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家族3人で文京区から小田原に移住した女性のリアル【「理想の移住」を実現させた3家族の暮らし方③】

 都心の郊外に住まいを移す「100キロ圏内移住」は、コロナ禍でとりわけ注目を集めた移住スタイル。「理想の移住」を実現させた3組のケースを、2021年6月に刊行した『移住。成功するヒント』(朝日新聞出版)から紹介するシリーズ。3組目は、便利さと自然に囲まれた環境の両方を手に入れた望月幸美さん一家だ。夫のレムコ・アバーソンさん、娘のヤンネ結ちゃんの3人で、海も山も窓から一望できる家に暮らす。都内から小田原市に移住してきたのは2020年10月のことだ。
(初出:AERA dot. 2022年7月24日)

『移住。成功するヒント』(朝日新聞出版)

■「理想の移住」を実現させた1組目の回はこちら

■「理想の移住」を実現させた2組目の回はこちら

 移住を考え始めたきっかけは、新型コロナウイルス感染症の拡大で、望月さんの自宅勤務が続くようになったこと。当時の自宅は東京・文京区の2LDKの賃貸マンションで、都内では静かでいい場所だと気に入っていた。でも、自宅にいる時間が長くなるにつれ、手狭に感じるようになっていった。1歳をすぎたヤンネ結ちゃんも活発に動き回るようになったが、子どもを連れて遊びに行くにも、公園までは歩いて30分。アウトドアを楽しもうと思っても、郊外まで行くのに電車で2時間かかる環境だった。

「子どもが外でたくさん遊べる場所があるといいなというのも、移住を決めたもうひとつの理由です」

 アバーソンさんはもともと自宅で仕事をしていたが、都内の会社に勤務していた望月さんにとっては、毎日通勤する必要がなくなったとはいえ、都内へのアクセスの良さも大切な条件だった。

望月幸美さんと夫のレムコ・アバーソンさん、ヤンネ結ちゃん。近郊移住で自然豊かな暮らしを手に入れた

「はじめは東京都と埼玉県の間あたりにしようかとも思ったんですけれど、それだとかえって、満員電車で通勤になってしまう。1時間とか30分とか、在来線で満員電車に乗るくらいなら、新幹線通勤のほうがいいんじゃないかなと思いました。座れるなら通勤時間も仕事に使えますし」

 新幹線で通勤できる候補地として考えたのは、神奈川県小田原市、静岡県三島市、長野県佐久市。手始めに小田原市に相談したところ、お試し移住体験を紹介された。

「小田原市に申し込んだお試し移住体験は、金土日の週末のプランで、普通の宿泊よりは安く宿に泊まれて、希望すると町を案内してくれたり、質問にも親切に答えてくれるという気軽なプランでした。行く前までは小田原って、なんとなくひなびているのかな?というイメージがあったんですけれど、行ってみたらいいほうに違っていて、『ここなら住めそう』と感じました」

「住めそう」と感じたポイントはどんなところだったのか。

「レストランもいっぱいあるし、ふだん東京で行っていたようなショッピングセンターとか買い物できるところもあって。駅の隣に商業施設や文化施設も作られていて、町の活性化に市が力を入れている感じもいいなと思いました」

 2泊3日のお試し移住の最終日に家を見に行った。毎月払っているマンションの家賃を「けっこうな金額の割に意味のない出費」と感じていた望月さん一家は、もし移住するなら、それを機に一軒家を買おうと考えていた。もともとはリノベーション済みの中古の一軒家の購入を予定していたが、ある新築の家に入った瞬間に「ここに決まり」と感じたという。

天井の高いリビングで在宅ワークも快適。キッチンからはリビングの窓越しに山と海の景色が見える

「そもそも新築で予算外の家だったから、せっかく来たのだから見てみようかという感じで、冷やかし半分で入ったんですけれど、即決でした。2階建ての4LDKの家なんですけれど、2階にリビングがあって、天井が高くて梁が全部見えるデザインなんですね。そのオープン感と、窓を開けたときに山と海がきれいに見えた、その景色が決め手ですね」

 立地もよく、小田原駅から歩いて20分ほど。小田原の町も住まいも気に入った望月さんたちは、ほかの候補地を見に行くことはせず、約2か月後にはスピーディーに移住が実現した。

 望月さんは、小田原ならではのアクセスの良さにメリットを感じている。実は、望月さんは移住後に転職。コロナの影響もあり、面接はほぼZoomミーティングなどのオンラインだったので、小田原に住んでいることの不便さは感じなかった。新しい職場も都内だが、小田原から東京駅までは新幹線で片道約30分と快適だ。

「今はコロナで週1~3日くらいの出勤ですが、新幹線で座れて1本だから楽ですね。やっぱり週に1度は職場に顔を出して、お互いにコミュニケーションを取ったほうがいいなと思うので、通勤が楽なのは助かります」

 通勤に便利なだけでなく、在宅で仕事をしているときは、ちょっとした時間に箱根や湯河原、二宮などに足を延ばすことができる。

「朝、子どもを保育園に預けて働いていますが、預けた帰りにちょっと海岸を歩いてリフレッシュできたり、家で仕事をしているときは、ランチ休憩の1時間に夫とバイクで箱根まで往復したり。こういうことができるのはメリットだなと思います」

 休みの日は、一家そろって1日中、外で遊ぶ時間がたっぷりとれるようになったのも大きな変化だ。車で10分の大きな公園や、小田原城近くの広場、それに近くの海岸に遊びに行ける。畑を持っている知り合いのところで農作業をしたりと都内ではなかなかできなかった体験を満喫。地域の人たちとの日常的な関わりも、都内に住んでいたころよりも深くなったと感じている。

知人の畑で農作業を体験。ヤンネ結ちゃんも収穫のお手伝いに忙しい。畑の向こうには山々が一望できる

「周りの人たちが人なつこい印象があります。東京だと隣に誰が住んでいるかも知らないままでしたけれど、こちらでは道端で会った人と『こんにちは』とか、レストランとか飲み屋さんに行っても、お店の人やお客さんたちと話す機会が多くて、東京と比べると人間らしいというか、コミュニケーションが広がった感じがします。お店もスペースが広いせいか、子どもに優しいところが多くて、子連れがだめなお店は少ないですね」

 生活コストの面では都内とあまり変わらないが、満足度がアップしていることを実感していると望月さんは話す。

「このあたりはどの家も2台は車があるくらい、車は必須です。都内と違って基本タクシーは、呼ばなくては来ませんし。引っ越し前に車は買いましたし、新幹線の交通費もかかります。マンションから一軒家になったので、光熱費も以前より増えていると思います。でも、全体として生活するうえで、費用以上に良さを感じることが多いです」

 例えば、新鮮で豊かな食材を当たり前のように毎日の生活で楽しめるようになった。町にはたくさんの魚屋があり、スーパーでも魚が丸ごと並んでいて、そのおいしさに望月さんはびっくりしたという。小田原で作られた柑橘類や野菜も近くの八百屋や無人の販売所で気軽に買うことができる。パンをよく買う望月さん一家にとっては、市内にいろいろなパン屋があることもうれしい。

 移住してきた人たちも身近に多いという。

「東日本大震災をきっかけに移住したという人もいるし、5~6年前から住んでいる人や、たまたま同じ時期に同じ不動産屋さんを通して家を買った人を紹介してもらったり、けっこう周りに移住者の人たちがいて交流しています。やっぱり住みやすいから人が集まるんでしょうね」

自宅からすぐ近くの海に、家族そろって出かける。移住後の休日は、子どもと一日中、外で遊ぶのが定番だ

 こうした小田原暮らしの良さを、望月さんは「都会と田舎のハイブリッド」と表現する。

「ここに住んでいるうちに東京の人混みを完全に忘れてしまいました。普段の暮らしやリモートプラス通勤で考えると、小田原みたいに山も海も川も全部があるところはなかなかないと思うんですね。景色がよくて咲く花もすごくきれいで。移住を考えているならおすすめです。東京でいつも新しいものにふれていたいとか、おしゃれな最新のカフェに行きたいとか、最先端の洋服を買いたいとか、そういう体験はできないですけれど、それは都内に行ったときにできますし」

 夏には、ボードの上に立ってパドルを漕ぎながら水上散歩を楽しむマリンスポーツ「スタンドアップパドルボード(SUP)」にも挑戦したいと考えている。

(構成/生活・文化編集部 清永愛)


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