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草生す線路にもときめく夏~北海道編① #くるま旅日記

 お城の街・弘前を出て、大間港から車と一緒に函館へ渡り、パートナーのりゅうちゃんより一足先に夏の旭川に帰ってきた。やはり、夏の晴れた北海道はすばらしい。オオハンゴンソウの黄色とエゾニュウの白が青空を背に揺れる一本の線路、それだけでドラマティックな気がしてわくわくする。どこの街にもある景色かもしれないけれど、石北本線のこの線路は、一両だけの電車に乗って毎日東高校に通った道だから、やっぱり特別だ。

 車中泊旅を初めて三ヵ月、ずっと貯金を切り崩す生活だったので、実家にいる間は少しでもお金を稼ぎたくて、農家さんやラーメン屋で単発のアルバイトをした。以前勤めていた旭川市市民活動交流センターにも、再びお世話になった。

 かつての職場で夜まで勤め、当麻の家へ帰宅する道のりの運転は、沖縄へ引っ越す前の生活をなぞるようでとても不思議な気持ちになった。あの頃は、今以上に自分の軸が出来上がってなくて、熱い気持ちを注ぐべき対象もなく、すがるように沖縄へ行くことだけに希望を持っていた。今も、他人から見たらふらふらと漂っているように見えている自覚はあるけれど、自分が大切にすべき人とものと、そして大切にしてくれる存在がはっきりしていることで、あの頃よりは「何とでもなるさ」と前向きに思えている気がする。どっちに転んでも、自分らしく転ぶしかないことを分かっている、という感じ。

 私の中で、この旅は、旅そのものが目的ではないという気がする(それは、今になってそう感じるということだけれども)。私とりゅうちゃんは、お互いに故郷から遠く離れた南の島で知り合った。だからこの旅は自ずと、各地にいるそれぞれの友人や家族、そして故郷を紹介し合い、互いにとって大事なものを伝えあいながら、同時に自分でも改めてそれを再認識し、その上で、この先どうしていくかを考える時間になったのだろう。

 弘前のねぷた祭りが終わって、北海道でりゅうちゃんと合流した。今度は晩夏の北海道をぐるりとまわることになる。旅を終えた後のことを決めるまでの時間は、もうそんなに残されていないかもしれない。

*あさひかわ新聞 くるま旅日記「果報をたずねて」④ (2023/08/19掲載)



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