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少女とワタシと動画配信アプリ

「あー、疲れたー」
 仕事から帰ってきたワタシは、カバンを投げ出し、上着を椅子の背もたれにひっかける。そのまま、ドカリと椅子に身を沈めた。
 コンビニのビニールから、温めた弁当を取り出す。割り箸を乱暴に、割って弁当を掻きこんだ。
「飽きてきたな」
 最近は似たような弁当しか買っていない。食べる気も失せようというものだ。


 弁当を適当なところまで食べると、ワタシはテーブルの上に置かれていたタブレットを持ち上げた。ティッシュ箱に立てかけて、動画配信アプリをタップする。
「タブレット買い換えないと。高いんだよな」
 タブレットは動画を見るか、ソシャゲをするか。そんなくらいでしかつかていない。
 しかし、何年も使えば劣化するものだ。このタブレットも消耗していた。電源を抜くとすぐに充電がなくなってしまうのだ。まぁ、持ち歩くこともないので、今のところ不便はしていない。
 買い替えることも面倒なので、放置だ。


 なにか面白い動画はないかな。
 画面をスワイプするが、似たような動画しか出てこない。
 おすすめ動画も関連動画も、いつかみたようなものばかりで見る気が起きなかった。
「はぁ、つまんね」
 指が惰性で画面をスワイプしていく。
「あれ?」
 一つの動画が目に止まった。
 タイトルは「少女」 サムネイルは真っ白だった。
「なんだこれ」
 気になったので、タップしてみる。動画が始まると少女が一人、画面に現れた。
「へぇ」
 美しい少女が一人、微笑みながらこちらを見つめてくる。
 ただそれだけ。BGMも音声もない。字幕が出ることもなかった。
 ただただそれだけの動画なのに、眼が離せなくなる。


 ワタシは、動画を見続ける。微笑む少女と目線を合わせてただひたすらに見つめ合う。
 美しい少女と見つめあっている。ただ、それだけのことが嬉しくてたまらない。
 ワタシはいつまでも、少女と見つめあっていた。

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