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少女とワタシと絵葉書

 ワタシの仕事部屋には一枚の絵葉書が飾ってある。
 シンプルな額縁に入れて、仕事机の隅に置いてある。
 美しい少女が描かれた絵葉書だ。
 差出人は、古い友人である。


 友人とは中学校からの付き合いだ。
 メールでのやり取りを経て、最近ではスマホのメッセージアプリを使って交流している。
 遊ぶ約束だとか、好きなアーティストの新曲の情報だとか、日々のちょっとした愚痴だとか。ごく普通のやり取りをしていたと思う。


 そんな日々の中、ある日突然、友人から絵葉書が届いた。
 よくワタシの住所を知っていたな、と思う。
 振り返ってみれば、このマンションに引っ越してきたときに、住所を教えたような気もする。
 それも何年も前だ。よく、住所を覚えていたなと感心してしまった。


 絵葉書には、美しい少女とメッセージが書かれていた。
 絵葉書に書かれた言葉は一言だけ。

「会いにいってくる」

 ワタシは、首を捻った。だれに会いに行くのだろうか。その短い言葉だけでは誰のことだか、ワタシには検討がつかなかった。
 普通、絵葉書とは旅行先の景色だとか、季節の風物だとかそういうものを書くのだと思う。
 葉書に描かれているのは見知らぬ美しい少女である。
 まるで、この少女に会いに行くかのようではないか。


 それから、ワタシはなんとなくこの絵葉書を仕事机の上に飾っている。
 一人暮らしのマンションである。誰に見られるともない。
 しかし、ワタシはこの少女を誰にも見せたくなかったのだ。誰にも見せてはいけないような気がしたのである。
 仕事をしているとき、部屋に入ったとき、ワタシは気がつくと絵葉書を見つめている。
 かすかに微笑んでいる少女から眼が離せない。


 この少女はどこにいるのだろう。
 どんな声をしているのだろう。
 気がつくとワタシは少女の絵葉書を手にとって、じっと見つめていた。
 少女を見つめて、少女について夢想している。
 夢想はどんどんリアルになっていて、あと少しで少女の声が聞こえてきそうだった。


 友人は絵葉書をどこで手に入れたのだろうか。
 気になって友人にメッセージを送ってみる。
 一分経って、一時間経って、一日経っても既読にならなかった。
 そういえば、絵葉書が届いてから友人からの連絡は途絶えたままだ。
 友人から情報が得られないとなれば、ワタシも少女を探すしかないではないか。


 絵葉書の少女はどこにいるのだろうか。

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