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不勉強を勉強する旅~九州北部・中国・近畿 #くるま旅日記

 観光は歴史を学習していなければつまらない。知らなければ、目の前の景色は時間という奥行きのないただの絵にしかならないから―。天草、島原、小倉、唐津、鍋島…少しでも学習していると、見かけた地名やかつての藩の名が、具体的なイメージを伴って私の記憶に刻まれる。旅は、十年前の自分がするよりは面白く、けれど、十年後の自分の方が分かることは多いに違いなかった。自分の不勉強さを痛感し、それがまたいい勉強になった。

 そしていよいよ、念願だった関門海峡の地下トンネルを徒歩で渡り(車を取りに一度戻ったが)、中国地方の旅が始まった。山口県ののどかな河川敷でしたキャンプでは、パートナーのりゅうちゃんのすぐ伸びる髪をハサミとバリカンで切った。りゅうちゃんはそのまま川に飛び込んだ。とても暑い日で、切っている間私の腕は沖縄にいる頃より日焼けした。

 広島では、はじめて原爆ドームと資料館を訪れた。今まで幾度も習ってきたはずの原爆投下という出来事が、亡くなった方の遺品や写真というリアルを目にしたとたん、とても信じられないような、悲惨すぎてかえってリアリティが失われていくような気持ちになった。呉市の大和ミュージアムでは、この地に天然の良港があったために帝国海軍の拠点となり、数多の軍艦が海に沈められ街は焼かれたのだと知り、梅雨空の合間の日差しに光り輝く港を前に呆然となった。

 悲しい歴史だけではなく、物流や貿易の拠点として栄えた尾道水道のかつての様子を想像するのは楽しかった。個人的に広島は、様々な角度から想像を膨らませていろいろに思いをはせることのできる、豊かで面白いところだった。

 近畿に移ると、都市部のあまりの規模に別の意味で呆然となった。各駅を拠点とした賑わいと、商店街や、見目かたち・行動様式様々な人々が作り出す猥雑な空間はおもしろかったけれど、空気の悪さや、誤魔化しばかりの売り物に辟易した。一方、人口密度の高い街では自転車に乗る人がとても多く、スイスイと街をすり抜けるその身軽さに憧れが募った(車中泊旅では何をするにも駐車場を探し回らなければならないしんどさも手伝った)。次にどこかに住んだら、タフな自転車が欲しい。
 
写真:松の葉のすき間に朱色が美しい厳島神社の大鳥居。


*あさひかわ新聞 くるま旅日記「果報をたずねて」② (2023/06/20掲載)



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noteに書ききれなかった書下ろしモリモリの書籍となっているので、ぜひ見てみてくださいね♪



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