見出し画像

なぜ笑顔で「ハイ!」と返事をする部下ほどやる気がないのか?

 部下に仕事を指示したり、アドバイスをすると必ず「ハイ!」と元気な返事がかえってくる。それなのに、一向に仕事のスキルは上達しないし、やる気もどんどんなくなっているように見える。それは、リーダーであるあなたに「聴く」と「聞く」が足りないからかもしれません。
 米ギャラップ社認定ストレングスコーチ®としても活躍するSonos Japan日本代表の瀬戸和信氏は、チームメンバー全員と「強みの貸し借り」ができる「対話型リーダー」こそが最強のチームをつくれると言います。瀬戸氏の著書『「自分」を殺すな、武器にしろ』(朝日新聞出版/2020年12月)の一部を抜粋・改編して、部下が自発的に適材適所で動き、パフォーマンスを上げていくチームのつくり方についてお届けします。(写真:Gettyimages)

瀬戸和信著『「自分」を殺すな、武器にしろ』

■個々のメンバーの強みを引き出す「聴き方」と「聞き方」

 対話型リーダー。

 優れたリーダー像を一言で表現しようとすると、この言葉に集約されます。おそらく、これからの社会において重要なキーワードになると僕は確信しています。

 僕は、MicrosoftやFitbitなど主に外資系企業で7度の転職を経て現在が8社目です。これまでに出会った優れたリーダーたちはみんな、自身の強みと弱みを正確に把握しているのが印象的でした。自分が得意とするところは何か、そして、どうすれば自分の力を最大限発揮できるかを把握しています。

 一方で、自分が苦手とする分野、他にもっと得意な人がいる業務については誰を頼って任せればいいのかがわかっている。つまり「強みの貸し借り」を駆使しているのです。さらに、それを踏まえたうえで目標を達成するまでの計画を綿密に描いていきます。Microsoft の生みの親、ビル・ゲイツやAppleの共同創業者であるスティーブ・ジョブズとティム・クックも然り。彼らの「強みの貸し借り」は有名なお話です。

 僕は、「強み」に育つ前の、誰しもがもつ才能の萌芽を「才能のタネ」と呼んでいるのですが、チーム内で効果的な「強みの貸し借り」をするためには、リーダーが、メンバー自身が自分の才能のタネを見つける手助けをすることが欠かせません。自覚できている強みが増えるほど、チームの力も強くなっていきます。

 では、対話型リーダーを実践するためには、何が必要でしょうか。

 まず、何より大切なのは「傾聴」です。チームメンバーの言葉を、熱心に聴くことからすべては始まります。僕が世界最高のコーチとして慕っているギャラップ社のジェレミーから、こんな話を聞きました。

 たいていの上司は、部下の話を30秒も黙って聞いていられないものだ。部下が話しているのに、30秒と待たず自分が話しはじめてしまう。ときには相手の言葉をさえぎり、ときには人の話に割り込んでまで、自説を主張する。「ああ、その話はよくわかる。僕にも似たような経験がある」と体験談を披露したり、「それは失敗するからやめたほうがいい」と頭ごなしに相手のやる気を削ぐような発言をしたり。多くの人が、教えることが上司の仕事であり、リーダーシップであると誤解しているのです。

 しかしリーダーは、先生のように教壇に立つ必要はありません。チームとしての方向性を決定し、メンバーの考えや思いを明確にし、それぞれが学習したことを最大限に発揮できるように導く。これが本来の役割なのです。

「あなたは、いま、何を考えている?」
「どんなことに、ワクワクする?」
「あなたは、これから、どうしたい?」

 そんなふうにメンバーに問いかけてください。丁寧に質問してください。彼らの声を熱心に聴いてみてください。

■「答え」は与えず、引き出す

「聴く力」「質問する力」は、これからのリーダーに欠かせないスキルです。

 コーチの役割を担うリーダーは、メンバーに対して「答え」を提示しません。自身の経験則からわかっていたとしても決して結論を先に言わない。それは「答え」を提示しても、意味がないことを知っているからです。

 僕がこれまでに出会ったリーダーのなかにも、立場を利用した強制力で部下を動かそうとする人はいました。そういう人の下で、部下は一見従順な姿勢を示すのですが、実は、その場を切りぬけることしか考えていないものです。

「はい」と笑顔で返事をしていても、自分で考えていない「答え」を押し付けられているだけなので、どうしてそのように動くべきなのかを理解していないことが多いのです。あるいは、リーダーの命令通りに取り組みはするものの、その考えには納得できていなくて、手を抜くかもしれません。やらされ感のある仕事では、人は主体的に動かないものです。

「1カ月後までに売上を5%伸ばさなければならない。会社が決めた◯◯の施策を実行してくれ」と指示するのは、昔ながらのリーダー。

「1カ月後までに売上を5%伸ばさなければならない。なにか施策を考えておいてくれないか」と言うのは、普通のリーダー。

 僕が考えるこれからのリーダー、つまり対話型リーダーは、メンバーにこう問います。

「1カ月後までに売上を5%伸ばさなければならない。どんな施策が有効だろう?」
「◯◯さんが、過去半年間で行った、売上を伸ばすための施策や行動で、いちばん即効性のあったものは何?」
「チームの◯◯さんは、□□の施策が有効じゃないかと話していたけれど、キミはどう思う?」

 コーチの役割を担うリーダーが、メンバーに対して「答え」を提示しないのは、「"自分自身で気づいたこと"でなければ、人は動かない」という真理を知っているからです。

 話が脇道に逸れたように感じられたかもしれませんが、つまり、これはメンバーの強みを引き出す作業に等しいのです。それぞれが持つ強みを使って、自分自身の「答え」を導き出すことを促すのです。

■「話しても大丈夫」という心理的安全性を保つ

 ここで、対話型リーダーになるための"前提"についてお話しします。

 先ほど紹介したジェレミーは、僕に会うたびに"How can I help you? "と聞いてくれます。そこからは「僕はあなたを尊敬していて、あなたの力になりたいんだ」という誠実なメッセージを感じるのです。上から目線の「僕がコーチとしてあなたの能力を引き出してあげるよ」という姿勢は微塵もありません。

 さらに、もう1つ大切なのは、メンバーとのコミュニケーションの質。「この場では、何を話しても許される」「ネガティブな発言をしても嫌われない」という心理的安全性を保つことが必要不可欠です。

「こんなことを言ったら、低い評価をつけられるかな」「彼に本音を話したら、上役にまで話が筒抜けになるのでは」という不安を感じさせては、メンバーは心を開いてくれません。リーダーがメンバーにとってのコーチであるためには、両者のあいだに「信頼関係」が成立していなければならないからです。

 では、信頼関係を築くために、「コミュニケーションの質」をどうすれば高められるのか。僕が心がけているのは、次の2つです。

 1つ目は「聴く」質を上げることです。聞くことではありません。単に言葉を音として耳に入れるだけではなく、その言葉の奥にある心を十分に受けとめるのです。音楽を聴く、と同じように、相手の心をよく聴くことです。

 2つ目は、相手の「話す」質を上げることです。話してはいけない、と相手が遠慮や躊躇している話題がどんなことかを推測して、封じ込めずに話しやすくするのです。

 例えば、減給、解雇、セクハラ、パワハラ、仕事にも影響するプライベート(病気やお金、家族のことなど)といった繊細な話題だったとしても、「こんな話題もリーダーに話していいんだ」と思ってくれるような雰囲気をつくるのです。こちらから根掘り葉掘り聞くことは厳禁ですが、相手が話したいと思ったときに、どんなことでも話せる状態にしておくことが、信頼関係を築くための布石になります。

 良質なコミュニケーションを実現するためには、メンバーの話を聴く姿勢が重要です。さらに、コーチングで相手の話を聴くときは「この世には自分が理解できないことや、知らないことがたくさんある。自分自身が見えているのは、せいぜい全体の20%くらいだ」という前提に立ってほしいのです。「知らないから知りたい」「理解したいから教えてほしい」という気持ちを忘れないようにしてください。

■手がかかる部下に手をかける理由

 僕もまだ道半ばです。しかし日頃から、日常のささいな会話、仕事へのフィードバックを通して、「コーチング」を掛け合わせたマネージメントを行っています。

 たとえば、責任感の強いメンバーのEさんに、大事なプロジェクトの資料づくりを依頼したことがありました。締め切りの前日に進捗の具合が気になり、「Eさん、明日が当初約束していた資料提出期限だけど、いま何%くらいまで進んでいる?」と聞くと、「50%です」との返事がありました。

 これに対して、「明日までに間に合う? 大丈夫?」と聞くのは自然な流れかもしれませんが、ここでEさんは責任感が強いことを思い出してください。

 Eさんにとって、この質問はあまり意味がありません。なぜなら責任感が強い人の多くは、一度やりはじめた仕事に対して「NO」と言えないのです。ですので、「大丈夫?」と聞かれると、本当は大丈夫じゃなくても、「大丈夫です」と答えてしまいがちです。

 そこで僕は、少し質問を変えて、「例えば、明日提出するのと、もう1日後ろに倒して、あさって提出するのだったら、質はどのくらい変わる?」と聞きました。

 すると、「もう1日待ってもらえたら、予定通りに提出するより質は80%上がると思います。ただ実は、◯◯で悩んでいて、想定どおりに進んでいなくて……」と本音を話してくれたのです。

 このように、メンバーの特性にあわせて質問の仕方を変えることで、僕はメンバーの状況をより正確に把握することができています。

 対話型リーダーは、ビジネスの成果を最大化させるカギであり、チームメンバーの自己開発と成長促進につながります。

 多くのリーダーが人に任せられないのです。世界で活躍するリーダーですら、コーチの役割を持ったリーダーとして、その知識をマネージメントに生かせている人は少ない。それゆえに、ここに大きな価値があり、成功のチャンスがあります。

 対話型リーダーという価値観には、強くしなやかな組織をつくるヒントが隠されています。

(構成/猪俣奈央子)


この記事が参加している募集

#ビジネス書が好き

4,074件

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!