、世論の分断化を計り、実際の選挙で結果を出したケンブリッジアナリティカは破産してなくなっているのに、なぜイギリスの総選挙ではEU離脱を主張する保守党が勝ち、日本では与党自民党の支持率が極端に落ちることはない。なぜなのかを考えてみた。

要は、軍事技術で作られたインターネットが当初は世界と繋がる夢のネットワークだったが、実際にSNSを利用しているとみている情報は、実は自分に都合のいいというか、自分が知りたい、心地の良い情報ばかりだということに気づく。違う情報の方が圧倒的に多いのはわかるが、自分が目にしている、自分がクリックしている、自分がフォローしている情報がということだ。例えば自分のTwitterのフォローは8800人以上、知り合いと言うよりも、世界を知っておこうという自分なりのバイアスをかけて知らない人をフォローしている。(ちなみにTwitter利用者のフォローを知ることができるが、その人のフォローをそのままコピペできて、そのコピペした人のタイムラインを見ることができると面白ないなともう)一時、自分の考えと反対の人をフォローして、タイムラインを現実世界に近づけようと試みたことがあったが、Twitterにアクセスするたびに自分の考えと反対の意見を目にするのはあまり精神衛生上いいものではないと気づき、全く反対の意見を持つアカウントをフォローするのはやめた。というわけで、現在のTwitterの利用法は、情報収集と情報発信として利用している。Facebookのアカウントは持っているが、不特定多数との出会いが少ないので休眠状態だ。

自分のリアルな社会での生活は、自宅と会社で過ごす時間が多い。会社では映画の仕事をしているので映画に関することと接することが一番多くなる。SNSでは自分の関心のある情報と接していることが多い。自分の場合は映画に関することが一番多い。結局、狭いクラスターの中で生きている。

人は自分の見たいものに好んで接する。ネットで検索する行為はタコツボ中の知りたい事に直結できるから便利だ。SNSの世界でフォローしているアカウントは自分の好みを基準にしている。誰だって自分にとって心地よい居場所を欲する。自分の生活の範囲がリアルとネットの区別なくなった時代にリアルで行動できる範囲は限られているが、ネットで繋がれる世界は広い。ただし、広いがその中から自分の好みを選択している。なので、政治的思考から、趣味まで幾つものグループができ、お互いが接続し合うことはなく、それぞれが心地よい仲間の空間で生きていける。それはリアルな世界での繋がりよりも同じ指向性のネット上の共同体が形成されやすいからだ。

生活の中にSNSが占める割合が増えた現代は数年前より加速度的に分断化が進んでいると言えるだろう。その分断化に抗うにはどうすればいいだろうか、先ほど述べた自分が行ったように自分のSNSを好みと違う世界にチューニングするのはうまくいかない。いや、そもそも分断化に抗う必要があるのだろうか。自分と同質の価値観を持った人たちの中で毎日を暮らす方が心地よいではないか。

イギリス総選挙のEU離脱派、反離脱派の違いを一点挙げるなら、移民を受け入れるかそうでないかだろう。同じ民族、宗教、価値観を持った人だけの世界を望むか、それとも自分と違う民族、宗教、価値観を持った人と共存する日常の世界を望むのか。イギリスの国民は前者を選択したわけだ。同じ価値観を持った人たちに囲まれて毎日を生活する方が心地よい、その感覚に反論する論理は思いつかない。ただ、現実の世界はそうではない。その論理が拡大すると分断化された一つの世界が進めば、その世界には均質化を強いる力が出てくる。分断化された末の同じ価値観の人だけが住む宇宙ステーションにでも生きていない限り、分断化の末の自分が属する世界だけだけでなく、違う世界を想う、違う価値観を持った人を、他を想う力が必要なのではないか。

中国の共産党一党独裁の社会システムをみればよくわかる。現実社会では同じ価値観を持った人など存在しないのだ。人はそれぞれ違う価値観を持っているのだから。そのシステムに抗う香港市民はデモを起こし、2019年11月の地方選挙で民主派が圧勝した。

分断化が進めばその分断された共同体や社会では均質化が進む。SNSが進んだ現代社会では分断化が進むのは止むを得ない、ただ、リアルな社会はSNSの社会に比べればそこまで分断することは難しい。アメリカではフェンスに囲まれた富裕層だけが住む街が作られているというが。SNS社会の分断化とリアル社会の分断化は一致せず、そこに亀裂が生まれる。

ここまでの考えをまとめてみた

(1)SNSの中では同質の価値観のグループがリアル社会の枠を超えて形成され分断化が進む。

(2)同質の価値観の中に居ることは心地よい。あえて違う価値観の中に飛び込む必要はない。

(3)ただ、世界は同質の価値観では形成されていない。

(4)SNSの世界だけなら同質の価値観同士だけが繋がれるが、世界は異質な価値観の集合体なのでリアルな世界では分断化された片方の世界で心地よく生きようとすると他方を駆逐する必要がある。あるいは、要塞化して他が進入できないようにする。

(5)ただ、戦争の歴史を見てわかる通り、違う価値観を持った他方を駆逐することはできない。

(6)分断化は避けられないが、リアルな世界は価値観が混在しているので、その中で生きていくには、「他を想う力」が必要である。

SNS時代の分断化された社会に抗うにはどうすればいいのかという自分なりの解の一つは「他を想う力」に辿りついた。

映画という自分の仕事はその「他を想う力」を養うには長けているのではないかと思う。世界の様々な国の映画、自分と違う価値観を持った登場人物たちの映画を観る事は世界の分断化に抗う力を養う事になると思う。映画には「他を想う力」を養う力がある。『アナと雪の女王2』で、ディズニーはサーミ人に敬意を払い、北サーミ語の吹き替え版を作った。一方で映画には社会をの分断化を推し進めたり、国家を転覆させようとしたり、ステレオタイプな差別を固定する力も持っている。その力を知っているからこそ、ヒトラーはレニ・リーフェンシュタールにベルリンオリンピックの記録映画『オリンピア』を作らせ、中国は公開される映画の力を恐れて検閲制度を設けている。

今なら『オリンピア』を批評的にみる観る観客は育っているだろう。ヒトラーが行ったことを思考から排除するのではなく、そこに「他を想う力」を働かせれば、ヒトラーがどういう目的で映画を作ったかを想像できるからだ。

「他を想う力」を養う場としての映画館を作り、運営していきたい。アップリンク渋谷、吉祥寺と続き、今年は4月にアップリンク京都をオープンさせる。

映画を観るより一番簡単にできるのは、世界に旅に出ることだろう。手近なところではいつもと違うところを散歩をする、街を歩くということはどうだろう。リアルな社会は分断化されていない、いかにカオスかを知ることができる。

本年もアップリンクをよろしくお願いいたします。






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アップリンク代表、未来の映画館プロデューサー。1987年にアップリンクを設立、最新配給作品は『ドルフィン・マン』。映画館、アップリンク渋谷・吉祥寺を運営する。2020年4月にはアップリンク京都をオープン予定。

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ただただ、勉強になりました。ありがとうございます。
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