マガジンのカバー画像

ほんの記事

367
朝日新聞出版から発売されている本にまつわる記事です
運営しているクリエイター

#朝日文庫

「ヤバい日本救うために、世界に出てマクドナルドを見ろ」世界を飛び回る投資家が断言する理由

 10年ひと昔というが、この10年で世界も日本も大きく変わった。私自身も東京からシンガポールに住まいを移している。シンガポールに住むきっかけになったのは、議員時代に国父・故リー・クワンユー氏の名前のついた大学から招聘を受けたことに始まる。  アジアのリーダーとして、シンガポール建国の父として、世界に名をはせる故リー・クワンユー氏に個人的にお目にかかる機会を、私は三度もいただいた。率直な物言いで有名な氏から多くの印象的な直言をいただいた。 「君はタムラって名字か。確か政治家

同情や憐れみよりも「Yのような小学生が存在したという事実」に圧倒された ノンフィクション作家・山田清機が描くドヤ街「寿町」の今

 ある夕方、ひとりの青年が横浜市街を見下ろす公園の高台に腰をかけて、暮れてゆく街の景色を眺めていた。  所持金はほとんどない。食事をしていない。もちろん、仕事もない。高台に設置された水道で腹を満たしたら簡宿(簡易宿泊所の略)に戻るしかなかったが、戻ったところで何かが待っているわけでもなかった。  途方に暮れて、それでもとぼとぼと階段を下っていくと、下からひとりの女性が階段を上がってくるのが見えた。ふっくらとした体形の初老の女性である。妙に厚着をしている。  なぜか女性は

目の前にゴミをポイ捨てされても黙って掃除を続ける 世界一清潔な空港の清掃人の矜持

 羽田空港ターミナルの清掃員として働き始めてすぐのことです。  お客様が私の目の前にゴミをぽいっと投げ捨てて行きました。すぐそばにゴミ箱があるにもかかわらず。「お前が拾って当然だ」という態度です。そう考えてすらいなかったかもしれません。  清掃員はまるで召し使いか透明人間。そんなふうに扱かう人は少なくありませんが、そのような仕打ちをされても、清掃員は何も言い返すことはできません。憤りの感情は飲み込んで、黙ってゴミを拾い、清掃を続けます。  父親は第2次世界大戦の時に中国

誰も居ないコロナ禍の空港で、8年連続「清潔さ世界一」獲得の立役者である清掃人がはじめたこと

■誰もいない空港は怖いようなイメージ  1日に20万人ものお客様が訪れていた羽田空港から、人がいなくなりました。  コロナが始まった2020年。外国から飛んでくる飛行機が減っていき、羽田から海外へ飛ぶ飛行機もなくなりました。緊急事態宣言が出て、国内を移動する人もほとんどいなくなって、はじからはじまで誰もいない。でも空港は開けておかないといけないから、真っ暗ななかにポツポツと電気がついている。昼間でも薄暗くて、怖いようなイメージなんです。  私たちが出勤しても、お客様は誰

現代のねこブームを遥かにしのぐ江戸時代の「大ねこブーム」 熱狂ぶりがわかるグッズの数々

■ねこブームは、昔からあった!  現在は空前のねこブームともいわれています。テレビをつければ、たくさんのCMにねこが出演し、ねこをテーマにしたテレビ番組が毎週のように放映されています。書店に行ってみると、毎月のように新刊のねこ写真集やねこ本が発行され、「ねこコーナー」に平積みにされています。  少し前までは、大都市にしかなかったねこカフェも、最近では地方都市でも普通に見かけるようになりました。また、各地のデパートでは、写真家の岩合光昭さんの作品をはじめとする、ねこの写真展

車に轢かれ瀕死の母ねこが娘ねこの鳴き声に反応…ねこが声を聞き分けているこれだけの証拠

■ねこは、ねこや人の声の聞き分けができるのか?  ねこは、家のなかで一緒にすんでいる他のねこの声を、あるいは、ノラねこであれば、同じエリアに棲んでいるノラねこの声を、聞き分けることができるのでしょうか?  ねこは、日常の生活のなかでは、いぬほど吠えたり鳴いたりしません。どちらかといえば、もの静かな動物のイメージがあります。しかし、ねこも季節によっては非常に激しく鳴くこともあります。それを聞くことのできるのが、1月から3月頃の発情期です。寒い冬の夜空に響きわたる「アーオー、

ノラねこの必死の子育てに感動 動物学者が目撃し尊敬した母ねこの“強さと一途さ”

■母ねこは最強?  人間を含む一部の霊長類、それにキツネやタヌキなどは例外として、哺乳類のほとんどは、父親が子育てに参加しません。ねこを含めた多くの哺乳類は、母親は1ミリメートルにも満たない、とても小さな受精卵から胎児として成長するまで、自分のお腹のなかで子供を大切に育てます。  また出産後の赤ちゃんも、基本的に母親のみで授乳や世話を行い離乳させます。ここまで子供を育てるのに使った栄養やエネルギーは、すべて母親の身体から絞り出されたものです。  一方、離乳までに父親が提

47都道府県の居酒屋をめぐった太田和彦が感じた、外国にはない「日本の居酒屋」

 長い間、居酒屋を訪ねて日本中を歩いてきた。  すべての県はもちろん、毎年のように訪ねるところも。その旅が何十年も積み重なると各地の特徴が見えてくる。コンビニやチェーン店の普及で、駅前あたりは日本中どこも同じようになってしまったのはその通りだが、それゆえに裏通りで郷土色を残している古い店が、くっきりと浮かび上がってきた。  町の人口が増え、経済的、行政的に安定が生まれると、住む人がくつろぐ場所としての居酒屋が求められてくる。一日の疲れをとりながら、できごとを話し、互いの気

太田和彦が呑んだ“福岡” 日本一古いアーケード商店街「魚町銀天街」の名物居酒屋で味わう県民性

【福岡】ラテン気質と九州濃度  朝鮮、中国が近く、はやくから大陸文化とつながってきた福岡は開放的であることに慣れてきた。それはまた新しもの好き、熱しやすく冷めやすい、目立ちたがり屋の性格をつくった。祭や芸事の盛んなところで、熱中する気質を「博多のぼせもん」と言う。  よってもって福岡出身の芸能人は多い。郷ひろみ、井上陽水、鮎川誠、武田鉄矢、氷川きよし、藤井フミヤ、梓みちよ、中尾ミエ、山本リンダ、松田聖子、小柳ルミ子、仁支川(西川)峰子、浜崎あゆみ、タモリ、小松政夫、イッセ

太田和彦が“居酒屋がない”と嘆いた大阪がこの10数年で劇的に変化した理由

【大阪】ルネッサンスがおきた大阪居酒屋  日本で最もポピュラーな県民性は大阪だろう。  見栄を張らずに本音で生きる。「がめつい」と言われようが儲けてナンボ。ボケとツッコミ、理屈より笑い。のらりくらりした大阪弁は脱力感も説得力もある。  東京人「それでよろしいか」  大阪人「そな白黒つけたらあきまへんがな、まあええでっしゃろ、ここはあんたの顔もたてなあかんさかい、ええようにしといてや、ほなさいなら」  これでは勝負にならない。  また大阪は「天下の台所」として日本中

太田和彦が呑んだ“愛知” 居酒屋のない町の日本一の居酒屋とは?

【愛知】居酒屋のない町に日本一の居酒屋が  関東と関西を分かつのは愛知県豊橋あたりで、ここを境に味の好みが変わる。  麺類(関東は蕎麦/関西はうどん)、出汁(関東は鰹節/関西は昆布)、基本調味料(関東はなんでも醬油/関西は薄口醬油と酢)、味噌(関東はしょっぱい赤味噌/関西は甘い白味噌)、香辛料(関東は七色唐辛子/関西は山椒)、葱(関東は白いところ/関西は青いところを使う)、鰻(関東は蒸して焼く/関西は直焼き)、寿司(関東はにぎりで主役はまぐろと小肌/関西は押し寿司で主役は

内田也哉子さんが「人生46年目にして私の前に現れたのは、紛れもない奇跡だ」と絶賛する書籍とは

■言葉と沈黙のあわいに 内田也哉子  決して大げさなんかじゃなく、私に日本語の美しさを教えてくれたのは、谷川俊太郎さんだ。幼い頃、おもちゃの存在しなかった我が家には、キッズフレンドリーなものといえば唯一、絵本が数冊あっただけ。おのずと、すりへるほど読み込まれたその絵本の翻訳者が谷川さんで、原作者は、平凡な日常の滑稽さや、人間の孤独をテーマにした不条理劇を代表するウージェーヌ・イヨネスコだった。不気味な明るさと不穏な空気を合わせもつ家族を描いた『ジョゼット かべをあけてみみで

太田和彦が呑んだ“東京” 江戸っ子は「粋」を気取るが酒には弱い、東京居酒屋の魅力とは?

【東京】江戸っ子の飲み方  人口も都市規模も格段に大きな首都東京は日本一の居酒屋都市だ。特色は、長い歴史をもつ古い店が特に下町にたくさんあること。その反対に最も新しいスタイルの居酒屋があること。そして日本各地の地酒を並べた銘酒居酒屋が多いこと。それはブランド好きゆえで、東京の客は酒にうるさく、知ったかぶりの一家言が多い。  そのうえで特徴は、あまり料理料理しない小粋な肴をよろこぶ。せっかちな江戸っ子は注文したものがすぐに出てこないと機嫌が悪く、料理に凝るよりは味のはっきり

太田和彦が呑んだ“北海道” 炉端焼が基本で何よりもビールが旨いワケ

【北海道】ビールと炉端焼  明治から本格的な開拓の始まった北海道は、農業の歴史が浅く、米が恒常的に収穫できるには年月がかかった。そのため日本酒生産が始まったのも遅い。しかし近年は安定した米生産地になり、地元米を使った吟醸酒なども作られるようになった。  一方、明治9(1876)年、官営の開拓使麦酒醸造所として始まったビール製造は、薩摩藩英国留学生としてロンドン大学に学んだ村橋久成の指揮により、農産物加工の近代産業として発展。日本のビールの歴史は北海道にあり、居酒屋はビール